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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
2と2分の1章

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174.3-8「兄と弟」

 キラは自分の中でも沸き立つものを感じてニヤリとし……、

「キラ! なにやってますの!」

 軽く構えたところで、轟く美声に目を白黒させた。

 一連の攻防に盛り上がりを見せていた野次馬たちも、ぽかんとして静まり返る。恐ろしい顔つきをしていたレナードも、まるで別人のように気の抜けた顔つきを見せる。


 だからこそキラは、あまり振り返りたくはなかった。誰がどんな顔をしているのか、周りの雰囲気だけで察してしまったのだ。

 だからといって無視するわけにもいかず……恐る恐る振り返ると、焼けた手すりの近くにリリィが立っていた。

 彼女の纏う空気といったら。

 周りを配慮してか怒り狂うのをなんとか抑え、燃え盛る炎を押さえ込んでいる。が、我慢の限界なのか、熱気で空気が歪んでいる。


「あぁー……なにしてるかっていうと……迷ってた」

「だから気をつけてと申しましたでしょう! まさかと思って来てみれば! 案の定学校に迷い込み、挙げ句の果てにはトラブル!」

「あぁー……ごめんなさい」

 それ以外に言葉が見つからず、素直に頭を下げた。すると、その拍子にふらっと体が傾き――ビュンッ、と高速の勢いで近寄って来たリリィが、優しく受け止めてくれた。


「全く……! 大火傷に無数の怪我。この代償が痛みと治療だけなわけがないでしょう。やっぱり、王国騎士軍の見学はまた今度に……」

「ええ……! 楽しみだったのに……!」

「では、今度こそなにもしないと約束してくれますか?」

「うん……。というか、今回は不可抗力だよ。そのレナードって人が最初にふっかけて来たんだから。――あと、さりげなく背負うのやめてほしい」

「ダメです」


 リリィの背中でむうっと唇を尖らせるも、キラは無抵抗に身を預けた。断ればなんと言われるか分かったものではないというのもあるが……単純に、体から力が抜け落ちていた。

 エルトに唆されて筋トレをした時も思っていたが、明らかに体力が落ちているのだ。

 なんとか手を打たねばと唸り……そこで、いまだにぽかんとしているレナードの顔が映り込んだ。


「……君、ラザラスさんの息子?」

「!」

 わかりやすく驚く様子に、キラは吹き出してしまった。

「笑ったとこがちょっと似てたから……。あれ……でも、そうなると……?」

「大丈夫ですわよ、きっと。――お久しぶりですわね、レナード殿下。このような格好で失礼いたしますわ」


 レナードも、ようやく急変した事態に頭が対応し出したらしく、次第に間抜けな顔つきに正気が戻り始めた。

 そうして、偉そうに胸を張りながらも、どこか気後したような顔つきで頷いた。

「あ、ああ。お元気そうで何より……リリィ・エルトリア殿」

 良くも悪くも、レナード・エゼルバルド・エグバートの声は響いた。

 はためくようだったざわめきが、一気に加速した。ざわめきが喧騒となり、黄色い声が黄色い声を呼び……一階も二階も、中庭を見ようと身を乗り出す生徒たちで溢れるようになっていた。


「先の戦争では大変活躍してくれたものと、父上から聞き及んでいる。こんな場であるが……礼を言いたい。ありがとう」

 随分と素直でまともなレナードに目を丸くしているうちに、リリィが小さく首を振る。

「全てはここにいるキラのおかげですわ。最大の賞賛は、彼にこそ相応しいものです」

「ああ……。その……そういった事情も、全て父上から。通りであの強さなわけだ……すまなかったな」


 レナードに最後に向けられた顔と言葉に、キラはむずむずとした。

 先程の勢いのある声と比べると、今の口調は悪い意味で覚えがあるものだった。

 目を合わせようとするも泳いでしまう目つきも、悔しさを噛み締めるような顔つきも……全部、エリックと似通っていた。


「ラザラスさん……君のお父さんは、強い人だよね。戦ってるのは見たことないけど」

「あん……?」

「で、よく笑ってる」

「それが……どうした」

「真似してみれば? そしたらきっと、あの人がよく笑う理由を理解できる気がする」


 なんとなくであり、口から出まかせのようなものではあったが。

 口をつぐんで目を見開くレナードの表情を見て、キラは確信した。

 彼もまたもがいているのだ。おそらくは、偉大な国王にして父ラザラス・エゼルバルド・エグバートに追いつこうとして。

「まあ……。考えてみらぁ」

 そっぽを向いて言うその姿に、キラは安堵した。




 竜ノ騎士団”元帥”リリィ・エルトリアがいると知った”王立都市大学”の生徒たちは、それはもうはしゃいでいた。

 彼ら彼女らの興奮はまさしく好意や憧れからくるものであり、リリィも無碍にすることはできず……キラとしてはありがたいことに、自分で歩いて図書館を出ることになった。

 そんなこんなでようやく馬車に戻り、リーアムが再びその腕を振るい出してくれたところで、リリィがぽつりとこぼした。


「正直にいって……。キラとレナード殿下はソリが合わないと思っていましたわ」

「あれ、そうなの?」

「ええ。こういってはなんですが……レナード殿下は荒れていると言う話でしたから。キラってば、意外と負けず嫌いで突っかかる癖もありますし……実際、常に上から目線でしたし」

「う……。だって、ラザラスさんの息子ってことは、王子ってことでしょ? 周りは下手に注意も助言もできないし……その上あの荒れよう。優しい言い方しても無駄だったと思う」

「……まあ、確かに劇薬は必要でしょうね」

「意外と肯定するんだ」


 キラはリリィと顔を合わせて笑い……ふとした疑問を投げかけた。

「ラザラスさんの息子なのに、なんであんなにねじ曲がった感じになったんだろ?」

「わたくしもそこまで親しいわけではありませんから。キラの方が多く気づいたのでは?」

「え……? エリックみたいだったってこと?」

「そう感じましたの?」

「ん、うん、まあ……。体格がよくて、筋肉も無駄につけるくらいに努力してるのに、力量はそこそこだったから」


 見た目も立場も状況も、何もかもが違っていたが……。あの荒れた状態だけは、かの行方をくらました少年と通ずるものがあり、だからこそキラも放っておけなかった。

 セドリックもドミニクも、エリックが自分の正義に沿って行動を起こしたに違いないと確信し、キラも同意見ではあるが……あの結果が最善だったと思えなかった。冷静になって考えれば考えるほどに、もっとやり方があったのではないかと考えてしまう。

 そうはいっても、今回もレナードのためになることをしたかと聞かれれば、戸惑ってしまうが……。

 キラは思わずため息をつき、そこで同じようにして息をついているリリィと目があった。


「……いっておきますが、レナード殿下はすでに王国騎士軍の内定が決まっていますのよ。コネなどではなく、自力で合格を果たしているのです」

「あれ……そうなの? でも、ジャックとかヴォルフみたいな強さはなかったよ」

「実践経験が違いますもの。魔法の使い所と緩急、攻防のタイミングは、戦いの中のみで磨かれるもの。……そういった実力者を相手に、魔法なしで立ち回れるキラがおかしいのです」

「ええ……?」


 困惑する顔がよほど面白かったのか、ため息をつきがちだったリリィの顔に笑顔が溢れる。

 その可愛らしさの生まれ方に複雑な気分になり、キラは話を強引に進めた。


「あのレナードって人には、お兄さんがいるの? そんなことをチラッと耳にしたけど」

「ええ。リーバイ殿下のことですわね。あの方も”王立都市大学”に通っていて、今年度で卒業のはずですわ。ですから……来年には王宮に勤め始めるはずです」

「それもコネとかじゃなくって?」

「ええ。大学では学業も剣術も魔法も平等にトップクラスの成績を誇っていると言う話ですわ。一度、竜ノ騎士団にスカウトしようと言う話もあったほどですの」

「へえ……。でもその割には、褒めてる顔じゃないね?」


 キラはリリィの表情を見て、素直に問いかけた。

 レナードのことを話す時もリーバイのことを話す時も、特に二人のことに入れ込んだ様子はなかったが……リーバイについて話すと、自然と眉間に皺ができていた。


「そのようなつもりはなかったのですが……」

 おそらく、自分でもしかめ面になっていたのに気づいていないのだろう。困惑した表情となり……しかし、やはり眉間には険しい溝が刻まれていた。

「ただ……これは絶対に内密にしていただきたいのですが、あまりわたくしはあの方をよく思っていませんの。なぜかは、自分でも計りかねますが……。実際、騎士団へのスカウトはわたくしが止めたようなものですし」

「リリィでもそんなことあるんだ? 僕が会ったら、また喧嘩になりそう」

「……普通、罪になりますからね? レナード殿下は特に言及せずに見逃してくれましたが、リーバイ殿下はそう言うわけにはいきませんからね?」

「んー……気をつけるよ。相手によるけど」


「もう……。だいたい、なぜレナード殿下と手合わせをすることに?」

「だって、ヒョロガリって。女の人がわりとズケズケいってたのに、標的にされたし。態度も悪かったから、イラッときてさ」

「キラもキラですわよ……。きっと、レナード殿下がラザラス様の御子息であると、最初から気づいていたのでしょう? もう少し穏便にことを済ませれば、あのように大ごとには……」

「王子に相応しい振る舞いを見せてたら……そういう気概を見せてたら、確かに話は別だったよ」

「意固地ですわね」

「じゃあ、ラザラスさんとレナードを比べて、どう思う?」


 リリィが困ったように微笑み、答えは口にしなかった。

 キラは意地悪が過ぎたかもしれないと思い、綺麗な青い瞳から視線を外して、話を変えた。


「それでさ。記憶喪失について調べるって話だったけど、何かいいことわかった?」

「それが……あまり有益な情報なありませんでしたの。記憶を失うきっかけや、これに類似する症例などは色々とありましたけど……。『体に記憶が残る』だとか『”以前の自分”の気配を感じる』だとか、そういった記述はありませんでしたわ。そもそも、患者の証言を記した文書もあまりありませんでしたし」

「そっか……。まあ、珍しいことなんだし、仕方がないよ」

「ちょっと前から思っていますけど……キラって、あまり記憶に執着がありませんのね?」

「うん、まあ……。ランディさんやリリィやセレナのおかげだよ」

「?」


 はて、と首を傾げるリリィの様子が可笑しくて、キラは笑ってしまった。

 彼女は顔を真っ赤にして怒り、しつこいくらいに距離を縮めて問い詰めて来たが……その様子すら面白くなって、キラは詳細を明かさないでいた。


  ◯   ◯   ◯

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