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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第2章

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エピローグ:エピソード・エヴァルト

 ブラックとロキの戦いの余波で、”貴族街”はもちろん”労働街”もメチャクチャとなっていた。

 家屋は当然のように倒壊し、更地になっている場所もあれば、不自然に積み重なっているところもある。”境界壁”などは、もはや壁とも言えないほどにグズグズに崩れ、ただの瓦礫の山と化していた。


 そんな変わり果てたエマール領リモンで、エヴァルトは傾きかけた家屋の屋上でセレナと並んで立っていた。

「――どうやら、終わりそうですね」

「せやな」

 キラとリリィが反乱軍と合流し、”隠された村”に戻った時。

 エヴァルトはセレナとともに、”貴族街”で勃発した”授かりし者”たちの戦いを眺めていた。


 街の中心を陣取る”城ゴーレム”に、これを守るかのように飛び回る二羽の巨岩の怪鳥。これに相対するは、”貴族街”上空を真っ黒に染める”闇”。

 最初こそ拮抗していた二つの”力”だったが、徐々に力の差が出始めた。

 無限に力を供給する”闇の神力”に対し、際限はないものの再構築という手間を必要とする”操りの神力”。その差が、時間が経つごとに如実に現れたのである。

 崩壊した均衡を、今まさに”闇”がくらい尽くそうとしているところであった。


「では、こちらも決着をつけましょうか」

「おお、おお……恐ろしいこっちゃ」

 竜ノ騎士団”元帥”にして、メイド服姿の赤毛のセレナ。彼女はそれが常であるかのように、一つとして表情を崩すことがない。事実、”授かりし者”たちの凄まじい戦いを目の当たりにしても、眉一つ動かさなかった。

 彼女自身、いつでも目の前の人間離れした戦いに介入できるのだという証だった。


 それほどの力量を持つ魔法使いであることを、エヴァルトは知っていた。

 だからこそ、警戒は解かず、しかし飄々として言葉を並べる。

「もうちょい肩の力抜こうや――せっかく、そちらさんにとってもエエ話やのに。そないに邪険にされたらたまらんやんけ」

「ではもう少し普通に話してはどうでしょうか。帝国スパイのエヴァルト」

 棘のある言い方に、一つとして視線をよこさない冷酷さ。

 エヴァルトは肩をすくめながらも、若干焦りを感じていた。正体を明かすのは、もう少し話を進めてからの方が良かったかもしれない、と。


 彼女が……セレナ・エルトリアという人物がどのような人間か、知らないわけではなかった。帝国との因縁があることも、重々承知していた。

 ただ……こうなった以上、危険な橋も渡らずをえなかったのも事実だった。

 彼女は、巨岩の怪鳥に押しつぶされそうなところを救ってくれるや、キラの安否を真っ先に聞いてきたのである。

 「リリィ様が向かったから」だとか「彼が強いのは承知している」だとか、色々と取り繕うように言いながら見せた、一瞬の焦りの表情。

 これを目にした時に、エヴァルトはすでに腹を括っていたのであった。


「悪いけどな、俺は帝国スパイやなくて、帝国人スパイやねん。もっと正確に言えば、”穏健派”スパイ。間違えんとってな」

「どちらにしても変わりありません。帝国に関わる人間ですので」

「帝国憎しな気持ちもわかるけどな? んな感情ひとつで、大事な情報取り逃がしてもエエんか? 知りたいやろ――七年前に、こっちで何が起こってたか」

「……」

「それに、昔話だけやないで」


 ブラックとロキの戦いにばかり目を向けていたセレナが、ちらりと視線をよこした。

 おそらく、あともう一押し。彼女にしても、七年前のこととなれば無視できないらしいのが、その仕草でよくわかる。

 だからこそ……。


「このままやと、キラに危険が及ぶ」

「……キラ様に? なぜでしょうか?」

「まあまあ面倒な話やねん。こんな戦場の端っこでパッと言えるようなもんではないくらいにはな。シスのやつには、ちょいと話してんねんけどな」

「では聞き方を変えましょう。あなたがそこまでキラ様に固執するのは、どのようなわけがあってのことでしょうか? リリィ様から話を伺った限りでは、偶然出会ったに過ぎないように思えますが」

「……せやから、や。この偶然を、俺は取り逃すことができんのや」


 エヴァルトは、本音を言い切った。

 だからかはわからないが……セレナは、意外にもあっけなく頷いてくれた。


「わかりました。あなたの要求を呑みましょう。――しかし、ご覚悟を。もし約束を違えたり、キラ様に何かあれば……私があなたを始末します」

「怖いこっちゃ。――望むところや」

「では、さっそく……と言いたいところですが。戦いは終わったようですから――まずはブラックとロキの確保へ向かいましょうか」


 轟音の連続がぴたりと止まり、不気味な静けさがあたりを支配していた。終わったとは言え、簡単に決着がつくような雰囲気でないことは、”闇”に染まる空で明らかだった。

 エヴァルトはセレナの言葉に頷き……ふわりと浮く体にギョッとした。


「ちょ、おい、まさか……」

「手っ取り早く済ませましょう。リリィ様への連絡もしなければなりませんし――さっさとあなたを王城へ送り届けなければ」

「待て待て待て、俺、浮かぶんはちょいと苦手で――あ――ッ」




 数分もしないうちに、ブラックとロキが直接対峙している場面に立ち会うことができた。

 マントですっぽりと体を隠すロキが”城ゴーレム”の瓦礫に寄りかかり、ブラックがその首元へきらりと光る白銀の剣を向けている。

「あー……やられちゃったー。でも惜しー……僕を捕まえても、意味ないよー」

「貴様などどうでもいい。――ベルゼはどこだ」

「さーねー。でもー……」


 二人が何やら話し合っているのを最後まで聞くようなことはせず、セレナはメイド服姿で優雅に着地すると同時に、ヒュッ、と腕を杖のように振り向けた。

 エヴァルトは着地したそばにあった柱の瓦礫に手をつきながらも、その凄まじさを肌を通して感じ取った。


 体内の魔力を持って、空気中の魔素へ干渉する。特になんでもない魔法の大原則ではあるが、これをピンポイントで行おうとすれば極端に難易度が跳ね上がる。

 だからこそ、いかに”ことだま”を紡いで現象化させるかに心血を注ぐ。

 だがそれをセレナは、事もあろうに”ことだま”もなしに、渦巻く風でブラックもロキも一緒くたに拘束してしまった。


「チッ……! 竜ノ騎士団か……!」

「んー、今気づいたのー? ってことはー、やっぱりだいぶ疲弊しちゃってる感じー?」

 ブラックを煽りにかかるロキを、エヴァルトは気味悪く思った。

 その言いようからして、彼か彼女かもわからないロキは、随分と前からセレナの存在に気づいていたのだろう。

 それはある程度予想はついていたが……知っていてなお拘束され、そしていまだに余裕を持っているということが、不気味でならなかった。


 しかも、まだまだブラックに対しての煽りが続く。

「そーだよねー。馬に蹴られてー、黒髪に負けてー、幻術部隊にも追い詰められちゃったんだからねー」

「……」

「そりゃー、疲れちゃうよねー。僕にすら苦戦するよねー」

「……どういう意味だ」

「んー? そのままの——」

「貴様の煽りはどうでもいい。だが――なぜ、俺が、幻術部隊と交戦したことを知っている。貴様は、あの時点で帝国を去っていたはずだ」

「……さーねー」


 ブラックが何に引っかかっているのか。エヴァルトにはまるで理解ができなかったが――セレナには一つとして関係がないようだった。

 突き出した手のひらを握って、渦巻を竜巻へと変えて、拘束を強める。


「私を前に、余裕ですね。もっと強力なものをお望みでしょうか」

 ブラックもロキも、流石に互いにいがみ合っている暇はなくなったようだった。

 ただ……。

「悪いが――この程度は拘束したとは言えないな」

 ブラックは顔を歪ませながらも、上空の”闇”を降ろして消えてしまい。

「ボクもー。本体じゃないからー……またねー」

 呑気にそう言ったロキは、それ以降ピクリとも動かなくなってしまった。セレナが舌打ちと一緒に風の魔法を引っ込めると、さながら灰のようにぱらぱらと崩れていく。


 体に巻き付くような不気味さが去ったことに、エヴァルトがホッと息をついていると……。

「あなたのせいですよ」

 とセレナになじられた。

「なんでやねん!」

「あなたがあんなタイミングで話を持ちかけてこなければ、私も構わず乱入することができました」

「や、八つ当たりやろ……! 最初っから漁夫狙ってたやんけ」

「……それはそれとして」

「図星隠すの下手くそか! キラとおんなじやな!」


 それまで無表情ながらも不満げでイライラとしていたのが、ふんわりと和らいだ。目元にも口元にも頬にも変化がないのに、どことなく微笑んでいるような気がする。

「キラと同じやて、喜んでるんやないやろな?」

「……さて」

「下手!」

「口答えすると連れていきませんよ」

「卑怯すぎやろ……!」

「どうとでも。リリィ様と連絡を繋ぎますから、少し待っていてください」


 そう言いながら右耳に手を当てる仕草をするセレナに、エヴァルトはほっと息をついた。

 それと同時に、気合を込める。

 ここが正念場なのだ。

 ここから先――エグバート王城へついたその瞬間から、未来がどんどんと変わっていく。エヴァルトは息を吸い込んで、そのことを身に刻み込んだ。


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