第八話 お風呂ウィズ娘ズ
「さあ優結、ばんざいよ! ばんざいして、パパにふくをぬがしてもらうの」
「ばんじゃいっ!」
「はい、じゃあ上から脱がすよ~」
脱衣場で、入浴の準備をする。
俺は、腰くらいの背丈の優結に合わせて屈み、服を頭と腕から引き抜いた。
愛がナビゲートしてくれるおかげで、優結の脱衣もスムーズだ。
愛自身も、進んで脱がせやすい姿勢を取ってくれる。
「まずはうえから! おつぎはスカートね」
愛ナビは俺も誘導してくれるらしい。
そこまで分かっているなら、自分で脱いでくれてもいいのだが、パパに脱がされるのも楽しみの一つらしく、優結と二人できゃーきゃー盛り上がっている。
愛と優結は、幼稚園の年中さんと年少さん。
そろそろ一人で脱いでほしい気もするが……喜んでいるので、今はまあいいか。
「はい、よくできました!」
「パパ、ぬがすのじょうずね!」
愛先生と優結先生から、光栄にもおほめの言葉までいただいた。
「ほい、じゃあこれ。きょうのパンツは、さくらんぼだったのよ♡」
「ゆいは、りぼんの!」
うん、知ってる。
真っ裸になった二人は、脱ぎたて、というか脱がしたてのパンツをわざわざ見せてくれるが、それも俺が昨夜選んだ……選ばされたものなのだ。
しかし、昨夜と同じものをはいているということは……おもらしとかで替えなくて済んだんだな。
華弥もそろそろ裸になったかな……と思って見ると。
フル装備状態――脱衣場に来たとき、そのままの格好で立っていた。
「華弥、お風呂に入るけど、服脱がないの? それとも、今日は一人で入る?」
意思確認をすると、華弥はふるふると首を振る。
「華弥も、ぬがして」
そして俺へ向けて、両手を差し出すように広げた。
ふむ。華弥こそ、いつも一人で脱いでいるのだが。
先ほどのパンツのことといい、今日はとことん甘えたい、あるいは構ってほしい気分なのかもしれない。
「よーし、じゃあお父さんが脱がせちゃおう!」
「はい、おねがいします……!」
俺はしゃがんで、ワンピースのボタンをひとつひとつ外していく。
華弥はやはり耳まで真っ赤だ。
もう年長さんなのだし、無理に愛たちに付き合うこともないと思うが、恥ずかしさより甘えたさが勝つこともあるのだろう。
「ありがとうございました……」
裸になった華弥は、照れながらも、ぺこりとお辞儀した。
「いえいえ」
俺も思わずお辞儀を返す。
何だこの状況。
子どもの反応は本当に面白いな――と思いつつ、三人をバスルームへと入れる。
幼い娘たちをお風呂に入れるのは俺の役目――というわけではないが、流れ上、そうなることが多い。
妻の負担をわずかでも減らしたいという気持ちもある。
優結たちも、ママに比べれば家を空けている俺と、少しでもいっしょにいたいと思ってくれているようだ。
手早く服を脱いだ俺も、続いて入ろうとしたところ――。
「おお……ちょうどいいところに……♪」
「ダーリン、お待たせーっ♪ 美貴が来たよ~っ♡」
巴と美貴が、着替えを持ってやってきた。
五女の巴と四女の美貴は、小学一年生と三年生。
華弥たちよりもお姉さんだ。
しかし未だに、父親とお風呂に入りたがる。
必ず毎日、というわけではないが……まあ九割くらい。
「ん、脱がして……」
巴は当たり前のように手を広げ、俺に脱がされるのを待っている。
巴は賢いのだが、面倒くさがりだ。
しかも、体力の電池切れなのか脱力気味。
眼鏡の奥の瞳も、とろんとしている。
もっと早くゲームを切り上げた方がよかったかな?
とも思うが、興味の薄い事柄に対しては、割といつもこんなテンションだ。
仕方がないので、俺にもたれかかってくるミニマムな体から、服を一枚ずつ剥いでいった。
「それじゃあ、美貴の番ね♡」
「美貴は自分でできるでしょ」
ここまで娘たちに流されてきた俺だったが、さすがにそこまでは甘やかさないぞ。
巴と違って、元気もあり余っているようだし。
何よりこの調子では、いつまで経ってもお風呂に入れない。
「ぶぅ~、ダーリンの意気地なし~。いくら美貴がセクシーだからって、そんなにテレなくていいじゃない……」
俺が追加のタオルを用意し、巴を抱きかかえる内に、不満げな美貴は体をくねらせながら、妙にもったいぶって服を脱いでいった。
リボンも解いて、髪を下ろす。
「ほら、このフリフリつきの水玉ぱんつ。ダーリンの手でぬがせられたのに♪」
「そういうことを言うから、なおさら自分でやらせるんだぞ」
美貴――この華やかでおませな娘の相手をするのは、凛とはまた違った難しさがあるなぁ。
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子どもといっしょにお風呂に入る。
それは親にとって、大変でありつつも、楽しい時間かもしれない。
が、子どもの自立やプライバシーを考えると、そう単純な話ではない。
特に父と娘であれば、よりデリケートな要素を含む。
我が家では基本的に、子どもが小学校に入るタイミングで一人部屋を与え、お風呂も一人で、あるいは子どもたちのみで入るように誘導しよう、と決めている。
もちろん子どもが望めば、その時期を早めたっていい。
これは、子どもの自立を促し、プライバシーを尊重するため。
また、子が親離れする際に、どうしても感じてしまう寂しさやショックに対して、あらかじめ心の準備をしておくため……という、親側の隠れた事情もある。
理沙が生まれて、まだまともに言葉も発せないうちから、来たるべき娘の旅立ちの日を想像し、俺は密かに泣いた。
いっしょにねたくない。
いっしょにおふろにはいりたくない。
恋人ができた。
結婚する――。
その日を思うと、複雑な感情が溢れてくる。
しかし、どれも成長の過程として自然なことで、必要なことだ。
もっとも、恋人や結婚については、多様な価値観があるし、娘たちがどうするかは分からないけれど。
今から想定しておくべきことではある……と俺は思う。
だから、妻の沙織と話し合って、小学校入学を、自立を始めるタイミングの一つとして決めた。
決して早すぎることはないと思った。
沙織には俺ほどのシリアスさはなかったが、一応賛同してくれた。
しかし、当然と言うべきか。
娘たちは、親が勝手に決めたルールに、素直に従う子たちばかりではなかった。
たとえば――。
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小学校へ入学する、少し前。
「そろそろパパとは別々に、お風呂に入ろっか?」
――と提案したとき。
美貴は、手を付けられないほどに反抗した。
「それって、どーゆーコト!? せっかく、みらいのおよめさんと、いっしょにいるのに、おふろをべつべつに、はいるなんて! もったいないにもほどがあるわ! もったいないのはよくないって、パパもママも、いつもいってるじゃないっ!」
当時はまだダーリンではなくパパと呼んでくれていた美貴から、山ほどお叱りの言葉をいただいた。
「美貴のキモチがわかってないの!? ゆるせないわっ!」
「ちっちゃい美貴にしか、キョーミなかったってゆーコト!?」
「美貴をひとりにするなんて! どーしてそんなヒドイコトができるのかしらっ!」
「ずっといっしょって、やくそくしたよね……? 美貴は、ホンキだったのに……!」
様々な言葉で抗議され、俺の心もまあまあのダメージを受けた。
美貴は当時も今も元気いっぱいで、わがままを言うこともあるが、駄々をこねるという言葉が当てはまるほど荒ぶることは、そうそうない。
しかしあのときは、美貴史上最大と言っていい暴れっぷりだった。
さらには、すでに親離れが始まりつつあった三女の凛や、俺の方針を理解してくれているはずの沙織までもが、最終的に美貴の味方に付いた。
俺は、なぜだか悪者になったような気分になり……折れた。
パパとお風呂を別にすることを、やんわりと提案しただけのはずなのにな……。
とはいえ美貴は、恋に恋している様子であり、物心が付く頃から俺に恋人ごっこを迫ってきていたほどだ。
小学校に行けば、すぐに気になる相手でもできて、父親から離れていくだろう、とも考えていた。
だが、まだそんな気配は一向になく――今もこうしていっしょにお風呂に入り続けている。
おませなようで、意外に無邪気なのかもしれない。
また、小学校入学前の巴に、パパとお風呂を分けることを提案した際は――。
「結果は分かっている……というのに……。過ちを何度も……繰り返すなんて……パパって面白い……♡」
よく分からないが、何だか恐ろしいことを言われた。
それでもめげずに、説得を試みたところ――。
「将来の自立とか……何を的外れなことを……言っているの……? 自立なんてしないわよ……。一生パパが……面倒を見なきゃ……いけないのだから……。分かったら早く……契約書にサインして……? “責任を持って……いつまでも養います”……と書いてあるわ……。経済面は……私も支えるから……平気。多分……特許とかで」
見事に前提から覆された。
結局、巴にはまだ早いということになり――今もこうしていっしょにお風呂に入り続けている。
そして、次女の翔子は――。
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「お、やってるやってる♪ ボクも仲間にいっれて~♪」
翔子はこのように、気まぐれにお風呂へ乱入してくる。
我が家では二番目のお姉さんで、もう小学五年生だというのに、何の躊躇もない。
翔子の場合、美貴や巴のときのような、説得も議論もなかった。
……というか、無視された。
例によって、小学校入学前。
「明日から、パパがいなくてもお風呂に入れる?」
そう尋ねると。
「うん、はいる~っ!」
翔子は即答した。
さっぱりしているな……と、ちょっぴり寂しさを感じていたのだが。
そんな会話をした翌日、凛や美貴をお風呂に入れようとしている俺の後ろを、当然のようについてきていた。
その習慣はずっと変わらず、今に至る。
大体は下の娘たちを洗っている最中に、嵐のようにやって来るので、追い返すわけにもいかない。
結局、おとなしく俺とのお風呂をやめてくれたのは、長女の理沙と三女の凛だけだ。
二人は、小学校入学とほぼ同時に、一人で入ることが多くなった。
ほとんどの娘が、今も父親とお風呂に入っているこの状況について、沙織は――。
「お湯も時間も節約できるし、いいんじゃない?」
――と言う。
確かにそれはあるな……。
それに――。
「とーちゃん、こっち向いてっ♪ えいっ!」
「すごい! てから、みずとんだ! ゆいもやるっ!」
正直言うと、かなり楽しいんだ。
【七女・愛のウワサ 1】
「愛がパパをすきになるより、パパが愛をすきになるほうがだいじ」らしい。
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『パパ大好きな娘×8の日記! ~毎日アイをうけとって♡~』
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パパ!
愛たちと、もっといっしょにいたいなら――
にっきもよんでねっ♪
このまえは、せつぶんやったよ!
そして、もうすぐ――
あ、これはないしょ♡
ぜーったい、ないしょだから――
優結にきいて、ずるしちゃダメよ♡
あのこ、すぐにいっちゃうもの!
ヒミツをまもれるパパでなきゃ――
愛のは、あ~げないっ☆




