根っこ広場
「ふぅ、結局、オオカミには会わなかったね」
きつねは少し息を切らしつつ言いました。
あの後、彼らがオオカミに出会うことはありませんでした。どうやらオオカミはくまのうなり声におびえ、どこかへ逃げてしまったようです。
くまは大きくうなずきます。
「お、オオカミにはもう関わりたくないよ……」
「けれど、また森にオオカミがでるかもしれないわよ? この森には危険な動物は出入りできないはずなのに、なぜ今日はでたのかしら」
「僕がちょっと森の安全を確認しておくよ。日常的にオオカミがでたらたまったもんじゃないからね。そのときはくま君、頼んだよ?」
「ぼ、ぼく!?」
くまはりすのご指名に目を白黒させました。
「だって君しかいないじゃないか」
「で、でも、ぼく……まぁ、頑張ってみるけど」
「まぁ、オオカミが入りそうな場所はだいたい分かってるんだ。君に頼むことはきっとないと思うけど」
りすはまたあのいたずらっぽい笑みを浮かべます。
「頼りにしてるよ、くま君」
そうこうしているうちに動物たちは池の近くまでやってきていました。激しく流れていた川も今ではちろちろと小川のように流れています。
「あっ!」
と、突然目の良いあらいぐまが叫びました。あらいぐまはりすを抜かして走っていきます。
「広場だ! 広場がすぐそこにあるぞ!」
「うへっ、本当に根っこばっかだぜ、この広場!」
さっそくたどり着いたようで、興奮したあらいぐまの声が森によく響きます。
「僕たちも急ごう」
りすはそう言って歩くペースを少し早めました。りすの小さな足がちょこまかと動きます。動物たちもりすに合わせてだんだんと早足になっていきます。
すさまじい速度で足を動かしていたりすはふと足を止めました。
「さて、ここが『根っこ広場』だ」
りすの言葉に動物たちは周りを見回します。
周りを背の高い木に囲まれた広場は、あまり日の光も入ってこないようでした。暗い広場の地面を見ると、木の根っこがたくさんあるのが見えました。
「俺、転ぶとこだったんだぜ? やべぇな、ここ」
「根っこ広場は真偽を問うための場所だからね。走り回るための場所じゃないさ、あらいぐま君」
「……あぁ、りすさん。すまねぇ」
あらいぐまは大きな根っこに腰をかけていました。しかし、ついさっきまで走り回っていたであろう証拠として息を荒くさせています。
「さて。ここで、犯人を暴こうか」
「その前に、この広場の噂が本当か確認した方が良いのではないですか? りすさんは池の噂しか確認してないですよね」
「おっと、そうだね。じゃあ、あらいぐま君に質問だ。君は今までここで駆け回っていたかい?」
へびの指摘を受けてりすがあらいぐまに質問しました。あらいぐまは嫌そうに眉をしかめつつも
「あぁ」
とぶっきらぼうに答えます。動物たちは地面をじっと見つめますが、根っこは動くそぶりさえみせません。
「とりあえず、本当のことを言って捕まる人はいないみたいだね? とりあえず、順番に僕が質問していこうか」
りすはそう言うと続けてあらいぐまに質問しました。
「君はこの森の虹を消した犯人かい?」
「ちげぇよ」
再び動物たちが地面を注視します。根っこは動きません。
「え、あらいぐまさんではないのね!?」
「だからちげぇって言ってんじゃねぇか」
思わず飛び上がったこまどりにあらいぐまはだるそうに言い返します。
「じゃあへび君。君は虹を消したかい?」
「違います」
誰も根っこに捕まらないまま、くまの番がまわってきました。
「ど、どうしよう……犯人がぼくだったら」
「大丈夫だよ。くまさんは自分を証明するためにここにきたんでしょう?」
「そ、そうだけど……」
くまは不安そうにしっぽを内側にしまいこみます。
「さて、君で最後だ、くま君。君が犯人じゃないことは僕が知っているけどね……一応確認だ。君はこの森の虹を消したかい?」
くまはおびえて目をつぶりながら答えました。
「ち、違います」
根っこは微動だにしませんでした。
なかなか目を開けようとしないくまにこまどりが語りかけます。
「くまさん、あなたは犯人じゃないわよ。おめでとう」
「ほ、本当!?」
くまは根っこが全く動いていないのを確認すると、
「良かった、ぼく犯人じゃないんだ!」
と喜びにわきました。
と、ここであらいぐまが首をひねりました。
「じゃあ誰が犯人なんだよ?」
その疑問はほかの動物たちも抱いていました。
ここにいる動物たちが虹を消していないとするなら、誰が虹を消したというのだろう──
「もしかしたら、ここの噂が偽物だったのかもしれないけど……僕は森の虹を消したのは君たちじゃないと思うんだ。ちょうど、森にオオカミが入り込んでいたことだし、入ってきた誰かさんが消したんじゃないかな?」
「確かに、森の守りが薄くなっているのならその可能性が一番高いです」
へびがりすの意見に賛同しました。
「だろう? とりあえず、虹を取り戻しに行こうじゃないか」
りすの一声に、動物たちは池まで駆けていきます。