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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第2章

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141.はずれ

 森を出る直前、ローランは『森を背にして戦えばいいのでは?』と提案していた。

 森全体に張られた”結界”は不気味な気配を放ち、それゆえに森自体が良い『盾』となるのではないか、と。

 確かにその手があったと、キラは彼の案を採用したのだが――。


「ぬぉおおお!」

「ローラン! ちょ、邪魔!」

 壊滅的な連携で互いに足を引っ張り、自分の首を絞めることとなっていた。


「そういえば――誰かと一緒に戦うなんてこと、ほとんどなかった……!」

 森を出るや否や、すでにイエロウ騎士団が待ち構えていた。顔が合うなり、「悪魔」だ「殺せ」だなどと物騒な言葉が飛び交い、一斉に攻め寄ってくる。

 そこまでは想定通りだった。


 だからこそ、キラも『突っ込む』という選択をした。集団戦において、きっちりと紡がれた”ことだま”ほど厄介なものはないと、先だっての戦いで肌に染みたのだ。

 詠唱なしの魔法も十分に脅威ではあるが、目線と動きと仕草でだいたい把握できる。


 しかし、あらゆる動きを瞬時に把握しなければならない中、どこからともなく飛び込んでくる魔法は脅威以外のなにものでもない。

 まずは真っ先に対敵する騎士を一人屠り。少しでも動揺を誘って、さらに奥へ踏み込む。そうして後ろの方で”ことだま”をつなげる魔法使いを撃破し。森の中へ引っ込んで、再び突っ込む。

 そういう戦法を思い描いていた。


 が。

 一手目でつまづいた。

 ローランとしては、初手で森に引っ込むつもりだったのだ。

 そうすれば、勢いよく突っ込んできた数人以外は、森の不気味な気配で立ち止まることになる。これを繰り返せば、安全で確実に数を減らしていける。


 その方が良かったのかも。ちゃんと話し合っていれば。

 一瞬のうちに後悔を詰め込むも、時すでに遅く――キラとローランは、互いに背を向けて突き進もうとしたことで、文字通り転けてしまった。


 これで少しでも相手の気が緩んだり動揺したりしてくれれば良かったものの、

「滅びろ、悪魔!」

 それほど都合の良いことが起こるはずもなく、キラはローランと共にイエロウ派騎士たちに取り囲まれることとなった。


「ああぁぁ……! 魔法が傷に……!」

「死角を頼むとは言ったけど――そんなに体張って大丈夫なのッ?」

「むろん! 染みる!」

「や、そうじゃなくって――」


 キラは迫る男の足元目掛けて”センゴの刀”を振り払い、体勢を崩させる。さらに、前のめりに倒れ込む男の首元へ追撃。

 呻きもせずに絶命し倒れる様には目もくれず、続けて斬りかかってきた騎士へ向けて対処する。”センゴの刀”の柄で、刃を受け止める。


「悪魔どもが……!」

「ローラン、君も悪魔認定だってさ……!」

 ぎりぎりと押し込んでくる剣に対抗しつつ、ちらと背後を窺う。

 ローランは、まさに裸一貫で四方八方から降りかかる攻撃を受け止め続けていた。もはや紳士服はボロキレとなり、上半身が裸になってしまっている。


 だからこそ、彼の体が異常だということが浮き彫りになった。

 これまでにも、すでに三十は攻撃を受けている。魔法で爆破されたり、剣や槍で斬りかかられたり。

 どれもまともに受けたはずなのだが、一つたりとして深傷がない。

 まるで、体の内側に鉄板でも埋め込んでいるかのように……刃も魔法も、その表面をちくりと刺す程度にしかならないのだ。


「私は悪魔ではなく”平和の味方”! よろしく!」

「っていうか! ほんと心配だから、どれだけ攻撃受けられるかだけでも教えて欲しいんだけどっ」


 キラは思いっきり叫びつつ、手首を返した。手のひらの中でくるりと”センゴの刀”を回転させつつ、騎士の手首を切りつける。

 一歩引く隙に、キラは半歩引き下がる。

 そうして腕を思い切り引いて、握りしめた刀を撃ちだした。正確無比な刺突で、喉を突き刺す。


 傷と血で喉を詰まらせる騎士を目にして、キラは大きく一歩引き……そこで、どんっ、と背中合わせにローランとぶつかった。

「――わっ、ごめん!」

「ぬ――あぁ! 目が、目がぁ!」


 突き抜けるような悲鳴に、キラは反射的に振り向いた。

 ぶつかった拍子に前のめりになり、その瞬間にローランは顔面に火炎放射を浴びたようだった。

 漏れ出る悲鳴は悲痛であり、実際に目にすると残酷な光景である……のだが、なぜだか、キラにはローランが大袈裟に演技をしているように思えてならなかった。


 その気持ちは、

「どこまでもふざけた奴め、裏切り者が……!」

 憎しみの炎をぶつけた張本人、スプーナーも同じようだった。


 この乱戦の中、この壮麗の騎士ほどの実力者が混ざっていれば、数の差も相まってキラもあっという間に窮地に立たされるはずだった。

 もちろん、キラもタダでやられる気はなく、イエロウ派騎士たちを屠りながらも常にマークしていた。 

 が、一瞬目を離した隙に死角に潜り込み――それを、ローランが毎度のように防いでくれた。


「それは違うな、スプーン!」

「スプーナーだ!」

「裏切りではなく――言うなれば”期待はずれ”。吾輩も貴殿も、どうやら互いに”同類”であると見誤っていたようだ!」

「同類だと……! 貴様のようなふざけた奴と、この私と――”悪魔”に息子を奪われたこの私を、同列に語るか!」

「ぬん――だから、”期待はずれ”だと言った! そんな根暗で陰険で鬱屈とした輩など、こちらから願い下げだ!」

「言わせておけば……!」

「苛々か? ならば殺してみよ――”魔剣”とやらでこの”平和の味方”を殺せるものなら!」


 ローランにも譲れない何かがあるのは、その面白くない顔でわかった。

 だがキラは、襲いかかってくる騎士の集団を気にしつつも、ヒヤリとせずにはいられなかった。

 なにしろ、ローランが相手にしているスプーナーは、”授かりし者”ではない。

 普通な”ヒト”であるのだ。”治癒の魔法”で前回の傷も癒えていれば、おそらく”魔剣”も使えるほどに魔力が回復している。

 いかに異常に頑丈な体を持つローランといえども、”炎の魔剣”に耐えられるとは思えなかった。


「ローラン――」

「ふふっ、心配してくれるな、”救世主”よ!」

 楽しげではあったが、それ以上に迫力があり。キラは、触れてもいないというのに、有無を言わさず己の敵に集中させられた。


 ”センゴの刀”を構え、すると、ドンッと覚えのある感覚が背後から肌を撫でる。空間も歪めるほどの熱気が、”炎の魔剣”の完成を告げる。

 喉を火傷しそうなほどの空気を吸い込み、キラは顔を歪めつつもニヤリとした。


 ローランに煽られ解き放たれた”魔剣”は、本来ならばスプーナーの味方であるはずのイエロウ派騎士たちをも苦しめた。

 鉄製の甲冑を着込んでいることもあって、倍々に上がっていく熱量で動きが鈍くなる。


 もちろんキラも、汗すら蒸発する熱さにうめいたが――”強靭な身体”は、それでも思った通りに動いてくれた。

 さながら沼に足を取られたかのような騎士たちに、正面から突っ込む。

 だが、相手も”精鋭”騎士だった。体を蝕む熱さに囚われながらも、反撃を試みる。一度二度、予想外の俊敏さに傷を刻まれる。


 キラは舌打ちをしつつも、それ以上くらうことはなく、次々と敵を撃破していった。

 正確無比な一撃を首元へ見舞い、あるいは横っ腹を強引に掻っ捌き。時折飛び込んでくる魔法を、騎士たちを使って回避する。

 峰打ちで転ばせ、ざくりととどめを刺しつつ、次へ向かい……ようやく半数を地面に叩き込んだところで。


「くそ、足が……!」

 ”強靭な身体”にも、ガタが来た。

 足がもつれて膝を突き、すると、縛り付けるようにして辺りを支配していた熱気がふと緩んだ。


 地面に手をついた際に後ろを見ると、魔力の尽きた様子のスプーナーが前のめりになって倒れ込むところであり、

「ローラン!」

 上半身を黒焦げにした”平和の味方”もまた、地面に突っ伏していた。

 ぴくぴくと体を痙攣させながらも、腕を動かそうとしているのを見る限り、生きてはいるようだが……どう考えても、命が危ない。


 だというのに。

「ここでこの感覚……!」

 ローランと距離を離したのを嘲笑うかのように。

 地面から”青い炎”が噴き上げて。

「ヨォ、また会ったな……!」

 ガイアが現れ。

 さらには。

「なんでここに……!」

「戦うためにいるんじゃーん。……って、前も言わなかったっけー?」

 ロキが、いた。


  ○   ○   ○


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