3、日常の変化
朝食を終え、廊下を歩く2人と1匹は3ヶ月程前から感じるようになった視線にうんざりしていた。
「なぁ、これいつまで続くと思う?」
「うーんどうだろ、もう3ヶ月なのにね。」
「見世物じゃねぇっつーのにな。」
視線の正体は、他の生徒たちの好奇心だ。
3ヶ月前、使い魔召喚の儀式においてロダンダスが大学内で数年ぶりとなるA級聖獣を召喚した。それに教師たちは驚きそして喜んだ。また1人、才能のある生徒が現れたからだ。
だがその直後、今度は教師たちが狼狽えることとなった。理由はライラックだ。彼は大学が始まって約150年の中で初めてとなる、S級聖獣を召喚したのだ。
召喚された本人は、昔ライラックに助けてもらった恩を返すために、使い魔が丁度いいと思ってそうしただけだが、そんな思いは教師たちどころかライラックだって知らない。そのため、S級聖獣の召喚は前代未聞の事件となったのだ。
それ以来、その事件は大学中に広がり、ライラックとレクターはすっかり有名人になっていた。
「先生たちもまだレクターのこと少し怖がるからね。」
「まぁそれは仕方ねーな。だってS級だぜ?その気になりゃ国が誇る討伐部隊だって瞬殺だろ。」
「そんな感じしないんだけどなぁ。小さい頃に友達だった子犬のレクターにそっくりだし。」
(お前が拾ったのはグリフォンだっつの。)
レクターはライラックの言葉に心の中でつっこむ。
ライラックの言う子犬のレクターとは、小さい頃に怪我をしていたところを拾い、手当てをした後しばらくの間共に過ごしていた獣のことである。
大学の隣にある国立学校に通う際に、寮に入るため仕方なくお別れしたのだが、先日の使い魔召喚で現れたグリフォンが子犬のレクターに似ている気がする、という理由でグリフォンにレクターと名付けたのだ。
レクターからすれば、どちらも本人である。
ただし、拾われた際は弱っていたため今よりふた回りほど小さく、そしてなにより翼が消えていた。だからライラックがグリフォンだと気づいてなくても仕方ないとは思っている。
そして、その時の恩を返すために使い魔になった、なんて言えるほどレクターは素直じゃないので、これもまた仕方ないことなのである。
「子犬ね、今は大型犬みたいだけど。」
「ザックのが子犬って感じだよねー。」
聖獣相手にこんなことが言い合えるのは、おそらく大学内でこの2人だけだろう。
周囲にそんな目で見られているとは知らず、今日も彼らはお互いの授業に向かうのだった。