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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第2章

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142.混沌と


  ○   ○   ○


 場所は移り。

 シスは一旦”黒シス”に戻り、家屋の屋上に着地して、状況を分析していた。

「ふむ。これは下手に手出ししては、かえって邪魔になりそうですね」


 ”授かりし者”と”授かりし者”。

 ”闇の神力”と”操りの神力”。

 神の如き力のぶつかり合いは、まさに壮絶なものだった。


 ”城ゴーレム”の頭の上に姿を表したロキは、もはや”貴族街”そのものを操らんとしていた。

 ”城”を中心として辺りの建物を吸い上げ、その強大さに拍車をかける。


 まさしく”天”にまで届く巨人となったゴーレムに、しかしブラックは一つも臆することはなかった。

 その”天”を、半分支配しているのだ。

 エマール領リモンの上空に円状の”闇”を展開し、白髪の”授かりし者”はそこから”力”を放出していた。

 ”城ゴーレム”が放った巨大瓦礫砲を、降り注ぐ”闇の雨”が粉々に打ち砕く。


「全くもって恐ろしい……キラさんも、どうやって彼に勝ったのだか」

 ブラックは局地的に”雨”を降らせながらも、幾本もの”闇の矢”を放った。

 ぐんっ、ともの凄まじい勢いで”城ゴーレム”を貫き――それだけでなく、着弾と同時に黒い衝撃波を散らして爆発させた。


 ブラックの矢継ぎ早な攻撃に、ロキも防戦一方――というわけではなかった。

 ロキもロキで、凄まじいスピードで”城ゴーレム”を修復しつつ、撃ち放つ瓦礫砲にアレンジを加えていった。


 ”闇の雨”に阻まれるや、角度を変えて砲撃し。

 それも打ち落とされるとなると、瓦礫砲自体を操り始める。そうして”闇の雨”を避けるが、今度は”天”から振り下ろされた”闇の矢”に撃ち抜かれる。


 するとロキは、無闇矢鱈な砲撃を取りやめ――特大の三つの砲弾を打ち出した。

 それぞれ一秒経つごとに姿を変え……三つの砲撃は、三羽の巨大な”怪鳥ゴーレム”へと変貌した。

 ひとつ翼を動かすごとに強風が吹き荒れ、それが三羽分ともなると、晴天を吹き飛ばすような嵐となった。


「おいこら、シス! なにサボってんねん!」

 シスの目の前にある家屋の屋上では、エヴァルトが踏ん張っていた。ぼさぼさの銀髪と赤いバンダナを揺らしつつ、文句を垂れる。

「なかなか頑張りますね!」

「ああっ? せっかくのチャンスやろ。この隙に、ロキの懐入って本体潰したら、それでしまいやんけ!」

「では、お任せします!」

「おいっ」


 様々な角度から吹き荒れる暴風で、エヴァルトの声がかききえる。

 シスはその様子に、少しばかり声を張って言葉を届けた。

「この乱戦ですからね! 僕は反乱軍のサポートへ向かいます! 地下に落ちたお二人も気になりますし!」

「しゃあないな――勝手にしろ!」


 そう言ってエヴァルトが屋上から飛び降りた直後。

 ”怪鳥ゴーレム”の一匹が、ブラックの”闇”によって砕かれた。その一部が、縦横無尽に風が吹き荒れる中、一直線に飛び込んでくる。

 その巨大さと言ったら。村一つを抉り取ってぶん投げたのかと思うほど。


「これは——」

〈俺ノ出番だ〉

 引っ張り込まれるような感覚と共に、シスは半ば強引にスイッチした。


 暴風ではためく白マントの内側から、それよりも白い陶器のような腕が突き出る。

 五指にグッと力を込めて、”不可視の魔法”で辺り一体の空気に干渉する。”魔素”で”怪鳥”の一部を受け止める。

 ビキッ、と腕の中がうめいたが、白シスはそんな痛みに構わず腕を振った。


 瞬く間に”城ゴーレム”の方へ飛んでいき――しかし直撃することなく、ロキの力によってゴーレムに吸収されてしまう。

 その様に、白シスはマントのフードの中でふんっと鼻を鳴らした。


〈全く、毎度勝手ですね……〉

「貴様コソ。わざわざ獲物ヲくれてやるトハ」

〈目的を履き違えてはなりません。狙いはエマール一つ――そのためにも、反乱軍を潰してはなりません〉

「お人好しガ。だからトラブルにナル」

〈な……! それとこれとは関係ないでしょう!〉


 意外とコンプレックスになりつつある部分をつつけて満足した白シスは、頭の中で黒シスの声が響くのも構わず、走り出した。

「ブラックは――敵だと思うカ?」

 屋根の上を走りながら、反乱軍が一丸となって街中を駆け抜けているのを見つける。ロキとブラックの壮絶な戦いに気を取られながらも、皆しっかりと足並みを揃えていた。

 合流をと思ったが、押し寄せる余波がなかなか接近を許してくれない。

 まさに雨霰になって瓦礫が降り注ぎ、それをまとめて”不可視の魔法”で払う。


〈今のところは、僕たちに目もくれないでしょう。一時共闘、と言ったところでしょうか――彼自身、ロキ以外に手を出すほど余裕はないみたいですし〉

「お前モ気づいていたカ……」

〈本部からの情報では、ブラックは空を真っ黒に染めたみたいですからね。今のところ、”貴族街”ぐらいしか”闇”で覆えてませんし〉

「ニしては、暴れテくれる」

〈まったく。過ぎた力です。”働街”にまで被害が及ばなければ良いのですが……〉

「住民たちはリモンの外へ避難サセタ。あとは奴ラの運しだいダ。――ともかく」


 白シスはつぶやいた言葉をぶつりと切って、跳躍した。

 またも、”怪鳥”の一部が飛来してきたのだ。浮いた島が落下するかのような光景に、流石に反乱軍も足を止めてしまっている。

 遠目ではわからないほどに物凄いスピードで飛来する瓦礫の前に躍り出る。


 ぱっと両手を向けて、

「手ヲ貸せ」

〈もちろん。――”魔素砕き”〉


 黒シスの”ことだま”に呼応して、両の手のひらを差し向けた先で魔法現象が起こる。

 白シスが事前に”不可視の魔法”で纏わせた魔素が、瓦礫の隙間という隙間にズズッと入り込み――一気に破壊したのだ。


「……何ダ、いまの”ことだま”」

〈エヴァルトさんの真似ですよ。言ってみれば”帝国風ことだま”。いやあ、なかなか使い勝手がいいですね!〉

「瓦礫の大砲に苦労していたときに……ヨソ見してたのか。くそカ」

〈ふっふ、なんとでも! 長年の悩みが解決されましたからね、気分がいいんです!〉

「……”ことだま”のテンポ、壊滅的だからナ」

 シスは頭の中に響くもう一人の自分のウキウキさ加減に呆れ果て、それ以上は何も突っ込まないことにした。


 とん、と屋上に着地したのちに、さらに跳躍して瓦礫の散らばる通りに降り立つ。

 目の前には反乱軍を率いるニコラがいたが、その役目も忘れてぼうっとして突っ立っていた。

「オイ。何呆けてイル。走れ」

「あ、ああ、シス殿……。いや、なに……君も想像以上に出鱈目だったんだな、と」

「悪くない気分ダガ、先ヲ急げ。身に染みて解っただろう――ここに、もはや安全な場所はナイ」

「そのようだが、しかしさっきから一体何が起きて……?」

「説明はしてやる。だからさっさと――」


 突如として鳴り響く轟音に、言葉がかき消される。

 ブラックとロキの戦いの余波に三階建ての家屋が巻き込まれ、横倒しになろうとしていた。目を見開く反乱軍に向かって、覆い被さろうとする。


 シスは咄嗟に手を突き出し、”不可視の魔法”で倒れる建物を支え、

「走レ!」

 ただ叫ぶ。

 必要があればもう片手でその尻を引っ叩いてやろうかと思っていたが、ニコラやオーウェンやベルの掛け声で弾かれたように動き出した。


〈いやあ、僕が”表”に出てなくてよかったです。反応はできても、壊すしか選択肢がありませんからね〉

「イツモ言っている。さっさと”不可視の魔法”を練習シロ」

〈したところで、ですよ。あなたほど”魔素”を感じ取る力が強ければいいのですが、僕はそっちの才能はとんとありませんからね。一生、パッ、とは使えません〉

「軟弱ナ……。体ハ同じだ、思い込みの問題だな」

〈なんとでも。それ以外は僕が優っているので〉 


 けっ、と悪態をつきつつ、”不可視の魔法”で建物を押し返し、反乱軍のあとを追う。

〈まあ、ともかく。僕は地下の方を探知してみますので、しばらく補助には入れませんよ〉

「露払いなら一人でもデキル」

 つぶやくように言い切ってから、シスは幾度かの跳躍で先頭を走るニコラに追いついた。


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