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39.葡萄の園で。-馬鹿試合-

 三葉園。


 小波誠が多仲柚江を誘おうとしていたぶどう園である。

 季節によって30種類もの違ったぶどうを摘むことが出来て、種類によって違うがそれらはカゴあたりいくらと決まった値段で休憩所で食べたり持ち帰ったりできる。

 また現地でのとれたてフルーツを使ったスイーツやジェラートなども楽しむことも出来る。街からは電車とバスの乗り継ぎで少しかかるもののそれほど遠すぎないので人気のスポットでもある。

 ちなみに今日俺たちのコースだと一カゴ2000円だ。そんな三葉園で俺たち三人で摘み取ったぶどうをカゴに入れてそして休憩所のベンチに三人並んで座っている。


「はい。三郎? た・べ・て、あ~~~~~~ん」


 普段とは打って変わった甘い猫撫で声をあげて、俺のことを名前で呼んで皮をむいた巨峰のようなぶどうの粒を俺にしなだれかかって口へと運んでくる遠藤。


「お、悪いなわはははは、あ~~~~~ん」


 へらへらと笑いながら大口を開けてそれを食べる俺。口の中に瑞々しい甘みが広がってとてもうまい。

 ちなみに俺は今頭の悪そうな馬鹿みたいにデカいサングラスをかけてシャツの胸元を大きくはだけてベンチにふんぞり返ってたりする。


「わ、私の方の食べてほしいな、山田? あ、あ~~~~~……ん」


 こちらは照れがのこっているのか段々と声が小さくなりながらも、こちらは皮をむかずにそのまま運んでくれる樋渡。シャインマスカットだろうか、皮ごと食べれる。

 口に運ばれたそれを食べるとこちらは水分よりも糖度を前面に感じるしっかりとした食べごたえでやはりとてもおいしい。


「おいしいよ、樋渡。でも樋渡ちゃんもおいしそうやなぁ……」

「あ、あははは。嬉しいな。ま、マスカットはまだまだあるから食べてね」


 顔を赤くしながらも役目を忘れていないのか次の実をぷちりとちぎって口元に運ぶ樋渡。


「あぁん。もぅ、美鶴ばっかりずるぅい。私も、食・べ・て?」


 一方でこちらはノリノリでそう言いながら次の果実を口に持ってくる遠藤。正直とんでもない美人にこんなことされると辛抱溜まらなくなりそうだが別に遊んでる訳じゃないのだ。

 そう、これは三人が色ボケになった訳でもなんでもない。れっきとした作戦なのである。いや、冗談ではなく。マジで。



 ───数日前、物置での作戦会議で。


「なあ、多仲さんが小波と付き合う一番の問題点ってなんだと思う? 坂下が悲しむってことは置いておいてそれ以外で」

「えーっと、それはやっぱり幸せになれないからじゃない? だって小波君って何股かけてるんだって感じだし」


 顎に手を置いて考えながら答える遠藤。


「そうそれ! それだよな。やっぱり多くの人を同時に好きになって、まあ自由と言えば自由だが、それで人前で多くの女はべらしたり女同士で喧嘩してたりみっともないったらありゃしない」

「そうね」

「あと小波自身もだが女の子にとってもだ。彼女たちは一人一人はとても魅力的な女の子なのにアイツの周りにいることでその価値を下げている。みっともなく見える。古来より人は自分が人から悪く見られてると思うと傷つくものさ」

「……山田君の話はいまいち抽象的で解りにくいわね。つまり何をするって言うのよ」

「彼女に自分の行動を反省して貰おう。今自分がしていることを客観的にみてもらっていかに酷い行動をしてるかを知ってもらう」

「どうやってよ」

「俺が小波の代わりの役をやるから、そうだな……樋渡と遠藤で陽山さんと多仲さんみたいな役回りやってもらおうかな。それで目の前で普段のあいつらみたいに馬鹿みたいにいちゃついたり喧嘩してもらってみっともないところを見せて自分を反省してもらう」

「意味あるのそれ?」

「あるに決まってるだろ。名付けて、「人のふり見てわがふりなおせ作戦」だ。自分の行動の恥ずかしさを知った彼女はきっと傷ついて反省する、そこで坂下が出てきて殺し文句を言ってころっといかせるわけさ!」

「なんか聞いてたら頭痛くなってきたわ。壮絶に頭の悪い作戦な気がするのだけど、本当にうまくいくのかしら」

「大丈夫だってぇ。安心しろって」


 作戦の有効性について語ったのだが皆納得いってなさそうなげんなりとした顔をしている。


「先輩。それ先輩が遠藤先輩や樋渡先輩いちゃいちゃべたべたしたいだけなんじゃないですか?」


 溢れる不審を隠そうともせず剣呑な瞳で俺に語りかけてくる藍崎。


「い、いや、そんなこと、無いぞ?」


 多分。多少の役得くらいはあっても良いかなとは思ってはいるが。


「信頼できませんね」

「だったら何か別に良いアイデアあるのかよ」

「それは、思いつかないですけど……」


 そう言いながら皆で考え直す。だが結局有効な対案がでることはなく消極的ではあるものの俺の案がとられることとなったのだ。



 ───そんなわけで今、俺はこの世の春を生きている!


 ちなみに坂下と藍崎と多仲さんが来てから始めると怪しいので俺たちは前もって入っていてこの状態を続けておいて来た多仲さんたちに見せつけると言うのが作戦だ。


「ううぅ……恥ずかしい。遠藤は良く恥ずかしがらずに出来るね」

「そう? こういう馬鹿やるときってのはね、ある程度思い切ってやっちゃったほうが逆に楽なのよ。それに私男の子とこういうことしたことないけど意外と楽しいものよ。ほらぁ。離れてたら不自然でしょ」


 そう言うなり俺の腕を取って自分の肩に回すようにする遠藤。


「凄い、そこまで出来るとは。まあ、別に嫌ってわけじゃないんだけど慣れないと言うかなんて言うか……」

「あらら、美鶴も意外とシャイね。自分を演じてると思えば案外なんとかなるもんよ」

「さすがに普段から猫かぶってるやつは言うことが違う。言葉に思いがあるね」

「むっ、どういう意味よ三郎。三郎のくせに生意気なこと言うじゃない」


 先ほどからの続きなのか三郎呼びのまま半眼でこちらを睨む遠藤。

 と、何か閃いたような猛禽類のような邪悪な顔をする。


「そうだ、いつも三郎にはやられっぱなしだし、この機会に……」

「何のことだ?」

「いやいや、こちらのことなのよ。オホホホホ」


 わざとらしく笑う遠藤。不気味なやつだ。


「山田、も、もひとつ食べるかな。あ~~~~ん」


 一方こちらは遠藤の発言で少し吹っ切れたのか先ほどよりも積極的に口に運んでくれる樋渡。


「たべりゅー!」

「ねぇねぇ三郎? ねっぇ~~~~ん」


 突然にわざとらしく高い声を出してしなだれかかってくる遠藤。

 動きはめちゃくちゃ不気味でぎこちないのに美人がやっていると言うだけでそれなりに見えるので世の中解らないものである。


「わっ、ななななんだよ」

「美鶴ばっかりぃ、ずっる~~~い。わたしもぉ」


 そう言いながら指で俺の胸のあたりにののじを書く。おい、そこは、そこはやめろ。そこはちく……

 だがそんな俺の思惑に気付いてか気づかずか俺の表情を見ると滅茶苦茶人の悪そうな笑みを浮かべてそこを重点的にぐりぐりと指で押してくる。

 自分の指とは違った細くて先の尖ったそれが刺激する感触に思わず変な声が出そうになる。


「お、おい、さすがにそれは、ちょっ、やめっ」


 だが俺のそんな慌てっぷりを見て心底楽しくてしょうがないと言う表情をした遠藤は、今度は息がかかるように耳元に口を持ってきて、そして吐息交じりの囁きを耳朶にかけてくる。


「さ、ぶ、ろー?」

「わひゃっ、なっ、なんだよ!」

「わたしにもぉ、三郎の、食べさせてほしぃなぁ?」

「わ、解ったよ」


 そう言うと俺は自分の積んだぶどうを一粒遠藤の口元に持って行ったのだが、すると遠藤はそれを迷うことなく口にして、そのまま俺の指までかぷりと咥えてしまう。


「って、お、おい何やって!」

「んふっ、さぶろうの、おいしい……」

「ばっ、さっ、さすがに、やりすぎ!」


 そう言うって腕を引くとちゅぽんと言う音がして指は抜ける。指先がまだ濡れている。これが、遠藤の……。

 指先に残った先ほどまでの暖かさと、柔らかさと、異常に淫靡なぬめっとした感覚が抜けきることがなくてじんじんとしびれるような感じすらした。

 指を拭かなきゃと思う反面ぬぐうことも出来ずに固まっている俺に対して遠藤は耳元にまた口を持ってきて息を吹きかける。


「さぶろ?」 

「ひやはっぁ!」

「ふふふ、良いざまね三郎。無様でかわいいわよ」

「んなっ!」


 何てことをいいやがる!

 そう思って遠藤の方を睨むとふふんと笑いながら勝ち誇った表情をした。


「いつも私の耳元で、みんなの目の前で私を弄んでくれて、何よ、いざ攻められる方になったら私の指と声でこんなにふるえちゃって。てんで弱いじゃないかわいいものだわ」

「こ、こいつ……」


 何のことを言っているのか良く解らないが俺はコイツを怒らせてしまって復讐されてるらしい。それにしてもここまでやるとか!

 こいつは小悪魔とかそんななまっちょろい存在じゃねぇ。もっと恐ろしい存在だぜ。

 人目だってあるのにここまでするとは、想像できなかったぜ。あ、人目と言えば……。

 そう言えば少し前から何も言ってこない樋渡はどうしているのかと反対側をみると。


「す、すごい。なんてことだここまでやらなきゃならないのか……」


 何のことか解らないが、何やら壮絶な覚悟を決めたような表情をした樋渡がそんなことを口走っていた。

飛行機乗るので書けたとこまで。落ちたりしなければ続きます。事故があったら察してください。

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