29、手紙
食堂へ移動したライたちは昼食を選びいつもの席についた。彼らが共に行動するようになってすでに3年以上が経過しており、ほかの生徒から注目されることは減っていたが、今日は別だ。
リズの隣に座ったシーリスは、容姿端麗な上に背も高く、なによりローブの背に描かれた紋章が王城直属部隊であることを示していた。
「はぁ、シーリスのせいでまた目立ってるわ。」
「私のせいですか!?リザリス様がいらっしゃればどこでも目立ちますよ。」
「ここじゃそんなに目立たなくなってたのよ。それより手紙は?」
「今出しますよ。」
シーリスは懐から1枚の紙を取り出すと、それを広げ読み始めた。
「久しぶり、リズ元気でやっているか。そろそろ国立大学の卒業が近いと思ったが、どうだ。」
「そうね、ばっちり最短卒業できるってフレイン先生が言ってたわ。」
「そうですか!それは良かったです!」
「ありがとう。で、続きは?」
リズの報告に満面の笑みを浮かべたシーリスを軽くあしらい、リズは続きを促す。それに少しショックを受けながらもシーリスは続けた。
「まぁリズのことだから大丈夫だと思う。それで、卒業後はこちらへ戻ってくるのだろう?その際には盛大に迎えよう。」
「え、いやよ。家に帰るだけで盛大になんて。」
「リザリス様、国王様はお戻りになられるのを大変心待ちにしておられるのですよ。」
「そうかもしれないけど、私は王城に留まるつもりないわよ。」
「えぇ!?」
「とりあえず続き。」
先ほどまで笑顔で手紙を読んでいたシーリスが、驚愕と寂しさを混ぜた切ない表情に変わる。それさえもリズは気遣う様子も見せずに先を促した。
この時2人を見守っていたライとロダンは、心の中で同じことを思っていたと後で知る。シーリスが哀れだな、と。
「またリズと共に過ごせる日を楽しみにしている。それと、こちらに戻った後のことはもう考えてあるから心配しなくていい。気をつけて帰っておいで。以上です。」
「え、考えてあるってなに?」
今までシーリスが手紙を読むのを昼食を食べながら聞いていたリズの手が止まった。そして初めてシーリスの方を向いて聞いた。
それにシーリスは戸惑いながらも答える。
「おそらくですが、リリーシア様の護衛部隊ではないかと思います。リザリス様は討伐部隊への配属を希望されているのではないか、と国王様は仰っておりましたので。」
その言葉に止まっていた手を再び動かしながらリズは素っ気なく答えた。
「嫌よ。私は自分の討伐部隊を編成して前線に出るわ。ライとロダンと一緒にね。」
「えぇ!?リザリス様、本気ですか!?」
「なによ、実力ならあるわよ。」
リズの言葉に、今度は慌てふためくシーリス。それも気に留めないリズを見ていると、これが日常茶飯事であることはライとロダンにもなんとなく伝わった。
その頃には2人の中のシーリスの印象が、一流の魔術師から、王女に振り回される損な役回りの人へと大きく変化していた。
それと同時に、リズが愛称で呼んだりしても大丈夫だと言っていた意味がなんとなく分かった。おそらくリズがいいんだと言えば、それでこの人には通ってしまうのだろう。
全てを察したライとロダンは、目を合わせ苦笑いを浮かべた。
なんともリズらしいな、と。
当の本人はそんなこと微塵も気にした様子を見せず、しっかり昼食を完食していた。