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おんぼろ橋

「それで、どうやって池まで行くの?」


 きつねがおずおずと口を開きます。

 池に行くと決まったは良いものの、池への行き方が動物たちには分かりません。


「俺らの方に来てくれよ」


 あらいぐまは当たり前だろ、と言葉を放ちます。

 東側の動物たちはあらいぐまの言葉に少し顔をしかめました。もしそんなことをしたら西側の動物の方が有利に決まっていたからです。

 森を二つに分けるこの川は深く、水の流れも激しいことで有名でした。川を渡る手段は一つ、このおんぼろ橋を渡ることだけ。けれど橋もぼろぼろで、りすが今立っていられるのも奇跡に感じられるほどになっていました。


「そ、それはちょっと……」


 そう言いかけたくまをりすがさえぎります。


「うん、そうしよう。今日は西側から行った方が何かと良いんじゃないかな。道は僕が知ってるから、僕がそこまで案内するよ」


 そして、りすは東側の動物たちに向かってこう付け加えました。


「この橋は案外強いんだ、くま君が渡っても壊れないさ」


 くまときつねは不安そうな顔をしていましたが、賢者のりすが言うことですから本当に違いありません。

 こまどりの


「いざというときはわたくしが拾いあげるわよ」


 という言葉もあり、二匹はそれなら、と納得しました。



 さて、こまどりは飛んで渡ることができますが、きつねとくまは今すぐにこのおんぼろ橋を渡らなくてはなりません。

 くまが必死に嫌がったのできつねが先に渡ることになりました。きつねはそろり、と前足をかけます。

 橋の中央にいたりすはきつねのすぐ近くまで駆け寄り、安心感をもたらす笑顔できつねのことを見つめています。


「目はつぶらない方が良い。けど、下を見るのは厳禁だ。恐怖に呑まれたら動けなくなるからね」


 きつねは橋にのせた前足に体重をかけました。そして、他の三つの足も前へと進めます。これできつねの全身が橋の上に乗りました。きつねの体は恐怖と緊張で細かく震えています。

 けれど、一度歩を進めれば後は一瞬でした。東の動物も西の動物も固唾を呑んで見つめるなか、きつねは順調に前に進んでいきます。自分の十倍ほどの長さの橋を、きつねはもう渡り終えようとしています。


「ふぅ……」


 きつねはようやく地面に足をつけ、大きくため息をつきました。

 そして、動物たちの視線は自然とくまに集まります。


「わ、わぁ、きつねさんはすごい!」


 くまはそうきつねを称賛すると、


「で、でも、ぼくにできるかなぁ」


 と暗い顔をしました。

 橋は長くも短くもない、きつね十匹分ほどの長さ。けれどそれは、今のくまにとっては果てしないほどの長さに見えています。そもそも、きつねとくまでは重さも器用さも全く違うのです。くまは、西側の岸にいる自分を全く想像できませんでした。


「お前さ、そうやってびくびくしてるといらつくんだけど」


 きつねが渡り終えてから何分か経ったあと。橋を見て固まっているくまに対してあらいぐまが口を開きました。他の動物たちがたもっていた沈黙が破られます。

 どすのきいたあらいぐまの声に気がつくと、くまは驚いて体を震わせました。


「ご、ごめん」

「別に謝れってわけじゃねぇけど。たださ、もうちっと周りの奴を信用してやれよ。賢者のりすさんがお前は渡れるっつってるんだぞ」


 あらいぐまは普段よりもさらに声を低くして話を続けます。


「それになぁ、お前が渡んないとなぁんにもはじまんねぇんだよ。別に俺らはお前をおいてっても良いけどよ。ただ、根っこ広場で犯人が見つかんなきゃあお前が犯人になるだけ」


 まぁ俺としちゃあ万々歳だけどな、とあらいぐまは最後に付け加えました。


「そんなひどいこと言わないでちょうだいよ。ねぇ、くまさん? あなたが来たくないならわたくしがあなたの無実を証明するわ。でも……わたくし、あなたと行きたいのよ」


 あらいぐまの態度に憤慨しつつも、こまどりはくまのまわりで羽ばたいています。


「ぼ、ぼくは」


 みんなに見つめられながらくまが話し始めました。


「行ってみたいんだ、願いが叶うっていう池に。でも、ぼく、勇気がなくて、だから」

「──行かないんですか?」

「い、行くよっ!」


 くまは声を振り絞って言いました。


「怖いけど、でも、行くよ。だから、渡るよ」


 くまの太い足が橋に近づいていきます。あきらかに激しく震えていて、そんなくまの様子を動物たち全員が見守っていました。

 と、橋の真ん中あたりにいたりすがくまの方へやってきます。


「あ、もしかしたら。僕とくま君の体重をあわせたら橋が落ちるかもしれないね」


 りすは出し抜けにそんなことを言い始めました。くまは驚いて、


「え、えっ!? 待って!」


 とさっきよりも大きな声を出して後ろに倒れこみます。倒れたくまの耳元までやってくると、りすはくまにしか聞こえないようにささやきました。


「だから、これは特別さ。賢者の魔法ってやつだよ」


 そして、みんなに向かって叫びました。


「ちょっとだけ、目をつぶっててくれないか?」


 次の瞬間、くまの体がふわりと浮き上がりました。浮かんだ体は風を切るように西へと移動していきます。くまは固く目を閉じているようです。


「うわぁ!?」

「静かに」


 どーん、という激しい衝撃にくまは目を開きました。見えるのは、同じように目を見開いている他の動物たちの姿です。


「みんなには秘密にしておいて、くま君」


 くまの耳から這いでたりすは茶目っ気たっぷり、と言わんばかりに片目をつぶっています。


「う、うん……」


 くまはあっという間に動物たちに囲まれてしまいました。


「どうやってここまで来たの? ずいぶんと速かったじゃない」

「おい、ちゃんとできるんじゃねぇかよ」

「う、うーん、なんか川を渡れちゃった、みたい」


 何はともあれ、これですべての動物が西の岸に集まりました。



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