第六話 はしるぞ! ブタのたいぐん!
「とーちゃんっ! 約束通り、ゲームするよっ!」
夕食が終わるやいなや、翔子はリビングのゲーム機を起動させた。
自分の食器はもう洗ったようだ。
遊びのこととなると、本当に行動が早い。
他の娘たちも、それぞれ食器を片付け、テレビの前のソファに集まり始めた。
まだ小さな優結たちの後片付けは、沙織と理沙がしてくれている。
妻と長女には毎日家事をしてもらっているので、片付けだけでも手伝おうと思うのだが、いつの間にか二人が済ませてくれていることが多い。
以前、少し後ろめたさを感じていた俺に、妻曰く。
「あなたは、みんなのお相手をしてて。あなたが洗い物をしていると、みんなキッチンへ押しかけてきて、大変でしょう♪」
――とのことだ。
元気があり余っている娘たちの遊び相手になるのも、大事なことというわけらしい。
また、理沙も――。
「私、お家のお仕事をするのが、大好きなんです……♡」
――と言ってくれる。
それは本心だろうかと、前は思っていた。
もし、長女であることの責任感から頑張ってくれているのであれば、申し訳ないどころの話ではなくなる。
しかし、沙織といっしょにずっと見ていると、どうやら本当に楽しんで家事をしてくれているようだ。
お母さんからのレクチャーを受け、その腕も急上昇しているので、今では安心してお願いしている。
二人には、後でたくさんお礼を言っておこう、と思いつつ――。
まずは目の前の勝負に集中することにした。
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画面に映し出されるのは、先ほども娘たちがプレイしていた、『トン走! ピッグレーシング』。
メーカーともども、あまり有名ではないレースゲームで、俺もノーマークだった。
しかし、お店でたまたま優結が見つけ、購入を熱望したために、我が家のラインナップに加えられることになったのだ。
絶妙にリアルなモデリングのブタたちが、自由を求めて牧場から逃げ出すも、牧場からの刺客・狩猟ブタたちの追跡の手が迫る――というストーリーが付いている。
「あ! はじめの、とばしちゃだめよ!」
優結が俺の膝の上へ飛び乗りながら、デモムービーを見る。
(優結が見つけなければ、このゲームで遊ぶことも一生なかっただろうな……)
可愛らしくもシュールなムービーを見つつ、俺はそんなことを考えていた。
娘たちはいつも俺の人生に、新しい出会いや発見をくれる。
このゲームは、逃げるブタチームと追うブタチームに分かれ、対戦ができる。
チームメンバーの順位や活躍等を総合して勝敗が決まるほか、協力して相手チームを妨害したりもできるのだ。
意外に奥深いゲーム性と、プレイ中は優結が大層喜んでくれることにより、我が家ではなかなかの人気コンテンツとなっている。
今からプレイするのは、三対三のチーム対戦。
じゃんけんの結果、俺は逃げる側として、凛、華弥と組むことになった。
対するは、翔子、美貴、巴の追跡チーム。
「負けたらバツゲームがあるからねっ! カクゴしなよ、とーちゃん♪」
「ダーリン、勝負では手かげんなしよっ!」
「ただ勝つだけでは……つまらない……。どう追い詰めて勝てば……楽しいかしらね……♪」
自らの勝ちを疑わない、余裕な様子の追跡者たち。
確かに相手チームは強敵だ。
三人とも、普段からよくゲームをする。
特に翔子と巴は、ジャンルを問わず様々なゲームで競い合っているライバルのような関係であり、ゲーマーとしては我が家のツートップだ。
しかし、俺もそんな娘たち相手に日々鍛えているので、負けてはいない。
「パパがんばれ~!」
「がんばー」
愛と優結が踊りながら応援してくれる。
二人ともゲームを触ることもあるが、今夜は応援の気分らしい。
俺の周りで飛び跳ねたり抱きついたりしてくるので、正直少しゲームをやりにくい。
だが、それを上回るほど、力をもらえる。
俺の仲間の凛と華弥は、相手の三人に比べると、ゲームに慣れていないはず。
しかし、うまく連携すれば十分に勝てる……!
「凛、華弥、いっしょにがんばるぞ!」
「ええ、何があっても、ぜったいに、私が華弥を守るわ。いざとなったら、あんたをタテにしてでも……!」
「いや、華弥とも俺とも協力しないと勝てないって」
「華弥は、お父さまについていこっかな……。華弥のブタさん、きっとお父さまのブタさんのこと、だいすきだとおもうの……♡」
ゲームの目的を見失っていそうな凛と、新たな設定を追加する華弥。
このチームはうまくいくだろうか――。
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『プギィィィィッ!!!!』
華弥の操るピエトレンが、大柄なラージブラックを弾き飛ばした。
偶然にも強化飼料を拾い、パワーアップしたのだ。
『ブモアァァァ……ッ……モアァァァ……ッ……ァァァァ……ッ……!』
「なんとぉ!?」
ラージブラックはやけに迫力のある鳴き声をエコーさせつつ、コース外へと落ちていく。
翔子は、相棒のあまりにもあっけない脱落に、驚きを隠せない。
先ほどから、華弥が意外にもいい動きをしている。
「わぁ、華弥のブタさん、すごい……。くろいブタさん、だいじょうぶかな……」
思わずつぶやく本人は、ゲームのルールをよく分かっていない様子だが、今日はツイているらしい。
狙ってもなかなかできないほどの、ファインプレーの連続だ。
「ふぁ~~~おっ! かっこいい! うっきょーっう!」
様々なブタたちが魅せる、体を張ったバトルに、優結の興奮も最高潮。
一方、凛は――。
「これ、何で反対に行くの!? パパ、何とかしてよ!」
壁に向かって走り続けたり、逆走したりと、散々だ。
なかなか焦っている様子。
最近は俺を“あんた”などと呼んでいるのに、幼い頃の“パパ”呼びが復活してしまっている。
ちょっと面白いが、おそらく無意識だろうし、今はそっとしておこう。
「あら……そんなに可愛いことを……していると……いたずらしたくなっちゃう……♪」
柵と箱の間に挟まった凛のハンプシャーを狙うは、巴の愛豚、狡猾なるデュロック。
巴の眼鏡がきらりと光る。
『ブモウゥゥゥンッ――!!』
しかし、俺のサンゲントンが箱ごと凛を跳ね飛ばし、辛くも巴の罠から救い出した。
優結の大好きなサンゲントン。
その扱いには慣れているのだ。
優結のリクエストを受け、日頃から使い込んでいるからな!
「え!? 私、飛んだの?」
「ぐぬぬ……さすがパパ……」
その後も、美貴のラージホワイトが俺を執拗に追って来たり、復活した翔子が再び華弥に突き落とされたり、色々あったが――。
俺たちのチームは、勝てた。
【五女・巴のウワサ 1】
一番好きなイノシシ科の動物は、バビルサらしい。