第四話 キスから始まる新世界 ~小学生篇~
「――――!」
……見事なまでの不意打ちだった。
全く反応ができないまま――俺は、優結にくちびるを奪われていた。
「ぷはっ」
満足げにくちびるをなめる優結を茫然と見る。
「え、え、え――!」
「優結―っ! 勝手にしちゃダメよ。順番はパパが決めるって言ってたでしょ!」
華弥と愛が驚くが、俺はまだ反応できない。
つい最近までおむつを替えていたような気すらする優結。そのぷるぷるした桜色のくちびるの、柔らかな感触が、熱を持ち残っている。
「ごめん。でも、すきあり! だったから。もう、いつでも仕留めれるもん……」
優結は上唇をvに近い形にして下唇を噛み、謝る。
「巴お姉ちゃんの番なのに……」
「いや、むしろでかした……」
華弥が気遣うが、巴は寛容だった。
「これでスムーズになる……。パパはどうやら……私たちのベビーフェイスを前に……躊躇されていた……ようだから。でも、優結と済ませた以上……退路はない……♪」
全て見透かされている。
「パパ、怖がらないで……。すぐに済むから……♡」
「ああ――」
覚悟を決め、腕の中にすっぽり収まる、巴のコンパクトな体を抱く。
巴が小さな口を開くと、やはり小さな歯と舌が見えた。そこへ、触れにいく。
「――ん!?」
キスの瞬間、その舌が予想外の動きをした。
「どうしたの……?」
戸惑う俺に対し、巴はポーカーフェイス。口元は笑っている。
完全に一本取られた。今の動きはどうやったんだ……? 後でじっくり訊かなければ。
華弥は思い詰めたような表情をしていた。緊張しているだけではなさそうだ。
「お父さま、華弥は今、とてもうれしいです。欣喜雀躍。悲願成就の心持ち――。でも、いいのかな。こんなに早く、願いをかなえて。姉さまたち、特に理沙姉さまは、ずっと我慢してきたのに――」
なるほど。そういうことを気にしているのか。
気にしなくていい。急がなくていい。
どちらも正しいが……。
「いいんですよ」
理沙が言った。その声は、我が子を慈しむ聖母のよう。
「待った時間は一番長いけれど、その分、お父さんと過ごした時間だって、一番長いもの。私は十分、いい思いをさせてもらっています♪ それにお父さんは、これまでできなかった分、これからたくさんしてくれるはずだから――♡」
「そうそう! めいっぱい喜んじゃって! ボクも、妹には少しでも早く、幸せをつかんでほしいからねっ!」
「今の私と……父さんの関係は、華弥のおかげだもの。私より先に結ばれたっていいくらいだわ」
「凛姉さん、いつも言ってたもんね! 妹には、同じ思いをさせたくない、って。美貴だって、妹ちゃんたちに幸せになってほしいよ」
「減るものではないので……」
五人の姉たちが順に言うと、華弥は涙を流しつつ笑顔になった。
「うっ……えうっ……ありがとうございます……っ! 今から華弥も、幸せになりまっすっ……!」
涙をぬぐう華弥の姿に俺も微笑ましい気持ちになるが、そんな場合ではなかった。他人事ではないのだ。
「じゃあ、お父さま――」
お嬢様然とした華弥が、深呼吸して、手を組み、上目遣いに見つめる。薄紅の頬には、まだ涙滴が残っている。潤んだ目を閉じ、濡れたまつ毛が艶めいた。
「お願いします……!」
張り詰めた呼吸から伝わる、痛切なまでの想い。震える姫に答えるため、誓いのキスを捧げる。
最後は、愛。
父親に対してもリーダーシップを発揮する、小さな女王様のことだ。さあキスをしろと、ご指示があると思っていたが――何やらもじもじしている。
「んーんーんー……」
……これは、恥ずかしがっているな。
ひざまずいて、目を合わせ、尋ねる。
「愛。パパはキスをしたい。キスをしても、よろしいですか?」
途端に、笑顔がぱあっと広がった。
「もっちろんよ! いくらだってするといいわ!」
「やったぁ!」
俺も大げさに喜び、愛を抱き寄せようとするが――。
「ちょっと待って!」
両手を突き出し、止められる。
「ふーふーふー。よし、どうぞ! ……やっぱり、まだだめ!」
なかなか始められない。
焦ることはない。このまま気が済むまで付き合ってあげよう。と、いつもの俺なら思うところだが。
「愛、もう待てない」
その柔らかな体を抱き上げ、くちびるを重ねた。
「!!! ……パパったら、強引ね……♡」
「焦らすからだ」
俺も、抑えが効かなくなりつつあった。
一度してしまえば、愛も一転して吸い付きだす。そのまま、しばらく抱っこし続けた。
照射されたハートが周囲を飛び交い、弾ける。
ぱちぱちぱち――。
「おめでとう……! みんな、よかったわね……!」
我に返った俺は、沙織の拍手を聞く。沙織の目も潤んでいた。
「お母さん、ありがとうございます」
「ママがおうえんしてくれたからよっ!」
「父さんだけだと、進まないもの」
「実績解除。コンテンツ開放……。これで自由だ……!」
「順風満帆、大団円ですね」
「ここからが本番よ!」
「また仕留める!」
「ボクも、仕留められるかな……!」
理沙、愛、凛、巴、華弥、美貴、優結、翔子――みんなに囲まれる。誰も、まだ満足していない。
八人の娘にもみくちゃにされながら、俺も新しい喜びを感じていた。
今さらながら自分の気持ちに気付く。何が、娘を幸せにしたい、だ。俺のほうがずっと幸せだ。こんなにも、娘を求めていたんだ。
キャパシティを超えた多幸感にくらくらする。このときを迎えられてよかった――。
「よい、しょ……」
そんな俺たちの横で、沙織が片付けを始める。
それをきっかけに、皆の意識が引き戻される。睦み合いを中断し、沙織に続いた。まずは庭からの撤収だ。熱された心身を、夜風が撫ぜる。
生まれたときからずっといっしょ。産声を上げた赤ん坊のときから、ともに過ごしてきた娘たち。そんな八人姉妹と――今、恋人としての関係を一歩進めた。
そして、これからも、ともに歩んでいく。
この夜が来る前とは、少しだけ違う世界を。
【五女・巴のウワサ 2】
お部屋の中にたくさんの設備があるが、その規模は間取り図と合わないらしい……。




