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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第2章

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153.幕

 セドリックとドミニクの喧嘩は、いつの間にか違う方向へシフトしていた。何がどう転んだのかは定かではないが、

「いや、一番弟子は俺じゃね?」

「んーん、私」

 どっちが先に師事したかで争い始めたのである。


 キラとしては、どちらが先かはさして重要ではなく……巻き添えを食らわないようこっそりと喧嘩の輪から外れた次第である。

 と言っても。

 限界状態な身体が災いし。一歩踏み出せばステンと転んでしまい。それまで喧嘩していたはずの二人が、ぴたりと言い争いをやめ。二人とも大慌てで近寄ろうとする直前で、白馬のユニィがガジッと服を噛んで強引に背中に乗せたのである。


 その流れがあってか、

「ほんと、お前エリック以上に勝手すぎだろ」

「強くて忍耐強いせいで、エリックよりタチ悪いかも」

 セドリックとドミニクにボロカスに説教を喰らうハメになった。


「……滅茶滅茶言う」

 遠慮も容赦もない言いようにしょげていると、時折、

 ――ざまあねえな

 かかかっ、と歯を慣らしつつ、白馬が幻聴で煽ってくる。

 もはやムキになることもできず、不貞腐れてユニィの背中で静かにする。


 行き先をユニィに任せてゆらゆら揺さぶられていると、いつの間にやらリリィがセドリックとドミニクの会話に加わっていた。

 すでに鎧を脱いで、ラフな格好をしている。簡素なシャツとパンツ姿ではあったが、ベルトループには剣帯が通され、剣もしっかり携帯していた。


「えっ、リリィ……様、十九歳っ? まじっすか!」

「もっと年上かと思った……。かっこいい……」

「ふふ、ありがとうございます。でもそれなら、キラの方がもっと意外では? これでまだ十六歳ですもの。ね?」

「……なんの話してるの?」


 キラが顔を向けると、リリィが思った以上に近い距離でにこやかに微笑んでいた。手を伸ばせば互いに頬が触れるほどに近く……実際、リリィは癖のように頭を撫でてきていた。

 美しい笑顔と撫でられているのとで心臓がどきりと跳ねるのを感じ、思わず視線を逸らしてしまう。


「宴会を開きましょう、という運びになりましてね。せっかくの機会ですから、わたくしも皆さんと仲良くしようかと思いましたの」

「……僕も出なきゃ駄目?」

 口をついて出た渋りに、セドリックもドミニクも意外に思ったらしいのが顔に出ていた。

 リリィも同じ様子だったが、一瞬にしてあらゆることが浮かんだらしく、困ったように眉を歪めていた。


「確かに、これ以上連れ回すのはよくありませんわね。セドリックさん、ドミニクさん、申し訳ありませんが、キラとわたくしは不参加の旨をニコラ殿に伝えていただけますか?」

 二人とも何か反論したげな顔つきをしてはいたが、渋々頷いて遠ざかっていった。


「リリィまで合わせることなかったんじゃ……」

「あらあら。これまでのあなたの行動を目にしたわたくしに、それを言いますの?」

「う……。やっぱ、パーティ抜けたこと、根に持ってる?」

「ええ、多少思うところはありますわね。セレナもぼやいていましたわよ――せっかくのドレス、感想も聞けなかったと」

「だ、だってそれは……そういうことを言ってもいい雰囲気じゃなかったというか……」


 しどろもどろに言い訳を繰り返していると、もはや”隠された村”での住所となってしまった”重傷者テント”についていた。

 リリィに横抱きに抱えられ、頭に響くユニィの馬鹿にしたような笑い方にイラッとしつつも、敷かれていた布団に横たわる。


「そうだ……エヴァルトとシスはどうなったんだろ? セドリックたちとは一緒にいなかったけど……」

「それが、さきほどセレナと連絡を取ったのですが、どうやら一足先に王都へ戻ると言うような話をしていましたわ」

「王都に戻る? セレナ……が、エヴァルトと?」

「ええ。何がどうなってそのように話が転んだのかはわかりませんが……」

「シスは?」

「彼も早々に片をつけたらしく、もうすでに王都へ向かっているらしいです」

「へえ。……エマールを追いかけにいくんじゃないんだ?」

「なにしろ、シスもロキと戦ったらしく、消耗の激しさゆえに断念したそうですわ。このまま追いかけても、また”別のロキ”と出会したらどうしようもできないから、と。……キラにもこの引き際を見習ってもらいたいものです」


「ぐ……言うね……。けど――シスもロキと戦った、って。一体何人いるんだろ?」

「レーヴァも相手にしたそうですから、わたくしたちのと、セレナのところと、シスのところ……合わせて四人。エマールの護衛についていると考えれば、五人ですわね」

「兄弟っていうわけじゃないだろうし……これも”力”の一部? それにしちゃ、かなり逸脱してるような気もするけど」

「考えても詮ないことですわよ。今は、ただ皆の無事を喜びましょう」


 そういうと、リリィは当然のように同じ布団に入り込んできた。

 ビクッ、とキラは体を震わせて硬直し、それが一緒に被った布団を介して彼女にも伝わったらしい。くすくすと愛らしく笑ってから、体を寄せてきた。

「こうして”治癒の魔法”をかけ続けるの、なんだか久しぶりな気がしますわ」

「ん、うん……そうかも」


 何がどうなれば、それほどに近づけるのか。不思議に思ってしまうほどに、リリィは全身を使って巻きついてきていた。

 足に足が絡み、首の下に腕が入り込み、胸にそっと手が添えられる。耳元には額がくっつけられ、首元を僅かな鼻息がくすぐってくる。

 あまりのくすぐったさに震えていると、すぐに全身をじんわりと包み込む”治癒の魔法”の感覚が行き渡り……思わずほっと一息ついたところで、何やらテントに近づく足音に気がついた。


「このタイミングで……意地悪なことですわね」

 リリィも二人分の足音に気がついたようで、ぷっくりと頬を膨らませた。

 そうして、ぺたーっ、と一度頬に頬ずりをしてから、名残惜しそうに布団を出る。すると、いつものキリリとした表情と雰囲気を取り戻して、ぴたりと止まった足音に声をかけた。


「その様子からして、セドリックとドミニクではありませんこと?」

「え、すげえ……! バレてた」

「ほら、やっぱり頼むべき」

 こそこそと話す声はやはり二人の声で、しばらくしてから遠慮がちにテントに顔を出した。


「ふふ……。わたくしよりも、先にキラの方が気づいていましたわよ」

「じゃあもう騎士団じゃん!」

 興奮したようにいうセドリックに、キラは体を起こしながら首を傾げた。

「僕は竜ノ騎士団には入ってないけど?」

「あ、それはわかってんだけどよ」

「……それはそれで不満だな」

「じゃあどう言って欲しいんだよ! ――じゃなくって! 俺とドミニク、ちょっと相談しに来たんだ」


 セドリックとドミニクは、体を縮めながら入り口近くで座した。

「それは明日などではなく、今、キラの治療を止めてでも聞いて欲しいことなのでしょうか?」

 意地悪だ、と思ったが、キラはリリィの方を見ないようにした。

 それほどに、彼女は真剣に聞いたのである。おそらくは、セドリックとドミニクの言い出すことをすでに見越しているらしかった。


「悪いとは思うけど……。一分でも、一秒でも、とにかく早く行動を起こしたかったんだ――です」

 セドリックのまっすぐな視線を受け止めて、リリィは確認を重ねるように問いかけた。

「では、キラではなく、わたくしに相談事とやらがあるということですね? 竜ノ騎士団”元帥”リリィ・エルトリアに」

 厳粛なリリィの声に、今度は息を呑みながらもドミニクが答えた。

「リリィ・エルトリア”元帥”に、お願いがあります。私とセドリックを、竜ノ騎士団に加入させて欲しい」

「一応、理由を伺いましょう」

 キラはその言い方を聞いて、ヒヤリと胸を撫でられた気がした。


「私もセドリックも、エリックを追いたい気持ちでいっぱい。だけど、今のままじゃ、またエリックに会っても何もできないままで終わる」

 ドミニクの言いたいことをわかっていたかのように、セドリックが続きを引き取る。

「強くなりたい、です。力的な意味だけじゃなくって、心構えも考え方も何もかも――高めていかなきゃ、エリックに合わせる顔が無い」


 リリィが眉を顰めたのを雰囲気で感じ取ったが、それよりも先にキラが口を挟んでいた。

「合わせる顔が無い、って?」

「きっと、エリックは俺たちの先にいる。戦ってわかったんだ――きっとあいつは、俺たちが知らないものを抱え込んだ。だから俺たちに何も話さなかったんだろうし、だから俺たちと敵対したんだ」

「”訳”……」

「今のままの俺たちが会ったって、何も話してくれない。だけど、あいつと同じ目線を得られたなら……同じ景色を見られるようになったなら。ちゃんと対等に話し合える――前みたいに、喧嘩になったりしない」


 セドリックは、おそらくいろんなものに影響を受けやすい。それゆえに迷うこともあったり、ときに突っ走って困ったりすることもあるのだろうが……だからこそ立ち直りが早く、前を向いていけると言える。

 この短期間での浮き沈みは凄まじかったが……セドリックもドミニクも、これからは上がっていくばかりなのでは無いかと、キラは思った。

 だから、少しばかり期待を込めてリリィに視線をやったが……。


「気持ちはわかりました。想いの強さも知りました。……が、それでもあなたたちを特別扱いはできません」


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