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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第2章

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147/961

144.決する


  ○   ○   ○


「どういうことだよ、エリック……!」


 ”授かりし者”たちの災害のような余波に巻き込まれ。セドリックはドミニクと共に地下通路に落ちてしまい。ドミニクの魔法の光を頼りに、シスが残した目印を辿って歩いていた。

 歩いても歩いても変わらない洞窟のような通路に、二人で励まし合いながら天井の穴を追っていると……ぼんやりとした光が、真っ暗闇の中で灯ったのである。


 そこで、セドリックは思わずドミニクと顔を見合わせた。

 距離もあり薄らとして見えづらくはあったが、その背中はエリックのものと確信できたのだ。

 そうして、二人して通路に声を反響させながら追いかけた。

 エリックもエマールを追っていたのだ、と。”隠された村”で再び姿を消したのは、やはり正しい行いのためだったのだ、と。そう思って声をかけた。


 だが……。

「なんでそいつと――マーカス・エマールと一緒にいんだよ!」

 エリックの隣には、右肩から青いマントを垂れ下げた男がいた。その豪奢な身なりや背中にある三又の槍から、エリックが忌み嫌うはずのエマールの人間であることがすぐにわかる。

 その他にも、ランタンを掲げる人物がいたが……セドリックもドミニクも、それどころではなかった。


「なんだ、貴様ら」

 先に応えたのはマーカスの方だった。

 背中を向けたままチラリと顔だけで振り向き、すると、鼻を鳴らして興味なさげに視線をはずした。

「ふん……ガキか。先に行くぞ――片付けてこい」

 何かの偶然と思いたかった。本当は、エリックがエマールを追っていて、ようやく追いついたところをこうして目撃してしまったのだと。


 しかし……。

「……ああ」

 マーカスの言葉に、エリックが短く応えた。

 足を止めて、くるりと向き直る。


「……」

 セドリックは、ドミニクの魔法の光で明らかになる幼馴染の顔つきを、じっと見つめた。

 少し前までならば、鋭く尖るその表情を勘違いしていた。何かに苛ついているから眉間に皺を寄せ、何かに怒っているから唇を噛んでいるのだと。


 だが、もう知っている。

 最近よく見せるようになったその表情が、焦燥感から生まれていることを。引け目や劣等感があるからこそ、そう見せないようにしているということを。

 キラに感謝しなければ、とセドリックは場違いにも思った。

 リモン”貴族街”の闘技場でのことを聞いていなければ。エリックは、昔っからみんなを安心させるために笑っていたと……そうして恐怖を押し殺していたのだと、思い起こすこともなかった。


「なあ」

 セドリックが声をかけると、ドミニクも声を出さないまでも、その気持ちを魔法の光に反映させる。一瞬だけ、大きく明滅して光が揺らめいた。

「何か抱え込んでんだろ。誰にも言えないから、また村を出てったんだろ」

「……だったら何だってんだよ」

 今までに聞いたことのない、ゾッとするような低い声。それが洞窟のような地下通路に這い回り、伝ってくる。


 怨念を彷彿とさせるような響き方に、セドリックは思わず気後し……反対に、隣にいるドミニクが一歩踏み出して声を上げた。

「話して、って言ってるの。これまでに、何があったか」

 一つも臆さないドミニクの姿に、セドリックは背筋を伸ばした。

 そうして、もう一度じっとエリックを見つめて……ふと気づく。

 幼馴染の少年の表情は、先ほどから変わってはいない――だがなぜだか、何かに葛藤しているような気がした。

 脅されているのか。それとも他に何かあるのか。態度や様子だけではその正体は掴めなかったが。


「俺たちも一緒に背負うから。だから――」

 エリックの動揺につけ込まなければと思った。

 だからこそ、セドリックは矢継ぎ早に言葉をつなげたのだが。

 どうやら、それが仇となったらしかった。


「俺は、村を売った」


 唐突な告白に、喉に何かが詰まったような気がした。

 一瞬にして、頭が真っ白になる。

「今頃、エマールの手下どもが村に向かってんだろ」

 そうして、理解したくない言葉を押し込められる。


「そもそも、あそこには俺の居場所なんてなかった。俺を必要とする人もいない。――だから、捨てたんだ」

 聞きたくないと思っても。耳を塞がなければと思っても。ひとつたりとて体はいうことをきかず、逆に言葉の放つ意味を受け止めていた。

 足元が、揺れる。


 しかし、それでも倒れずにいたのは――。

「独りよがりが過ぎる」

 ドミニクが、ぽつりとそう漏らしたからだった。


 鈴の鳴るような声に、停止していた思考が動き出す。

 そもそも、どう考えても『捨てた』という言葉は矛盾が過ぎている。ならば、村のために”反乱計画”で一人無茶をやらかしたことに疑問が残る。

 それに――ランタンを持っていたのは、エリックでもマーカスでもない、全く別の人物だった。

 やはり、エリックは何かを隠しているのだ。


「どのみち。私も、エリックが間違ったことをするはずがないと思ってる」

 セドリックは、岩の壁や天井に反響する恋人の声に、力強くうなづいた。

「だな。――そういうことだから、エリック。俺は信じないからな――お前は、絶対に正しいことをする奴って思ってるから」

 エリックは深くため息をつき……すると、腰に手をかけた。

 するりと、剣を引き抜く。


「そうかよ。だったら――わからせてやる」

「やってみろよ。お前に勝って、口割らせてやる……!」




 劣等感を抱いているのではないかと。焦っていたようだとも。〝隠された村〟で、キラから聞いた。

 何を劣っていると感じるのか。何に気が急いているというのか。


 その詳細を聞かずとも、本人に尋ねずとも、わかってはいた。

 キラが『闘技場で戦った』と口にしたから。

 だが、理解が浅かった。

 『キラが』闘技場で戦ったと口にしたのである。


 水汲みの時、みんなが緊張に身を縛られる中、かの黒髪の少年だけが何ともなしに動いていた。三段階目の作戦で再会を果たした時、力のある傭兵たちを一気に引き受け逃がしてくれた。

 そして、”授かりし者”にもかかわらず、全身を焼いてまでも反乱軍の未来を守ってくれていた。


 キラは、そんな”強者”なのだ。

 力が強いだけではない。想いが強いだけではない。

 考えなしにも見えるほど危険に立ち向かい、みんなを丸ごと助けてしまう。

 そんな”強者”から見た、劣等感なのである。


「くそ……っ!」

「ンだよ――勝つんじゃねえのかよッ!」


 ギンッ、と剣を弾かれる。

 体重も勢いも全部を乗っけた、真上からの振り下ろし――体格も腕力も勝っているはずなのに、力負けしてしまった。


 セドリックは大きく飛びのいて――直後、追撃を仕掛けるエリックに目を見張った。

 小さい体で一直線に飛び込んでくるその様は、さながら大砲。

 慌てて引き戻した剣で何とか防御するものの、その凄まじさに圧倒され。物の見事に体勢を崩した。

 なすすべもなく尻餅をつき……そこへ剣を突きつけられる。


「何がそんなに不満なんだよ……!」

 首元に感じる刃よりも、見上げる視線の先にあるエリックの顔つきが気になった。

「……んだって?」

「昔っからお前はすごい剣士で、だから俺はお前に憧れて……。なのに、なんで何もかもが気に入らないみたいな顔してんだって――言ってんだよ!」


 セドリックは、体を傾けながら剣をふるった。刃が首元から離れたところを、強引に力で振り払う。

 そうして、膝をつき、手をつき。しゃにむに前につんのめりながらも、脚の筋肉を限界まで膨らまして、立ち上がる。

 エリックも、この動きは想定外らしかった。遅れて反応し、一歩下がる。


「そんなに強いのに……!」

 そこへセドリックは、振り上げた腕で思いっきり剣を叩きつけた。 

 純粋なパワーで、エリックの動きを抑え込む。体格差も利用して覆い被さるように、剣を押し付ける。


「何に焦ってんだよ! 何で焦るんだよ! お前は――」

「そりゃテメェにはわかんねぇだろ、セド……ッ!」

 エリックは、歯を食いしばりながらも耐えていた。

 右足と左足を前後に開いて、折れそうなほどに背中をそらしながらも、諦めようと手を抜くことはなかった。


「テメエも、あのクソムカつく黒髪とおんなじだ――持ってるから、んなこと言えるんだろうが!」

「だから! 全部聞くって、さっき言っただろ! 文句ばっかで気持ち悟れって、そんな無茶なこと言うなよ!」

「テメェに知ってもらうもんなんざ――ないっつってんだ!」


 するとエリックは、激しい口調とは裏腹に、ふっと手を抜いた。それまで対抗していた力が、瞬く間になくなる。

 ぐらりと。セドリックはバランスを崩した。


 そうして。

 あっという間に。

 腹に一撃を打ち込まれ。

 地面に突っ伏してしまい。


「じゃあな」

 離れていくその背中を、目にすることもできなかった。


  ○   ○   ○

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