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6.放課後

 さぁてそんなこんなで次の日。

 小波はハッキリと解る程に樋渡にまとわりついて隙さえあれば話しかけていた。

 そして辟易とする樋渡。たまに俺に助けを求めるような目線を向けてくるのだが、俺も昨日の今日で小波にムカついていて近づく気にもならない。

 そして微妙な表情で樋渡と小波を見ている陽山。さらにどういう訳か教室に来た多仲さんと土方先輩と林原先輩。


 この展開は元のめきメモ2には無かった展開だけに先が読めないのだが。

 目を閉じて集中し、彼女たちの好感度を探ってみると別に減ってはいないのだが増えてもいない。

 思いの他悪い影響も出ていないようだ。


 もしこのまま好感度が上がらないようだったら鬱陶しそうに小波の相手をしている樋渡には申し訳ないが時間稼ぎの生贄になってもらおう。

 そして可能性は殆どないだろうが新しく開けるかもしれない樋渡ルートか、既に好感度が恋愛モードに達してる陽山ルートに進んで貰うことが出来れば俺としては僥倖である。




 そんなこんなで放課後。

 珍しくどのヒロインの好感度が一も上がることなく一日を終えることが出来た俺はご機嫌に放課後の教室でひとり本を読んでいた。

 最近小波のことで頭がいっぱいすぎて本を読む暇もなかったから、久しぶりに読書を楽しむことができてとてもリラックスできている。

 そんなことをしているうちに、夏も終わって少し短くなった日が傾いて、窓から金色に輝く夕日が入ってくる。


 ふと本を置いて立ち上がるって窓の外を見ると、夕日に照らされた黄金色に輝くグラウンドで運動部がジョギングをしている。



 ───誰もいない放課後の教室。

 眩しいほどに金色の光の中で、外からは運動部の掛け声だけが聞こえる世界。


「いい時代だよな」


 思わず口から呟きが漏れる。

 そう、いい時代。いい世界。いい人生だ。


 ゲームの世界だなんて馬鹿馬鹿しい話。だがそれを実証出来るだけのことが俺の身に起こっている。

 ならば、この世界は作られた世界なのだろうか。


 今はまだ若く、記憶の中の前の人生では碌に学が無かった俺には、それを探るすべも、知る方法もない。

 だが、それでもいいのではないか。


 記憶の中より善良な人たちに囲まれたこの世界で。

 初めて知る本物の家族をもった、俺よりも善良な俺が。

 俺が知ることができなかった、美しい青春時代を送っているのだ。

 ならば、そこに不満なんてあるはずもなく。俺は俺の知識で。この平和な世界を持続して謳歌するべきなのだ。



 金色の世界の中。

 窓から差し込む目が痛いほどの夕日を浴びて、グラウンドでは、若者たちが驚く程長く伸びた影を連れて走っている。

 誰もいない教室。誰もいない空間。ひとりぼっちだけれど美しい世界。

 そんな中で二度と知ることが出来なかったはずの人生を。青春を噛み締める。


 高校なんて行くことはできなかった。堅気でまっとうな友達なんて一人も居なかった。

 信頼できる女性もいなければ、母親も知らなかった。


 ただ金と煙草と酒と暴力と、腐敗臭をまき散らすような愛にだけ追われていた日々。そして最後のあの痛み。

 そんな俺が今、こうやって他人のモノながら青春の欠片を感じていられることは、奇跡にも等しい幸運だ。

 もっと長く、強く感じていたい。

 そう思ってしまうのは仕方のないことだろう。


 だがそんな俺の願いも虚しく日は沈んでいく。黄金は薄明へと変わり。長い影は更に長く伸びた後に、やがて闇に紛れていく。

 いつの間にか運動部の声も聞こえなくなっていた。


 こうして、一日は終わるのだ。


 

 それは。

 仕方のないことなのだけど。


 何故か俺は酷く悲しかった。







 どれくらいそうしていただろうか。


「あら、山田くん?」


 ふと後ろから鈴の転がるような美しい声が聞こえた。

 声に誘われるように振り向くとそこには、セミロングの黒髪にスーツを着こなした知的な表情のやや背の高い美人。

 つまり俺のクラスの担任の先生こと里見先生がいて。


「あっ、29歳処女」


 思わずそう口に出していた。

 そして固まる空気。



 ……っておい。

 今俺なんて言った!



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