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魔女っ娘マニラは休みたい  作者: 思井まぶた
1/1

~そうだ、シフト制にしよう~

 疲れてた。


 うちは、ほんまに、疲れてた。





 からだより頭3つ分大きい杖を掲げながら、魔法を使い続けて春夏秋冬、最早季節が三巡り。


 お付きのじじいがもってくる回復の飴ちゃんも、もうビットからキロ、メガ、ギガ、テラ、を通り越してペタ、エクサまでインフレしたいうのに、すっかり効き目が薄まった。

 ギガが足りん!



 天井に広う開いた窓、ひょろひょろきらめく魔力の軌跡が、空を流れて、雲に混じる。


 あああもう、空はあんなにも晴れ晴れとして、完璧なおひるね日和やいうのに!



「もういややぁ!!!!」


 杖を振ってじたばたする。じたばた。じたばた。よけ疲れた。


 不眠不休。魔力出しっぱ、杖かかげっぱ、見かけ年齢大体8歳、ブラック勤務待ったなし。




「いけません! 魔力を切らしては!」


「結界が破れたら、瘴気が流れ込んできます!」


 お付きのじじいどもがほざきおる。


「知らん! もう、うちは限界や!」





 3年ぐらい前、なんや知らんけど地下に埋もれてた魔物やら瘴気やら古代の呪いやらゾンビやら怨霊やらがあふれかえって全世界は阿鼻叫喚。


 200年も前からこの国を守ったっとるさかい、放っとく訳にもいかんしな。


 老婆心いや姉御肌を脱いで、えらいごっつい魔力ぴちぴち最強無敵キュートプリチーなうちが結界を貼りつづけてもう3年や。


 つまりはそういうことやった。








「もういややいうてるねん!」


 3年や。三巡りや。


 町の花屋の奥さん、前はお腹が大きなっとったのに、今は赤んぼ抱えてはる! しかも2人!




「しんどいしんどいしんどい疲れた! 甘いもん食べたいのんびりしたいごろごろしたい遊びに行きたいぃいいい」


 怒りとともに魔力が増して、じゅっ、結界の外で魔物の群れが蒸発する。


 魔物だけ、瘴気だけやったら簡単やのに、呪いやのゾンビやの訳のわからんもんのハイブリッドでいくらのうちでも始末に終えん。


 どうにか策はないものか。



 


「マニラさまぁ。甘いものなら飴ちゃんが、ほら!」


「ちゃうやん、そういうのちゃうやん!」




 こんなことがなかったら、私かて年齢外見ごまかして、きゃいきゃいスクールデイズできたかも知らんのに!


 はあぁ、ため息ひとつ、遠視魔法で街中を見てみる。たぴおかなるもんに若い子らは列をなしてる。


 うちの予知ではあれはあと2か月やな。何年も廃れへんたこ焼きは立派や。





『あー疲れたっぺなあ』


 ザッピング中、不愉快なワードが引っかかった。


 ズーム、ズーム、町はずれの工場でおっさんが伸びをしとる。


 この国でわたし以上に疲れてるひとがどこにおるんや。怒髪天を衝く勢いや。


『明日は夜シフトやけん、のんびりできっぺな』




 んん? シフト?


 聞きなれん言葉に小首かしげる。


 きょとん、鏡に映ったかわいい子は誰や、うちや。萌えや。


 画像でお見せできへんのは残念やな。




「シフトって何や?」


「数人で交代で仕事をする勤務形態のことですかな」



 まんじゅうをひとつ差し出しながら、お付きのじじいが答えてくれる。


 かぷり、茶色い皮にかじりついたら、疲れた体に栗餡があまい。


 数人で。


 交代で。




 ぽく、ぽく、ぽく。


 脳に糖分がじわりしみる。




 ぽく、ぽく、ぽく。


 ちーん。




「……ひらめいた!」


「「「!? なにをでございますか!?」」」





 じじいどもの狼狽なんか気にせえへん、思いついたら即実行。


 杖を小脇に抱えなおし、空いた右手に魔力を集める。




 そうしてうちは唱えた。新しい呪文。完璧な呪文。即興の、思いつきの呪文。


 これで、きっと、問題はクリアされる。





「かしこみかしこみもうす、我一人なりて一つに非ず、体わかれて複となし、心わかれて福となさん!」





 瞬間、右手がぱあああっと輝く。強い光に目がくらむ。


 なんならポップでキュートな音楽でもオプションしよか、まさに魔法少女の変身シーン、おっと脱ぎはせえへんよ。




「おっ、おおお……」




 じじいどもが困惑するのも無理はない。


 はじめて使う魔法やさかい、うちかて簡単に成功して驚いてる。


 光がようやく収まって、目が慣れたころ、うちの周りにうちがおった。それもいっぱい。




「「「「「「成功や!」」」」」」




 部屋の中、散り散りにうちがおった。


 うちがうちを見てはしゃいどった。


 ひーふーみーよ、一目やったら数え切れへん数のうち、要するに、うちは分裂魔法に成功した!



「これでシフトが組めるな!」



 杖を数人で握りながら、他のうち達でシフトの打ち合わせ、あとの何人かは困惑のじじいどもに説明、あとは……。


 うちがいっぱいおるってなんて便利なんやろう!









 これは、疲れきったうちが分裂したはなし。


 分裂して、のんびりシフトで結界を貼りつつ日常を謳歌するはなし。








 そして。


「あれ、ここどこや……? あれ、うちは……?」


 うちは原っぱで目をさます。


 完璧でなかった初めての呪文。


 遠くに飛ばされて、数え忘れた1人のうちが、うちであることを思い出すはなし。










 ともあれ。


「自由と休暇に乾杯やー!」


 まずはのんびり遊びましょ。


 ブラック企業なんて言葉もない、魔法がつかえる、遠い世界での物語。



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