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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第2章

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135/956

132.評価点

 これからの方針は、実を言うと”隠された村”に戻る前からある程度固まっていた。

 それというのも、反乱軍の中に潜んでいたクロス一派に、多数の”治癒の魔法”の使い手がいたことから始まる。


 現状として、反乱軍の『エマール領転覆』という最終目的に必要な『エマール確保』は失敗してしまった。同時に、少なくない犠牲者と怪我人が続出している。

 かくいうエヴァルトも片腕を動かせない状態に追い込まれ、オーウェンやベルも軽くはない傷を抱えた。


 だが、クロス一派の治癒の使い手を利用できるのならば。

 これを最大限に活かすほかなく……ならば、まだ反乱軍の計画は死んでいないとまで言い切ることができた。


「――てなわけで」

「リモンに残ったオーウェンさんが、リモンと”隠された村”の中間地点で待ってくれている手筈になっています。クロス一派の治癒の使い手を何人か連れて。ですよね、ニコラさん」

 作戦本部となるテントでぐるりと円を描いて座る面々に、エヴァルトとシスも加わっていた。


 シスの隣に座るニコラが、うむ、と重々しく頷く。

「先の作戦は失敗したが、まだ終わったわけではない。たとえ終わっていたのだとしても、我々は明日のために動かねばならない」

 テントに集まった顔ぶれは、そんなことは承知だとばかりに、各々大きく頷いた。

 ベル、メアリ、ルイーズ、エミリー。それにセドリックとドミニクも、オドオドとしてはいたが、やる気は失っていなかった。


 エヴァルトは”隠された村”の強さを再び見た気がして、励まされた気分になり……だからこそ、ついつい口出しせずにはいられなかった。

「変態。なんでお前がここにおんねん」

 ぱん、ぱん、ぱんっ。ローランが、感動したとばかりに手袋をはめた手で拍手を繰り返し、大袈裟な顔で何度もうなづいている。


「ノンっ! 私は変態ではなく、”平和の味方”ローラン! かの英雄の代わりに馳せ参じた次第……!」

「どうでもええがな……余計なことしたら承知せんぞ、ケツ顎」

 脅しでも何でもなく。

 エヴァルトは腰を上げつつ、剣を引き抜いた。片腕しか使えないものの、”身体強化の魔法”で十分にカバー可能である。


 皆がワッと引くのも構わず、ローランはシスと同様に、身じろぎもしていなかった。

「それが君の本心であるならば、それを甘んじて受け入れよう。なぜならば、吾輩は”平和の味方”――この事実だけは変わりようがないのでね」

「殊勝やんけ」

「しかし――重ねて言うが、吾輩は”平和の味方”。平和の象徴となる男!」


 ローランは、それまでに見せなかった凄みを滲み出した。へらりと垂れていた眉をいかつく釣り上げ、目つきも合わせて鋭くした。

 その顔つきは、歴戦の戦士が見せるそれと同じものだった。


「これは貴殿らの戦い。何も吾輩の理想のために邪魔はしない――だが、”平和の味方”と認めてくれたかの者を、再び戦いの場へ戻すことはあってはならない。そう思い、この場に居合わせたのである」

 エヴァルトは唖然とし……思わず緩みそうになる口元を、ヘンッ、と歪めてみせた。


「そんなら安心しろ。俺もあんな状態のやつを放り込もうとせんわ――みくびってもらったらこまる」

「む? それは失礼したっ」

 ローランは鋭く尖った雰囲気を引っ込め、陽気さを取り戻した。

 全てを見透かしたかのような表情に、エヴァルトは今度こそ顔を歪めた。けっ、とそっぽを向く。

 そこで、セドリックがそろそろと手を挙げているのが目に入った。


「なんや。どうした?」

「どうしたも何も……俺、場違い感すごくないっすか? 何もできてないのに……」

「はあ? お前が何かできたかなんぞ、お前で決めんなや」

「ええ……」

「あのな。自己評価なんぞクソの役にも立たんのやぞ。なんもできんかったって嘆いとる奴が、なんで自分を正しく評価できるねん。アホか」

「無茶苦茶すよ」

「作戦失敗で戦力ダウンしとるところに、お前の自虐なんざ聞いてられへんわ。それに――戦場っちゅう特殊な場においては、戦う以上に優先すべき重要な役割があるんやぞ」

 それを聞いたセドリックは、微妙な顔つきをした。力のない己への不信感と、求められていることへの嬉しさがない混ぜになっているのが、容易にわかる。


「ええか――これからの計画を、絶対にキラの耳に入れたらあかん」

「へ……?」

「つまるとこ、監視やな」

「なんだ……。そんなことっすか」

 拍子抜けしたように肩の力を抜くセドリック。その様は、重要性の方向の違いに残念がっているようでも、安堵しているようでもあった。

 相手がキラとあって気を緩ませる少年に、エヴァルトは釘を刺した。


「生半可なことやないで。”貴族街”で何があったか分かるか? ――あいつ、炎使う相手に突っ込んでったんやぞ。そん前から手痛い火傷負ってんのに、『”労働街”に向かわせるわけにはいかない』いうて。しかも割とぼろぼろ」

「ってことは……」

「たとえば、村の外にドラゴンが現れた! とか言われても、今すぐ飛び出していくやろ。それがどれほど厄介かわかるやろ――殴れもせん相手に、わがまま突き通されてみ。面倒くさい上に、碌なことにならんで」


 ようやく、頼まれごとがどれだけ重大で、どれだけ大変かがわかったらしい。セドリックは隣に引っ付くドミニクと一緒になって、神妙にうなづいた。

 二人の様子に満足げに頷いていると、それまで黙っていたシスが静かに付け加えた。


「そうはいっても、セドリックさんもドミニクさんも一緒に今後の計画の戦力として動きますからね。村を出発するまでの監視となります。そこから先は――紳士なローランさんに任せるとしましょうか」

「うむ、頼まれた。では、早速下準備にゆくので、これにて失礼する」

「おや、どちらへ?」

「村の方々と交流を深めるのだ。できるだけ、かの者が無茶をしないように……。その武勇伝を伝え広め、監視網を強固なものとするのである。ではっ!」

 そういうや、ローランはいてもたってもいられないと言った風に、テントを飛び出してしまった。


「……あいつ、意外と策士タイプなんやな」

「トラブルを起こさなければいいのですが……」

 お前が言うか。そうエヴァルトは突っ込もうとしたが、シスはわかっていたかのようにそっぽを向いて話を続けた。

「とりあえず、今後の動きをざっと。この作戦会議を終えたら、僕とエヴァルトさんはすぐにリモンへ向かいます。竜ノ騎士団とは既に連絡を取ってあるのですが――」

   ◯   ◯   ◯

 

「……ねえ、キラくん」

「……はい」

「もうちょっと無茶を抑えられないの?」

「だって……」

「だってじゃありません!」


 久しぶりの深い眠りで心地よい思いをしていたところ。いきなり、ぐんっ、と意識を引っ張り上げられた。

 そうして、真っ暗闇な空間の中で頭の中に響いたのが、エルトの声だったのだ。


「もうちょっとで死んじゃうところだったでしょっ? 最後、あなたの”覇”が乱れてギリギリ割り込めたからよかったものの!」

「それは……ありがと」

「……感謝は嬉しいけど! 許しちゃいそうになるけど! 許しませんっ」

「別に許さなくても……」

「そーゆーこと言うんだ!」


 目には見えないが、エルトがぷいっとそっぽを向いた気がした。

 おそらくは人の母であろう人物が取る行動とは思えないほど子供っぽくて、キラはひくりと頬をひくつかせてしまった。


「……なんで私が呆れられてるのっ?」

「ご、ごめん、わざとじゃ……」

「もっとひどい!」

 それもそうかもしれないと、言葉のからくりに気づいて面白がっていたところ……体の奥で響くような声が、静かに鳴りを潜めた。

 雰囲気の違いに気づいて、キラは口をつぐむ。

 それを見計らったかのように、エルトがため息をついた。


「実際、あなたの対応力には目を見張るものがある。対魔法の戦い方も対処の仕方も、一秒経つごとにグングン洗練されていく。それが才能とかセンスとかで片付けられるものじゃないってのも、よく分かった」

「だから言ったじゃん。戦い続けるしかないって」

「ええ。そこを間違っているとは言わないわ。でも……やっぱり、また運良く誰かに助けられた。今回は、あの訛りの強いバンダナさんだったけど」


「……だから?」

「前とひとつも変わってない。あんなに優しく教えてあげたのに、ひとつも進歩してないじゃない」

「だけど、ユニィも言ってたじゃん。どれだけ強くなろうとしても、理不尽なんていきなり降ってくるって。それだったら、片っ端から――」

「私が、いつ、強さの話をしたのかしら?」


 ずん、と迫ってくるような圧迫感に、キラは思わずのけぞった。

 ”コルベール号”での会話の内容を反芻し……しかし、間違ったことは言っていないと思い至り、つい反論する。


「だって。ひとり孤立することもあるんだったら、どうあっても自分の力で乗り越えていくしかないじゃないか」

「……まったく。まあ、私も死んでからようやく分かったことだし、どれだけ頭振り絞っても答えなんて出ないでしょうね。あなたも、そしてユニィも」

「……意味わかんないよ」

「じゃあ、ひとつヒント。『襲いかかる理不尽にどうすればいいか』……この問いかけに関してだけ言えば、今回は及第点といったとこ」


 どこが及第点なのか。今回とはどういうことか。

 色々な疑問が湧き起こっていたが、それを口にして問いかける前に、目が覚めてしまった。


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