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5.小波誠と言う男

 ───放課後。


 靴箱で靴を履き替えながら考える。

 呪いのような不思議な力ね。

 世界からの強制力とでも言うか。それさえなければ本来陽山以外とくっつくこともなかったのかもしれない。

 だがもし陽山とだけ仲良くなるのではヤンデレゲームとしてのストーリーが成立しない。その為に動いている力のような「何か」があるのかもしれない。厄介なことだ。

 想像より好感度の上がり具合も早いし。これはかなり追い詰められている状況かもしれない。

 はぁ、悩みは尽きないぜ。



「山田!」


 靴を履き終えるとその悩みの張本人から声をかけられる。


「小波か……」


 振り向けばそこに、やたらさわやかな笑顔で微笑む奴がいた。

 心なしか笑顔の歯が白くキラリと光った気さえした。


「おう山田。ちょっと相談したいこともあるし久しぶりに一緒に帰らね?」

「まあ、いいけどさ」


 こっちも聞きたいことが少しあるし。 


「助かる。じゃあ行くか」

「おう」


 そう言いながらやたらと爽やかな前髪の長いイケメンと一緒に下校することとなった。


「しかし山田。お前が教えてくれる女の子達の情報には本当に助かってるわ」

「そりゃどうも」


 いっそのこと嘘の情報を教えてしまおうかと思ったこともあったのだが。

 それで俺を頼りにしなくなって知らないところで遠藤にでも手を出されても困るしな。

 理想としてはアドバイスしながらうまく誘導して遠藤以外の一人とくっつけてしまうことだ。……と、思っていたのだが。

 その計画も挫折しつつある気がする。どうしたものか。


「本当にさ。俺が可愛い子らと仲良くなった途端クラスの男どもが冷たいのなんのって。俺の友達って呼べるのはもう山田くらいだわ」

「ハァ……」


 随分と都合の良い友達だことで。

 だが待てよ。小波が俺のことを友達と思ってるならその感情を使ってこいつを誘導することができるかもしれない。


「あのさぁ小波さ」

「なんだよ?」

「お前さ、女口説くのはいいけどさ。そろそろそれぞれの子がどんな女の子かは解っただろ?」

「ん? まあそりゃな」

「じゃあさ。そろそろ手広く口説くのやめて一人に絞って付き合っちゃえよ。で、他の子はきっぱり断るとか」

「うーん、そうしたいのも山々だけどなぁ。でもどの子も可愛くてもうちょっと考えていたいんだよなぁ……」


 そのもうちょっとが俺たちの命取りなんだよ!……とはとても言えない。


「ハァ、あのさ。陽山さんの気持ちとかもう解ってるんだろ?」

「そりゃまあ、あかりの気持ちは、薄々感じてるけどさぁ……」

「薄々? あれで薄々! お前マジで言ってるの? ギャルゲーの主人公ってレベルの鈍感さだぞそれ!」


 まあ、ギャルゲーの主人公なのだが。

 

「そ、そんなに怒ることないだろ! それに何だよギャルゲーの主人公って。俺ギャルゲーとかやらないから知らないって」

「まあ俺も詳しいわけじゃないが」


 嘘ではない。確かに記憶の中の俺はギャルゲーについて詳しいかもしれないが、山田三郎こと俺は詳しくないのだから。


「誰がどう見てもベタ惚れだろあれ。もう目にハート入ってんじゃん。お前と話してるとき彼女もうジュンジュワーだよビッショビショだわ」

「お前なぁ、人の幼馴染で下ネタ言うなよ。可哀想だろ!」

「カーっ! 嫌だねえこれだからモテる男は。いい加減にしろよ。陽山さんに可哀想なことしてるのはお前だろお・ま・え! 気持ち弄んでさ。答えるか断るかしてやれよ浮気男!」

「ま、そ、それはそうなんだけどさ。だけど周りに可愛い女の子が居すぎて決めれないんだよ。彼女たちはみんな魅力的でさ……」

「うわー……」


 もう何だ。コイツ殺してぇ。


 ──いっそのこと殺してしまおうか。


 樋渡や先生。俺たちが血を見る目にあったり死ぬような目にあうのならば先手を取って殺してしまうというのもひとつの方法かもしれない。

 そうすれば被害者は最大でもコイツ一人だ。今まで散々女の心を弄んだんだ。そろそろ潮時だろう。

 記憶の中の俺の経験で度胸だけは嫌って言うほどついている。多少のことなら覚悟できるし、コイツをこっそりと殺すことは今の俺には難しくない。

 

 ……いや、ダメだな。

 うまく隠蔽できればいいがもし露見すれば俺の母さんが。冬花さんが悲しむ。この上なく悲しむだろう。

 あの人を悲しませるようなことだけは何としても避けなければいけない。ならばコイツを殺すことは避けるべきだ。


「あのさ、山田」


 考え事の途中で声を掛けられて我に返る。


「ああ、なんだよ」

「あのさ、ちょっと今日の昼お前樋渡美鶴と話してたじゃん」

「樋渡と? ああ、話してたけどそれが何か?」

「そのさ、樋渡って結構可愛いよな」

「は?」


 何を言っているのだコイツは……。


「いや、可愛いだろ樋渡って。山田はそう思わない?」

「まあそりゃ、美人か美人じゃないかで言えばかなり美人の方に入るんじゃね?」

「そうだよな、うん! そうだよやっぱり!」


 おい待てまさかコイツ。


「あのさ、まさかとは思うんだけど。お前今四、五股かけかけてるのに更に樋渡にまでちょっかい出すつもりか?」

「いや、そう言うつもりじゃないんだけど。でも自分の気持ちに嘘は付きたくないっていうか。やっぱり樋渡っていいよなあって」

「はぁ? お前さ、俺のこと友達だって言ったよな。その友達が一人に絞れって助言してるのになんで逆のことするわけ?」

「なんでだよ! じゃあ俺に樋渡のこと考えながら他の子と付き合えっていうのかよ! そんな不誠実な真似できるわけねーだろ!」


 うわっ、逆ギレかよ。なんだコイツ。そもそも四股かけてる時点で誠実じゃないっつーの

 はぁ、でもまあ。これで他の子の好感度上げるの抑えれるかもしれないし。

 もうどうとでもなれだ。


「はぁー。まあお前がそう言うなら好きにすりゃいいけどさ」

「それでさ山田。樋渡の俺に対する好感度はどれくらいで、俺はどうすれば樋渡と付き合える?」

「は? 知らねーよ馬鹿。自分で考えろ」

「何だよそれ! いつもみたいに相手が俺のことどう思ってるか教えてくれよ!」

「あのなー。だからそれは相手がお前のことをある程度意識してるから解ることで樋渡についてはねーよ。樋渡はお前のこと男として意識してないし」

「は? なんだよそれ。誤魔化すなよ」

「誤魔化してねぇよ。増長すんな馬鹿。大勢の美人がお前に好意を寄せてるからってすべての女がお前を意識してるわけじゃないから。樋渡はそう言うのじゃないの」

「なんでだよ。あ、さてはお前今日昼飯一緒に食ってたし。樋渡のこと好きなんだろ。だから俺に近づけないようにしてるんだ!」

「は?」


 はああああああぁぁぁぁぁぁあああああ?

 なんだその斜め上の超発想!

 ありえねええええええええ!


「なんでそういう発想になるんだよ! ちげーよ!」

「誤魔化すなよ。でも恋愛は正々堂々だから。お前に譲る気はないからな俺は!」

「だから違うって言ってんだろ! お前でも樋渡は無理だからやめとけ!」


 攻略不可なんだから!


「僻むな僻むなって。お、別れ道。それじゃあ明日俺は樋渡にアタックするから。邪魔しないで見てろよベイベー!」

「いや、僻んでないから。てかおい!ちょっと待てよ!」


 調子に乗ってる小波は俺を無視してさっさと自宅の方へと走っていく。

 心底ムカつくなアイツ。もう何だって言うんだ。


 俺は何だか急に疲れを覚えてぐったりしてしまった身体を引き釣りながら家路を歩くのであった。




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