28、訪問者
「さーむーいー!」
透き通る声が響く実習室には、白銀の髪に真紅の瞳を持つ美少女が1人隅で座っている。その周りには3匹の獣たち。真っ白な体は雪兎、黄色に斑点の体は黄豹、真っ黒な尻尾と翼を持つのはグリフォン。いずれもこの国では貴重な存在とされていて、揃って丸まっているところを見れるのは、広いファリル王国でもここだけだろう。
彼女らの視線の先には部屋の半分以上を占める直方体の結界。その中では2人の青年が剣を交えていた。
攻撃をしかけているのは、黒に近いこげ茶の髪と瞳が特徴的な青年。一方防御に徹しているのは暗い金髪の髪に琥珀色の瞳を持つ青年だ。
2人ともかなりの速度で剣を扱っており、その姿は騎士そのもの。まさか片方が魔術師だとは言われなければ気づかないであろう。
少女のため息と、青年たちの剣の音。それらが響く実習室に、突然新たな音が舞い込んだ。
「リザリス様!おられますか!」
「え、シーリス?」
勢いよく開け放たれた扉から現れたのは深い緑色の長めな髪を1つにまとめ、髪より明るい細めの瞳をめいっぱい開いた細身の男性だった。
茶色の膝まであるローブの下には真っ白なシャツとゆとりのある深緑のズボンを履き、足元は黒いブーツを合わせたこの国における一般的な魔術師の格好をしている。
しかし、どれもが高級品であることは一目瞭然で、それはこの男の地位がそれだけ高いということを表していた。
「探しましたよ。こんなところにおられるなんて。」
「え、と、シーリスこそなんでここに?」
「国王様から、手紙を届けリザリス様の様子を見てくるよう仰せつかりましたので。」
その時、今までより一際大きく高い音が響いた。その音の先には床に刺さった剣。2人の青年の勝負が決したのである。
「リザリス様、あの者たちは?」
「あぁ、うん。紹介するね。」
そういうとこちらに気づいた2人を呼び寄せ、シーリスに向かいながら説明を始めた。
「こっちはライ。魔術師でS級聖獣グリフォンの契約者よ。」
「はじめまして、ライラック・カルバンと申します。」
「それからロダン。騎士だけど魔術も使えるわ。それとA級聖獣黄豹の契約者。」
「ロダンダス・アイークです。以後お見知り置きを。」
「で、彼はシーリス・サファリン。魔術師よ。」
「ご紹介にあずかりました、シーリス・サファリンです。王城ではリザリス様の護衛をさせていただいておりました。」
お互いに軽く挨拶を交わしていると、丁度昼休みの鐘が鳴った。
「あ、お昼ね。シーリス、話はご飯食べながらでいいかしら?」
「もちろんでございます。」
「ありがとう。アニン、ザック、レクター!お昼行こ!」
リズの呼びかけに3匹はそれぞれの契約者の元に駆け寄り、シーリスと共に食堂へと移動を始める。
「リズ、俺らも一緒でいいのか?」
ロダンはリズの隣に並ぶと、声を潜めて問いかけた。
王城で直接護衛を行うのは、討伐部隊の中でも最上位の王城直属部隊である。そんな彼とこの国の第3王女であるリズとの話に自分たちが参加していいのか迷うのは当然である。
「もちろん。もうすぐ一緒に王都へ向かうんだし、それも話そう。」
「そうだね。でもロダン、たぶん愛称で呼ぶのはやめたほうがいいと思うな。王女様なんだし。」
「えーいいよそんなの。だって仲間でしょ?」
「いや、そうだけど、でも王城直属部隊の魔術師の前だよ?」
「だーいじょうぶ。それも説明するね。」
そう笑うとリズは苦笑いの2人を引き連れ、シーリスの後を追った。
外は肌を刺すような冷たい風が吹いている。この寒さが和らぐ頃には、3人は国立大学を卒業することになるのだ。
そんな矢先に訪れた訪問者がもたらしたのは、予想外の手紙だった。
新キャラ登場です。
今後ともよろしくお願いします!