5、それぞれの立場
彼らが生活するこの国立大学は、ノスタル大陸で最も広い国土を誇るファリル王国の第2都市ノレッジのほぼ中央に位置している。
ファリル王国には、国の中央に王族の住まう城や国中の討伐部隊の本部などがある王都ファリオン、東には商業が盛んな第1都市コマリス、そして南に位置するのが教育に重きを置く第2都市ノレッジである。
約500年前までは小国が入り乱れ、争いが絶えなかったノスタル大陸だったが、それまでいなかった魔物の出現と数名の英雄たちの活躍により大陸全土が安定に向かった。その際の功労者たちが数個の国を作り、収めるようになったうちの1つがファリル王国なのである。
その後、王族は初代国王のレジンハルト・ファリルの血を受け継ぎ、現国王のジークハルト・ファリルで14代目。リザリス王女の実父である。
リザリス王女には兄と姉が2人ずつおり、王位継承位が低いこともあり本人が希望した国立大学で今年の春から学んでいる。
そのことまでは、ライラックたちも知っていた。いくら一般の生徒と同じ生活をしていようが、王族というだけで目立つのだ。友人の少ない2人にもその話は届いていた。
しかし、あくまで噂を聞いていた程度である。なぜ目の前にいるのか、2人には検討もつかない。
顔を上げたが、どうしていいか分からず固まる2人に対し先に話をし出したのはリザリスだった。
「私が学長先生に無理を言って、お2人を呼んでいただいたんです。突然すみません。」
「とりあえず座りましょう。」
続いて学長が全員を見ながらそう告げ、自分は元の位置に戻りリザリスを隣に、そしてライラックとロダンダス、フレインにも座るよう促した。
「それで、その、お話というのは?」
「はい。私と使い魔についてです。」
ライラックの問いに答えたリザリスは、小さくなにかを呟いた。するとリザリスの膝の上には真っ白な体をした手のひらサイズの兎が現れた。
「雪兎のアニンです。私の使い魔ですわ。」
「え?使い魔って。王女様は1年目じゃ。」
「ちょ、ロダン!」
「いいんですわ。私はここに一般の生徒として入学したんですから、普通に接してください。」
その言葉にホッとした様子なのはロダンダス。彼は第1都市コマリスの出身で、商人家系の出ということもあり、公の場や礼儀作法に関してはあまり慣れていないのだ。
一方のライラックは少し困惑した様子だ。国立大学があるノレッジ出身の彼は、ノレッジに3つある侯爵家の1つであるカルバン家の次男であり、小さい頃から貴族としてのあり方を学んできたのだ。いくら本人が普通に、と言っていても王族相手に普通になど簡単にできるはずはなかった。
ロダンも礼儀作法は一通りできます。
ただ慣れてないだけなのです。