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パパと娘⁸のらぶらぶライフ ~うまれたときからアイしてるっ!~  作者: カンサー・プロジェクト
第一章 ハッピー・ハッピー・ウィークエンド! ~とある幸せな週末~
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第五話 一家団らん≒大騒ぎ

 目の前には、できたてのオムライス。

 新鮮なサラダ。

 温かなスープ。


 オムライスは、ふわふわとろとろした卵から湯気を立ち昇らせており、食欲をそそる。

 さらにその鮮やかな黄色の上には、ケチャップ文字で、“だいすき♡”と書かれている。

 華弥のリクエストを受けた理沙が、先ほど目の前で書いてくれたものだ。

 

 内心で嬉しさと恥ずかしさが拮抗しそうになるが、自らを奮い立たせて、嬉しさを勝利させる。

 好意を素直に喜べなければ、この娘たちと暮らしていくことは大変だ。


 また、俺のオムライスのすぐ横、同じお皿の上には、もう一つ、やや小さいオムライスが並んでいる。

 そこにケチャップで書かれている文字は、“ぶた!”。

 ……かなり読みにくいけれど。


 さらにその文字の横に書かれている、ぐちゃっとしたものは、ブタの顔らしい。

 初見では分かりにくいものの、よく見るとブタの複雑な表情が浮かんでくる、味わい深い作品だ。


「パパ、これいいでしょ!」


 にゅっ、と俺の視界に入ってきたのは、ミニオムライスの主・優結。

 お姉さんの凛といっしょに書いた文字と絵に、ご満悦の様子。


「可愛くって、おいしそうだなぁ!」


「そうでしょ~!」


 そんな優結が座るのは、俺の膝の上。

 今日はここで食べるらしい。


 我が家の食卓では、それぞれの座る場所を特に定めていない。

 そのおかげで、毎日、色んな席の配置を楽しめるのだが、優結は俺の膝に乗っかることが多い。

 若干食べづらくはあるが、優結の体温と重みと柔らかさを感じられるのは、何にも代えがたい心地よさがある。

 何より優結が喜んでくれるので、乗せないわけにはいかない。


「それでは、食べましょうか」


 沙織の声に続いて、みんなで“いただきます”を言ってから、一斉に食べ始めた。


「うまい、うまい……っ!」


 おいしすぎるオムライスに感動した俺は、思わず声を漏らす。

 沙織の作るオムライスは、今まで数え切れないほど食べているが、いつもため息が出るほどのおいしさだ。

 娘たちも半ば無意識に、おいしい、おいしいと口々に言っている。


「ふふっ、よかった。理沙もがんばってくれたものね♪」


「いえっ、そんな、今日は、本当に簡単なお手伝いをしただけで――」


「そのお手伝いをがんばってくれたから、助かったわ♪」


 沙織は嬉しそうに娘をほめるが、当の理沙は謙遜している。

 これは、俺も続かないとな。


「本当においしいよ。ママも理沙もありがとう」


「あ、ありがとうございますっ! でも、私なんてまだまだで……! お母さんに追いつくには、もっともっとがんばらないとっ!」


「理沙はもう十分すぎるくらいだよ」


「いえいえ!」


 理沙はこんなときでも謙虚で真面目だ。

 それがいいところではあるが、父親の俺に対して、もう少し楽にしてくれてもいい気がする。


「そうね、理沙はお料理も、他の家事も、すっごく上手。けれど、確かに――私に追いつくには、まだまだ遠いかも♪」


「はいっ! がんばりますっ!!」


 いたずらっぽく言う母に対し、瞳をメラメラと燃え上がらせながら答える理沙。

 熱気で眼鏡がやや曇っている。

 

 なるほど。

 意外に理沙は、ちょっと挑発されたほうが、やる気が出るのか。

 娘との接し方を見ても、やはり妻には敵わないなと感じた。


「理沙姉さんのシュギョーもジュンチョーなのね。でも美貴だって、他のコトじゃ負けてないわ!」


「うむ……。各自……得意分野を伸ばし……包囲網を……形成すべし……。逃げ道を断てば……必勝……♪」


 よく分からない会話をしている美貴と巴も、食事を楽しんでいるようだ。


 俺は、がっつき気味に夕食を食べつつ、家族で囲む円卓を見回す。


 長女の理沙。次女の翔子。三女の凛。四女の美貴。五女の巴。六女の華弥。七女の愛。八女にして末っ子の優結。八姉妹の母にして俺の妻、沙織。

 そこに俺を加えた十人が、この家の住人だ。


「とーちゃん、聞いてよ! 今日はボク、サッカーで一ゲームに四点も入れたんだよ!」


「それ、昨日も言ってなかった?」


「ちがうよ凛! 昨日のはバスケで、取ったのは三十点!」


 大切な家族と過ごす、楽しい時間。

 翔子と凛の会話を聞きながら、この幸せを噛みしめる。


「パパ、あーんっ!」


 優結の掲げるスプーンが、浸りかけていた俺を、現実へ引き戻した。

 優結は、俺にオムライスを食べさせてくれるようだ。


「はい、あーん♪」


「うぶ」


 優結が口中へ突っこんできたスプーンを、やや苦労しつつ受け止める。


「パパ、おいしー?」


「もがっ、おひしい」


「よっしゃ♪」


 パパへのご飯食べさせミッションが成功し、満足げな優結。

 そんな優結のやわらかほっぺに、ご飯粒を発見した。

 俺は人差し指で、周囲に付いているケチャップごとご飯粒をすくう。


「優結、ほっぺに付いてたよ」


 ぱくぅっ!

 優結の前に指を差し出すと、即座に第二関節あたりまでを口に含まれた。


 俺と優結の左隣に座り、ウサギの絵が描かれたオムライスを咀嚼していた華弥は、そんな俺たちを見ており――。


「あ、お父さまも……。じっとしてて……」


 言うが早いか、俺に寄りかかって背伸びをし――俺の頬を舐めた。

 小さな舌の感触がこそばゆい。


「お父さまのケチャップ、なめちゃった……♡ おいし……♪」


 どうやら、優結に食べさせてもらったとき、俺の頬にもケチャップが付いていたようだ。


「華弥、ありがとう」


 お礼に、そのなめらかな髪を指で軽くすいてやると、華弥は笑顔でちょっと跳ねた。


「あ……えと……私……」


 自分のお皿と俺を交互にちらちら見ている理沙が、視界に入った。

 どうしたのかと思う間もなく――。

 俺と理沙の間に座っている美貴が、素早くお皿の端のケチャップを指ですくい、自分と理沙の頬に付けた。


「ああっ、ダーリンっ! 美貴も理沙姉さんも、ほっぺにケチャップ付いちゃったぁ~っ! ダーリンのお口で、取ってほしいな……♡」


 理沙の腕を引きつつ、俺にしなだれかかってくる。

 どうしたものか……。

 娘のリクエストには応えてあげたいが、これは収拾がつかなくなる予感がするぞ。


「とーちゃん、ボクもやっちゃったっ!」


「愛もよ~」


 思う間に、翔子と愛の、鼻の頭やほっぺたにも、ご飯や卵がくっついていた。


「私は……そんなはしたない食べ方しないわ……?」


 さらに凛までもが、口元に大きな米粒を付けてこっちを見ている。

 どうしたんだ凛!

 いつもはそんな調子じゃないだろ!

 周りに流されるな……!


「ふむ……。今から便乗しても……分が悪いか……。更なるインパクトを……求めるならば……リスクがあまりにも――」


 巴のつぶやきも不穏だ。


 助けを求めて沙織を見る。


「あらあら」


 沙織は、随分のんきな様子で笑っていた。

 この程度の騒ぎは大したことないと思っているようだ。

 そのくちびるにわざとらしく付いたケチャップは、見なかったことにする。


 結局。

 パパにしてほしいことがあるなら、夕食後にいくらでもしてあげるから、まずは行儀よくきれいに食べなさい、とみんなに言い聞かせ――。

 にぎやかすぎる夕食の時間は、何とか無事終わった。

【四女・美貴のウワサ 1】

「ユメをかなえる第一歩は、くり返し言いつづけるコト☆」というアドバイスを雑誌で見てから、“パパ”が“ダーリン”になったらしい。

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