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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第2章

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エピローグ:エピソード・シス

「オイ、シス! テメェ、手抜いてんじゃねえだろうな!」

「細マッチョオーガ――一体誰にモノを言ってイル!」

「その妙なあだ名やめろ! どう考えても長いだろ!」

 ブラックとロキがエマール領から去ったのと同時刻。

 シスは緊急に駆けつけた竜ノ騎士団第一師団”師団長”ヴァンと共に、ロキを追い詰めていた。


 厄介なのはロキ本人ではなく、”操りの神力”で生み出した五体もの巨大ゴーレム。

 最初の数手でこれを共通認識とし、即座に役割を分担して共闘体制を取った。

 ”身体強化の魔法”に特化したヴァンが先行し、その自慢のパワーから繰り出される強烈な大剣の一振りでゴーレムを粉々にし。

 粉々に砕け散ったゴーレムの体を、シスが”不可視の魔法”で操ることにより、”操りの神力”による再生能力を削る。と、同時に他のゴーレムへの牽制にも利用する。


 即席の作戦にしては上出来な成果を挙げていたが、やはりゴーレムの再生速度は突き抜けていた。

 なかなかゴーレム群を突破することができずにいたが……。

「っしゃ、どうだコラ! 全部ぶっ壊してやったぞ!」

 トライアンドエラーを繰り返し、白シスとヴァンは互いに愚痴を言い合いながらも、ついにロキの元まであと一歩というところまで迫った。


「んー、それはどーかなー」

 ただし、その”あと一歩”が遠かった。

 ゴーレム群に守られ最後尾にいるロキは、巨岩の怪鳥に乗っているのだ。

 これこそが、いまいち詰められなかった理由だった。姿を見ることができたと思ったら空高く舞い上がり、これを追おうとする間にゴーレムが再生しきってしまう。

 巨大な操り人形をかけあがろうにも、ロキはこの隙を逃さず怪鳥から攻撃してくる始末。

 だからこそ、この一度のみが最大のチャンスだった。


〈僕もちゃんとフォローしますから、頑張ってくださいよ〉

「チッ……まさかコンナ手を使う羽目ニなるとはな」

 シスは頭の中に響くもう一人の自分の声に思わず舌打ちをして、先を走るヴァンの背中へ叫んだ。


「細マッチョオーガ、合わせろヨ!」

「だから――だあっ、わぁったよ! そら、さっさとやれ!」

〈まったく、ほんとにソリが合わないんですね。同じ僕なのに〉

 仲の悪さは理屈ではない。そう内なる自分に叫びたかったが、白シスも流石にそんなことを考えている余裕はなかった。


 ”不可視の魔法”でヴァンをつかみ、上空のロキへ向けて思いっきり投げつける。

「――よぉ! やっと挨拶できるなぁ!」

「だったらー、たたきおとーす」

 ヴァンがロキの目の前に至るまで”不可視の魔法”でフォローし、その様子を目視してから白シスはぶつぶつと唱えた。


「”我を、座標へ送れ”」

〈距離五十四、角度六十三〉

「”無陣転移”」

 ぐんっ、と。

 体を引っ張られるような感覚と共に、一瞬にしてロキの背後を陣取る。


「――!」

「ようやく、焦リがミエタ」

 ロキは、目に見えて硬直していた。

 それはほんの一瞬の出来事であったが、これを見逃すはずもなく。動こうとするローブ姿の体を、”不可視の魔法”でがっちり掴み取る。


 そうして、

「もらった!」

 大剣を掲げたヴァンが、思いっきり体を捻って振り抜いた。

 ざんっ、と。容赦のない一振りがロキの胴体を真っ二つに掻っ捌き……。

「あん……?」

「ナルホド――やはり、ハズレか」

 真っ二つになったロキが、灰のようになってパラパラと散っていった。

 



「悪りぃが、俺はいまだに理解できてねぇんだがよ。結局何があったってんだ」

「何が、と言われましてもね。見ての通り、エマールに逃げられたという話です。エマール領解放には成功しましたが」

 ”操りの神力”の影響がなくなったせいか、あたりは土埃で一杯になるほどの土塊や岩や砂の入り混じった山がいくつも出来上がっている。

 ヴァンは面白くなさそうにそのうちの一つの頂点で座り、マントを黒く染め直したシスはその麓で見上げていた。


「しかしまあ、ヴァンさんが応援に来るとは思いませんでしたよ。もう少しかかるものかとヒヤヒヤしていましたが……正直、助かりました」

「ようやくウチんとこも復興の目処が立ったんでな。その報告と”転移の魔法陣”の動作確認の意味も込めて本部に向かってよ。で、ついでにエルトリア家の方に顔を出してみたんだが……そこで妙な騒ぎを目にしてな」

「……騒ぎ、ですか」

 嫌な予感がしながらも、何も応えないというのはおかしい気がして、シスは渋々合いの手を打った。


「誰だかが行方不明だとかでよ。驚きだぜ、ありゃあ――なんたって、”元帥”二人がドレス姿でてんやわんやしてんだ! 面白えのなんのって!」

 いじけた雰囲気はどこへやら。ヴァンは身振り手振りで驚きを伝えると同時に、顔面全部で面白がっていた。

「……あとで問い詰められた時、ヴァンさんも巻き込んでしまいましょう」

〈ゲスか〉

「んん? なんか言ったか?」


 シスは脳内に響く声を無視しつつ、にこやかに首を振った。

「いいえ。ただ、王都でどういう騒ぎがあったか、僕も一応は知ってるので」

「んだよ、知ってたのか。しかし、あれだな……あん時の少年が、まさか戦争を終わらせるなんてなあ。マジで驚いたもんだ、こっちも」

「ああ、その話、やっぱり本当なのですか? 本部からざっと聞きはしたのですが……いまいち現実味がなくて」

「らしいぜ? だから俺も駆り出されたんだよ。お前から連絡があって、少年がエマール領で無茶したって話聞いて……問答無用で。お前、ほんとトラブルメーカーな!」


 ゲラゲラと笑うヴァンに、シスは鼻を鳴らしていった。

「全くもって心外なのですが。今回ばかりは、僕の活躍が光ったといってもいいでしょう」

「自画自賛かよ! まあ、俺ぁともかく……報告がてら王都で羽伸ばしてたレーヴァも巻き込んだんだから、後で礼言っとけよ」

「おや。では、案外いい人選ができたということですね」

「もうちょいネガティブを知れ」


 ため息をつくヴァンに首を傾げつつ、シスは話を変えた。

「そうだ、ヴァンさん。実は色々と帝国について情報を得たのですが……」

「ん? そういや、そっちについてもゴタゴタしてたな。帝国に嘘をつかれただとかなんとか……」

「おや。嘘、とは?」

「お前がそうやって聞くとは、珍しいな。――つっても、ここ数日のことだし、お前もお前でゴタゴタしてただろうから、無理っちゃ無理か」

「はあ。それで、帝国に嘘をつかれたとは……?」

「ロキだよ。ラザラスの爺さんが書簡を送ったところ、『ロキは現在取調べ中』だとかなんとか返されたらしい。だが、実際には……」

「ここエマール領で脅威となっていました……。しかし、ロキは複数人います」

「あ? んだって?」


「カラクリは分かりませんが、まるで分裂したかのように僕達の行手を阻んでいたんです。だからエマールを取り逃してしまったというか……」

「そんじゃあ、まるっきり嘘でもねえ、ってことか?」

「でも……」

「うん?」

「ブラックが現れて、ロキと対峙したんです」

「ああ……? いまいち混乱しちまうが……。仲間割れなら、帝国でもできるわな」

「ええ。ブラックがロキを追いかけたためにエマール領に現れた……という形なら、言い換えれば、本物のロキは帝国にはいないということになります」

「どっちにしろ、面倒くせえこった。帝国を問いただしても、正直な返事が帰ってくるとも思えねえ」


「それが……いえ、待ってください。ロキについて、帝国が答えたのですよね――ならば”軍部”が関わっている可能性が高いのでは?」

「ああ、確かに帝国”軍部”から返事が来たらしいが……」

「であれば、まだ真偽を確かめる術はあります。帝国内は派閥争いが激化しているそうですからね……今回の”嘘”とやらも、”軍部”の独断ということだってあるでしょう」

「嫌に帝国に詳しくなってんな……?」

「道すがら、何があったかお教えしますよ。とにかく、早いところ王都へ戻りましょう。――っと、その前に、リリィ様に連絡しなければ」

「としたら、俺ぁようやく到着するだろう部隊に命令を出してくる。この惨状、騎士団としても到底放っておけねぇからな」

「では、僕は一足先にグレータに向かってます。そこで合流しましょう」


 手を振って瓦礫の山からものすごい跳躍力で跳んでいくヴァンを見送り、シスは「あ」とつぶやいた。

「そういえば、”竜人族の血液”、エヴァルトさんの手元にあるんでしたっけ」

 すっかり忘れていた重要事項を思い出して、目まぐるしく脳みそを回転させる。するとそこへ、頭の中に響く声がアドバイスした。


〈避難誘導の時、あのポッチャリ市長に管理を任せてたろ。王国と手を組みたい、だったか……どうせ接触してくる〉

「それもそうですね。――しかし、困りましたね」

〈何がだ?〉

「リリィ様への報告……絶対小言まみれになりますよ」


 この後。

 キラが”隠された村”の危機を救ったと聞いて。

 下手に『悪い予感は当たるものですね』と口にし、さらに肝心のリリィが少し酔っていたために、小言で済まないほどの説教を喰らうこととなった。


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