ここにきてそんな告白ありですか!?ーー爆弾に注ぐ爆弾、混乱の渦に巻き込まれていくようです
「ルーナ!!」「ルーナちゃん!!」
部屋に入るなり私の姿を確認した2人は声を揃えて名前を呼びながら両手を伸ばして飛びついてきた。いや、本当に飛んできた
「ぐふっ」
そりゃ、5歳の子供の身体なんて、簡単に潰されますよね。変な声出た。てか、苦しい苦しい!!死ぬぅ〜〜っ!!大人2人の力でしがみついたらダメでしょ!!
苦しさから声が出ない私は必死で彼らの腕を叩いて手を緩めてほしいことを伝える
「ああ、ルーナ…よかった…っ…お前にもしものことがあったらと心配で…」
「ええ、ええっ…よく頑張りましたねルーナちゃん…」
伝わってない!!あの、本当、死んじゃうからっ!!息が、もたな
「失礼致します。御令嬢が苦しがっておられますよ」
「「!!」」
「ごめんなさい!ルーナちゃん!つい力が入ってしまって…!」
「すまない、苦しかったね」
私の必死のメッセージにも気づかないくらい心配してくれていた2人も、クラウスの直接の言葉は届いたようでパッと2人して腕の力を緩めた。助かった〜!ここに来て初めていい働きしたね!クラウス!
申し訳なさそうに謝罪をしながら顔を覗き込んでくる2人と男女
彼らこそルーナの両親であるナハトメイヘルン公爵夫妻である。ルーナの容姿は2人からわかりやすく遺伝しており、父は黒髪に紺碧の瞳、母は白銀の髪に碧眼だ。なお、2人とも超がいくつもつくほどの美男美女
そりゃ、生まれてくる子も絶世の美女なはずだよ
「もう体調は大丈夫なのか?苦しいところは?」
心配してます、そう全身で伝えてこられるとむず痒いような、胸の中がソワソワするような感じになる。大人になるとこんな風に誰かに心配されるようなことはなくなるし(少なくとも、ここまでわかりやすく態度に出されることはないだろう)、何より、前世の我が家では放任主義が取られていたせいであまり親からも心配をされた記憶がない
どう返事をしたら正解なのかが、よく分からなくなってきてしまう
「あの、だいじょうぶです…げんきに、なりました」
駄目だぁああ!!記憶を辿ってもルーナの両親のことについては全然思い出せない!もちろん、ルーナの両親にする態度や口調に関しても!!てか、そもそも思い出せたとしてもそれは幼少期の頃のものじゃないから意味ないか!!私のバカ!!
動揺を隠しきれない私の返事は、どう受け取られたのだろうか。なんだか怖くなって2人の顔が見れなくなってしまう。下を一度向いてしまうと、今度は中々顔を上げられない
「…無理しないで。目覚めた時に側にいられなかったような親だけど、貴女の味方よ。どうか、偽ろうとしないで…」
先程とは違い、ふわりと包み込むように抱き締め直される。密着したことで暖かい体温と優しい香りが伝わってくる。母に抱きしめられたのだ
私の答えはあまりいいものではなかったようだ。いや、上手く答えられなかったとした方が正解なのかな。なんにせよ、こんなに辛そうにしてほしくなかったのに、結果として辛い気持ちにさせているのだから失敗は失敗か
「…ごめんなさい、お母さま。まだ、よくわかってないの…でもね、ほんとう、いまは元気なのよ?」
小さい私の身体では腕を回したところで全然包み返すことはできないのだが、それでも辛い思いをさせてしまったお詫びを込めて両手をめいいっぱい伸ばして彼女に抱きつく。さっきの言葉みたいに失敗しないように、でも嘘はつきたくないから本当のことを
現に、毒を盛られたといっても今の私はピンピンしているわけだし、心配は無用…とまでは言えないけど、問題はないように思うしね
「…お前の言葉を信じるが、何かあればすぐに言うんだよ」
ぽん、と父の大きな手が頭の上にのせられる
クラウスの手とは全然違う大人の男の人の手は大きくてずっしりしてて、なんだが胸が締め付けられるようだ
「うんッ」
なんだか、涙が出そう
……女の子だから?なんて、古いか
一家揃っていい感じの雰囲気になった。よかった、両親とはいい関係を築けそうだ
母も私から少し身体を話すと涙で潤んだ目で見つめてきながら柔らかな笑みを浮かべてこちらを見てくれている。私も自然と顔を上げて2人の顔を見ることができている。うん、2人ともすっごい綺麗。目の保養だわ
空気読めなくてごめんなさいね!でも、可愛かったり綺麗だったりかっこよかったりするものにオタクっていうのは反応しちゃうものなのよ。許して
「うんうん、家族仲良くでいい感じになりましたね」
よかったよかったと今までの私達家族のやりとりをそばで見ていたクラウスはここに来て横から声をかけてきた。さっきはファインプレーだったけど、今は邪魔だったでしょ。もうちょっと家族団欒を楽しませてよ
「……君は?」
今更になってクラウスの存在に気づいたらしいお父様。すいっと私とお母様、クラウスとの間に身体をスライドするように移動させると警戒したように声を固くして問いかける
うーーん、すっごくかっこいいけど、子供の気配にも気づかないってのは、あまりよくないのでは?
「許可がないと屋敷には入らないはずなんだが」
あーーーん!ごめんなさいお父様!それ、私のせいです!そっか、普通は部外者が屋敷に入ることが叶わないから油断してたんだね!そりゃ、愛娘が死の淵から帰ってきたと聞いて飛んできたんだからそれ以外には注意が向けにくくなるのも仕方ないのかな?まあ、お父様は騎士じゃないし無理もないか!
てか、クラウスどう説明するつもりなんだろう…私からは何もいないぞ?あんたからなんの説明も聞いてないんだから
「まずは自己紹介からさせていただきます。私はアルフィー・ホロスコープ伯爵が次男、クラウス・ホロスコープです」
恭しく口上の述べながら名前を名乗るクラウス。大の大人に睨まれたよくもまあ動揺しないもんだなと、変に感心してしまう
「ほう、ホロスコープ家の…」
ホロスコープ家は伯爵といえども超有名貴族であり、むげには出来ない立場だ。しかし、それは公爵家の、しかも毒を盛られたばかりの令嬢の部屋にいることを説明してはくれない
「君の素性がわかったところで、ここにいる理由にはならない。君もわかっているだろう?」
お父様も同じことを思ったみたい
アルフィー・ホロスコープ伯爵は現神官長の長男であり、彼自身も次席神官の筈。あ、現神官長はクラウスのお爺様です。アルフィー伯爵は小説の方でちらっとしか出てきた覚えしかないけど、お父様のことだから私と違ってきちんとその親類についての情報くらいは把握しているでしょう。その把握している情報と照らし合わせてクラウスとことを見れば嘘をついてるかくらいは見抜けるはずよね
「…星に導かれました」
「!!」
『星に導かれる』
それは占いを用いて未来を見た時に使う常套句。それは占いを行った呪術師の意見ではなく、星、つまるところ世界が望んだ出来事だという意味を持つ。運命により行いました、なんて言い方のほうがわかりやすいかもしれない。
そんな言葉を他の誰でもない名門呪術師の血を引くクラウスが口にするということは大きな意味を持つ。星に導かれるのには当然ながら、見えない理由があるとされている。簡単に言うと『神の意志』だ。
クラウスは公爵家に来た理由は神による導きによるものだと発言した。驚かずにはいられない
この世界は精霊も聖獣も存在するファンタジー。でも、いや、だからこそ『神』は信じられている
そんな神の意思で来たのなら、内容如何によっては不敬な態度も許されてしまう
そう、『星に導かれる』というのはかなりの爆弾発言に近い。しかし、クラウスはそのすぐ後にもっと大きな爆弾を追加してきた
「私がここに来た理由は簡単です。そこにおられますルーナ・ナハトメイヘルン公爵令嬢…彼女が本来ならば3日前に亡くなる運命だったからです」