24、初実戦
「ライ、ロダン、おまたせ!」
「あれレクターは?」
「3人で頑張れって。」
「無茶言うぜ、まったく。」
リズが2人に近づいたタイミングで、1度月熊と距離を取る。そこで交わされたわずかな会話は相変わらずなもので、3人の緊張をほぐすにはちょうど良かった。
3人が固まったことで、それまで的を絞りきれていなかった月熊がここぞとばかりに迫る。
その巨体からは想像がつかないほどの速さで向かってくる相手に、素早く反応するのはやはりロダンだ。
「風刃」
振り下ろされた右腕をロダンが剣で受け止めると、すかさずライが魔術で援護する。顔にまともに魔術を喰らった月熊はよろめきながらも攻撃してきた相手であるライを睨みつけた。
「よそ見してんなよ!」
受け止めていた右腕が離れたため、刃に添えていた左手も柄を掴みそのまま振り上げる。ロダンの使う剣は両刃であり全長約1メートル、幅約20センチほど。体格のいいロダンには少し短めだが、本来の騎士とは違い魔術を纏わせるためこの大きさがベストだそうだ。
力を込め振り上げた剣は、月熊の硬い皮膚に弾かれ傷もつかない。通常の騎士では相当不利になるだろう。
「やっぱ硬いな、そのままじゃ無理か。」
「ロダン!とどめは僕がやる!」
距離を取り体勢を立て直すロダンに、月熊と正面から対峙するライが叫ぶ。魔術を得意とするライは、自分が1番相性がいいと考えていた。
しかし、速さで勝る月熊は、鋭く尖った爪で切り裂こうとライに迫る。それを交わすので精一杯のライは、とどめをさせる状況ではなかった。
そして少し体勢を崩したところに追い打ちをかけられる。
「しまっ「氷盾!」
迫りくる爪を氷で作られた盾が弾く。それはリズが得意とする、水属性魔術を応用した氷属性の魔術だった。
予想外の衝撃に相手が後ずさり、その隙にライはリズの方へ駆け寄る。そして体勢を整えたロダンと目を合わせると、ここがチャンスだとお互いに読む。
そして決着をつけるべく動き出す。
「ロダン!回り込め!」
「分かってる!リズ援護頼む!」
「リズ、あいつの足元に氷柱撃てる?」
「任せて!ライは?」
「僕はロダンに目がいかないようあいつの注意をひくから。」
ロダンが右側から背後に回り込もうとすると、阻止するべく目がロダンを追う。しかしそうはさせまいとライが水弾で注意を引きながら少しずつ左へ移動する。
痺れを切らした月熊は、ライに標的を絞ると鋭い爪を見せつけながら再び飛びかかろうとした。
「氷柱」
月熊が動く寸前、鋭く尖った10センチほどの氷柱が足元に刺さる。
「炎剣」
そして足止めをされた直後、斜め後ろから炎を纏った剣が月熊の肩から背中にかけてを焼き切った。剣に炎を纏わせることで斬撃力を強化した、ロダン専用の火属性魔術である。
「ぎゃぁぁあ」
「風鎌」
突然の背中の痛みに魔物が叫び声を上げたのは一瞬だけ。次の瞬間にはライが放った、風を集めた真空の鎌がその首を吹き飛ばした。
「は、まじ、月熊の亜種を3人でとか、ありえねーだろ。普通は討伐部隊1組は必要な魔物だぞ。」
「ほんとだよ。ロダン、リズ、お疲れ。」
「なんとかなったねー。」
今しがたライの一撃で絶命した月熊は跡形もなく灰となる。これは魔物特有の現象だ。
「お疲れさん。まぁまぁだったな。」
緊張の糸が切れ座り込む3人に、レクターの辛口な評価が与えられた。思わず文句を言いたくなりレクターの方を向くと、言葉とは裏腹に長い尻尾が嬉しそうに揺れており、それを見て3人で吹き出した。
「レクター、素直に褒めろよな。尻尾揺れてんぞ。」
「私褒められて伸びる子なのになー。」
「うるせぇよ。ほら、帰るぞ。」
そこにアニンを乗せたザックがちょうど戻ってきた。
「おうザック、終わったぞ。」
「おつかれロダン。足引っ張ってない?」
「おま、そーゆうこと言うなよ!」
すっかりいつも通りに戻った彼らは、討伐の証となる灰を少しだけ袋に詰めると、森の出口へ向けて歩き出した。