37.超作戦会議
「んなわけねぇだろ。これには色々あったんだよ」
「あら残念。坂下君相手なら山田君でもまあギリギリ絵になるだからありよりのありでその筋の人ならたまらないと思うのだけど」
そんなことを言いながら善哉善哉とからからと笑っている遠藤。
「馬鹿なこと言ってんじゃねぇよ。それよりもさ……」
俺の襟を掴んでいる坂下の手を解いて、先生のことを聞きたいので遠藤の方へと歩いて行って耳元に口を近づける。
すると遠藤は耳を押さえてわずかに赤面しながらずざざっと後ろずさった。
「え? 何だっていうんだよ」
「何でも……ほんと、油断も隙もないわよね山田君って。いきなり来るんだから」
「なにがぁ?」
「いいわよ、別に。何よ、来るなら来なさいよ。ほらぁ!」
そう言うと微妙に身体を硬くしてる遠藤。だからなんでこいつは喧嘩腰なんだよ。
気にしても仕方ないので耳元に口を近づけて囁く。
「先生の方は、ちゃんとアレしといてくれたか?」
「……ぐっ、大丈夫よ。ちゃんと山田君のためになるようにしといたから安心して」
そう言うとすぐに顔を俺の口から離す。なんなんだコイツ? 変なやつだな。俺がそんなに近くにいるの嫌なのか。微妙に傷つくのだが。
「……何よ。別に山田君のことが嫌とか別にそう言う訳じゃないわよ」
「何で解るんだよ。だから心を読むなと」
「あなたは思ってること顔に出過ぎなのよ。だから大した理由じゃないわ。いいじゃない。それより先生にもなんか言うことがあるんじゃないの?」
そう言うと先生をずぞぞっと前へと押し出す遠藤。
「あっ、その、先生。その今日は、その……」
そもそもどこまで記憶を消してくれたか解らんと話しようがないのだが。
「ごめんね山田君。私、今日ちょっとぼんやりしてて、見回りしてたところまでは覚えているのだけど、どこかで気を失っちゃったみたいで、山田君が見つけてくれたって聞いたんだけど覚えてないのよ」
ぐーっど! 遠藤はうまくやってくれたようだな。
「いやーそうなんですよー。見回りしてる先生見つけて声かけようとしたら路地裏で倒れちゃって。慌てて遠藤呼んだんですけど貧血だと思うって言うから介抱任せてたんです。いや~ダメですよ先生。鉄分不足じゃないですかぁ?」
そう内心ほくそ笑みながら先生に話しかける俺を、不思議と遠藤はどこか呆れたような顔で見ている。
「あははは、そっ、そうかなー。そうだね、き、気を付けないとね」
「そうですよ。あはははは」
笑いながらも何かを堪えるような顔。微妙に気にならない訳ではないが、うまく行ったなら結果オーライなのだ。
「ところで先生。貧血なら早く帰ってお休みになった方がいいですよ? なんならおうちまで送りましょうか?」
「調子に乗るんじゃないの。先生は私が送るから、あなたたちも早く帰った方がいいわよ」
「そっ、そうね。もうこんな時間なんだし、山田君も、坂下君……だっけ。ふたりとも早く帰るのよ?」
坂下君? 何でその名前を先生が知っているんだと不思議に思いながらも、伝えなければならないことがあったのを思い出し帰ろうとする遠藤の腕を取って引き寄せて耳元でつぶやく。
「なぁ遠藤?」
「ひゃあぁん!」
また変な声を上げて耳を押さえて後ずさる遠藤。
「許さない! 絶対に今度山田君も感じさせて復讐してやるんだから……!」
死ぬほど物騒なことを言っている。
「さっきから何やってんだ遠藤?」
「だから不意打ちはやめなさいって! 別に、耳が、あれというか、そう言う訳じゃないって言ってるでしょ! 要件があるなら普通に言いなさいよ!」
「だって個人的な話だったから」
「解ったから。じゃあ言いなさいよ」
真っ赤な耳を差し出して怒りながら近づいてくる遠藤。やはり遠藤は赤くなると、不思議と普段は感じない甘く、離れがたい匂いがする気がする。
そんな有体もないことを考え耳元に近づいて話す。
「そのさ、坂下の方の問題は何とかなった。アイツが協力してくれそうだからさ、多仲さんのことで相談乗ってもらいたいんだよね」
「……解ったわよ。そんなことね。じゃあ明日の放課後なら大丈夫だから。人手は多いほうが良いだろうし、山田君が信頼できそうな人。そうね美鶴とかも一緒に話しましょ」
「樋渡も? 解った誘ってみるよ。ダメかもしんないから期待するなよ」
「山田君が誘えば大丈夫だと思うけどね。じゃあ明日放課後にそうね、三階の物置にしましょうか」
「オーライ。じゃあ明日な」
「オッケー。また明日。先生、話終わりました。帰りましょ」
「もういいのね。それじゃあ山田君。さよなら」
「はい。さよなら」
離れる際、先生が僅かに悲しそうな、苦しそうな顔をしたのが気になったのだが、それを確かめる暇もなく二人は帰ってしまった。
そしてこちらも要件を伝えねばと坂下の方を振り返ると、先ほどの空気が霧散していて少し呆れた顔でこちらを見ている。
「なんだよ」
「いや、遠藤先輩もあんたに苦労させられてるんだなって思って」
「逆だ逆。俺が遠藤に苦労させられてんの」
「そうは見えなかったけどな」
「うるせぇ。それよりもお前俺の言うこと何でも聞くって言ってたよな」
「あ、ああ。何でも、何でもする……」
少しもじもじしながら妙な色気をまとわりつかせてそう返事をする坂下。美少年がそういう仕草をすると変に様になるから不気味だ。
「じゃあさ一つ頼みたいんだが、確か藍崎祐が坂下と多仲さんと一緒に遊びに行かないかみたいな提案してたよな」
「ああ。してた。あんたが訳わからないこと言って突っ込んでくる前にな」
「だったら丁度いい。いきなり一対一はハードル高いだろ。藍崎に頼んでそれを実現してもらえ」
「えっ、そんなことでいいのか?」
「それで終わりとは言ってねぇよ。お前には目的のためにこれから役に立ってもらいたいからな」
そう。俺の平穏な生活のためにお前には何としても多仲さんを落として貰わねばならんのだ!
「うっ……その不気味な笑いを見てると嫌な予感しかしないけど、男に二言はない! やってやるよ!」
「その意気だ。じゃあ色々と作戦を立てたいから、明日の放課後に三階の美術室の隣の物置部屋しってるか? そこに来い」
「解った」
「おっけ。じゃあ今日はここで解散だな。坂下も一人の家に帰るのが寂しかったら俺が送ってやろうか?」
「ばっ、いらねーよキモいこと言ってんじゃねーよ」
顔を赤らめて逃げるように走り出す坂下。まったくかわいげのない奴だ。さて、俺も帰らねばと。
こうして俺の長い長い一日は終わったのだった。
───そんなこんなで次の日。
普段通りの日常を過ごした俺たちは放課後に三階の物置部屋へ。決して広くはないこの埃っぽい小部屋には今少なくないイカれたメンバーが集結していた!
まずは俺。特徴は無限にロケットパンチが打てる!
そして隣には俺の友人こと樋渡美鶴。弓道部部長のナイスガールだ。相談に乗ってほしいことがあるから来てほしいと言ったら二つ返事で来てくれた。本当に良い奴だ!
向かいにはニヤニヤと人の悪そうな笑みを浮かべるツインテール。学年のマドンナにしてマジカルカリンちゃんこと遠藤火凛!
少し離れたところで不機嫌そうにこちらを見る少女のような美貌をした生意気そうな少年。あいも変わらない美少年振りの坂下綴!
そしてその隣には不審そうな目でこちらを見てくるショートカットの少女が。彼女は多仲柚江と坂下綴の友人藍崎祐!
「って、藍崎まできたのか!」
「いけませんか先輩?」
「いや別に良いけど。何でまた」
「だって綴が柚江ちゃんとのことで頼みたいことがあるって言うから、そしたらすごく久しぶりに綴の方から行動してくれるようになって、とても嬉しかったけど、でも何で変わったんだろうと思ったら、先輩のお陰だって嬉しそうに言うんですよ? すっごく変じゃないですか!」
「ちょっと、余計なこと言わないでっ!」
「いいからっ! 先輩? 一体何したんですか綴をここまで心変わりさせるって。正直昨日の行動からはまったく想像つかないんですけど」
「まあまあ、いろいろあったんよ」
「……絶対おかしいです。先輩」
そう言うと不審そうな目を、さらに言えば疑いの瞳をこちらに向けてくる藍崎。
「私、先輩のこと信用できないんです。樋渡先輩からは凄く良い人だって聞いてたのに教室に入ってきていきなり奇行をするし、そうかと思えば遠藤先輩みたいな凄い人と仲良くしてるし、昨日綴をあれだけ怒らせたのに今は信頼されてるみたいですし。変です。おかしいです。おかしすぎます。ありえないです。変人です!」
「正解! あなたとても見る目があるわよ藍崎さん!」
なかなかに酷い言われようなのだが、そんな様子をみて遠藤はおかしくてたまらないと言うようにからからと笑いながら言った。
「そうなのよ。この人すっごく変なの。でも悪い人じゃないから安心していいわよ!」
「そうだよ藍崎。私も助けてもらったことがあるし、まあ変だってことは否定しないけど出来れば信じてほしいな?」
「先輩方がそう言うなら……」
と言いながらも納得いってなさそうにうーうーと言いながらこちらを見てくる藍崎。と言うか遠藤も樋渡も、なんかフォローの仕方が酷いと思うのだが。
「と、ところでさ、その坂下の方から多仲さんをお誘いするようにするってお願いしてたと思うけどその件はどうなった?」
「それは大丈夫でした。柚江ちゃんと私と綴と三人で日曜日にぶどう狩りに行こうってことになりました」
「ああ、小波の奴とは結局行かないことになったもんな」
「はい。私も小波先輩の良くない噂は聞いてますし、そんな人とくっつくよりは綴とくっついたほうがお互い幸せになれると思ったのでそこについて協力することはやぶさかではありません。でも」
そう言うとずずいっとこちらに詰め寄る藍崎。
「何でそれを先輩が望むのかがいまいち解りませんし、それに綴には辛い話だと思うけど、柚江ちゃんは小波先輩のことが好きです。このまま三人で遊びに行っても楽しいは楽しいと思いますけどそのままだと思います。何か状況を変えることが出来る勝算があるんですか?」
「まあそれは、あるっちゃある」
俺には多仲さんの境遇と、落とす方法を知っているのだ。ゲームの中の話ではあるが柚江ちゃんアマキスルートも攻略済みであるし。
あれはほにゃほにゃのぽわぽわでくっそ可愛かったぜ。
「本当ですか? 一体どんな」
「まず多仲さんは出版社の社長の令嬢なんだけどお父さんが忙しすぎてあまり構ってあげれてないんだ。その分プレゼントとかは沢山貰ってるみたいなんだけど、でもそれだけではやっぱり寂しいと思う時がある。だからプレゼントとかより何かを一緒に楽しむみたいなデートが効果的だ」
だからぶどう狩りなんていうのは良かったと思う。無意識なのかそこを突いてくる小波は恐ろしい奴だぜなどと続けていたのが気が付くと藍崎だけでなく周りの皆も不審そうな目でこちらを見ている。あれ?
「くそっ、何でアンタがそんなこと知ってるんだよっ! 俺も知らないのに。今のどうなんだよ?」
そう悔しそうな顔をして藍崎に訪ねる坂下。
「……呆れました。事実ですよ先輩。何でそんなこと知ってるんですか? 柚江ちゃんのストーカーなんですか正直気持ち悪いですよ」
ああっ、そうか。確かに普通はそこまで知らないか!
「いやその、小波が言ってたとか、そんな感じだよ!」
「そうですか。それならあり得ますね」
意外とすんなり納得する藍崎。へっ、ちょろいぜ。
「あと割と引っ張っていってほしいタイプってところだから選択肢はその辺を意識するとうまく行きやすいかな」
「選択肢?」
「あ、いやその行動するときはそう意識するとってこと。あと大事なのは殺し文句だな」
「殺し文句って何よそれ」
呆れた顔をする遠藤に説明してやる。
「つまりその人にとっての特別な言葉みたいなものさ」
めきメモ2特有のシステムとしてヒロインごとに大きく好感度が変化する殺し文句イベントと呼ばれたシステムがあって、それはある種のキーワードなのだがこれがなかなか難しい。
実はその殺し文句は多くの場合選択肢の下に隠しコマンドとして透明に表示されずに存在しているのだが、つまり割と初期から言うことが出来るのだ。一週目なら内容も解らないので博打になるが。
あと適切なタイミングや適切な好感度の時に言わないと意味不明な言葉となり逆に好感度が下がってしまうことがある。これがめきメモ2の難しいところだったのだが。
だが逆に言えば適切なタイミングや好感度で言えば一気に攻略がはかどるのだ重要なシステムだった。
相手の状態を見極めなければならないので難しいがこと特殊なプレイをするならば必須のテクニックと言える。
「ふぅん。で、多仲さんには何て言えばいいのよ」
「ああそれは確か、彼女が酷く傷ついていたり弱ってるような状態の時に「俺は絶対寂しい思いはさせない。絶対離れない。世界一かわいいと思ってて離れたくないから」って言うんだったかな……」
「……」
四対の不審そうな目がこちらを見ている。そのまま全員無言だったのだが。
「大丈夫? 山田君正気? 何か悪いものでも食べた?」
本気で心配そうな顔をして最初に口を開いたのは遠藤であった。
「あぁん馬鹿にすんなよ! 実際にそうなんだからしょうがないだろ。ええぃ、必要なんだからぐだぐだ言わずにやるんだよ。そうだ、おい坂下!」
「なっ、なんだよ」
「坂下は俺の言うことを何でも聞くって昨日言ってたよな」
「あ、ああ……」
何故か昨日よりおびえた表情でこちらを見てくる坂下。
「だったら今のセリフを、そうだな、遠藤に言ってみろ。練習は大事だ」
「はあぁ! 何で俺がそんな恥ずかしいことをしなきゃ!」
「何でもするって、言ったよな。こんなことでうだうだ言ってんじゃねぇぞ」
「……解ったよやればいいんだろ」
「そういうことだ。髪型も二人ともツインテールだし丁度いいだろ。良いだろ遠藤? あとダメなとこ見つけて批評してやってくれ」
「……山田君には恩があるから別にいいけど。でも最近山田君私のことツインテールって髪型の物体くらいにしか思ってなくない?」
酷く納得のいってなさそうな顔でこちらを睨んでくる。
「んな訳ないだろ。とにかくやるんだから。はい、よーいスタート!」
そう言うと坂下の肩を掴んで遠藤の前へとずずいっと立たせる。坂下は遠藤の顔を見て赤くして固まると、そのままもじもじとして黙ってしまう。
「おいあくしろよ! 照れてたら始まらないだろ必要なんだから。髪型を見て多仲さんに言ってると思って言ってみろ!」
「わ、解ったよ! そ、その、お、俺は、ぜ、絶対さびしい思いをさせない、絶対離れにゃっ!」
噛みやがった。
「噛んでるんじゃねぇよやり直し!」
「解ったって! 俺は、絶対さ、さびしい思いはさせない。絶対はなれない。世界一かわいいと思ってて離れたくないから……」
「……どうだ?」
遠藤に尋ねると、彼女は半眼に開いていた目を閉じてふぅとため息をついて首を振る。
「全然ダメね。まず相手に自分の気持ちを伝えたいのだったら相手の目を見なさい。目を逸らしてるようじゃ話にならないわ」
「とのことだそうだ。やり直し!」
悔しそうな顔をしている坂下の背中をばしばしと叩いて発破をかける。
「さあワンモア!」
「うっ、俺は、絶対寂しい思いはさせない。絶対、離れない。世界一かわいいと思ってて離れたくないから」
「声が小さい!」
容赦ない遠藤のダメ出しが響く。
「俺は絶対寂しい思いはさせない。絶対離れない。世界一かわいいと思ってて離れたくないから……」
「言葉尻を飲まない!」
「そうだぞやり直し!」
「やりゃいいんだろくそっ! 俺は絶対寂しい思いはさせない。絶対離れない。世界一かわいいと思ってて離れたくないから!」
「がならない! 心がこもってないでしょ!」
「わぁーーー俺は~~~~~~」
そうして特訓を続けている二人を見ていたら、そんな俺を不審者を見るような失礼きわまりな目で俺を見てくる藍崎と目があった。
「なんだよ」
「いやちょっと、先輩。私たち何を見せられてるんですかこれは? と言うか樋渡先輩? 本当にこの人信頼して大丈夫なんですか?」
「その、えっと、大丈夫だ……と思うんだけど。さすがにちょっと自信が……」
そう言いながら俺から目を逸らす樋渡。酷い!
「いや本当にこれ役に立つんだって。信じてくれよ!」
「ハァ、どうだか。あっ、そうだ」
坂下の言葉を遮って遠藤が俺に向き直る。
「これだとキリないし、一回山田君が見本を見せてみなさいよ」
「えぇ、やだよ何でそんな恥ずかしいことを」
「そんな恥ずかしいことを何で俺にやらせるんだよ……」
納得がいかなそうにつぶやく坂下。
「その通りよ! 言いだしっぺの法則よ。私は全然オッケーだから私のことを多仲さんだと思って見本みせてみなさい」
先輩の努めよなんて機嫌がよさそうにふんふんと言いながらこっちに向き直る遠藤。む、そこまで言われればやらねばならないか。
「解った。やってやらぁ。見せてやるよ先輩の見本ってものを!」
そう言うなり遠藤を見つめる。人形のように整った美貌でこちらを見上げるヘーゼルの綺麗な瞳と目が合う。
大丈夫だ。俺は記憶の中まで含めれば女を口説いたことなんて星の数ほどある。まあこんな美人を相手にはなかったけど。
でもまあ空気の作り方くらいは心得ているのだ。吸い込まれそうになる瞳を見続けたいと言う誘惑を押し込んで、そして俺は口にする。
「俺は絶対寂しい思いはさせない。絶対離れない。世界一かわいいと思ってて離れたくないから」
やったか!?
「……んー、坂下君よりは悪くないわね。声の出し方も雰囲気の作り方もそれっぽい。でも何も響くものがないのよね。そもそもこれ多仲さんに向けての言葉なんでしょ。だとしたら私に判断できるものじゃないし、あなたが言ってるその殺し文句? みたいなことに意味があるのかは判断できないわ」
そう酷く客観的なジャッジを下した。
「そ、そうか……」
言われてみればその通りだ。どんな言葉でもその人を想ってのものでなければ届くはずもない。だったら確かにこれは何の証明も出来ない。
しかし逆に考えればその人のことを想っての言葉だったら良いと言うことか。
「あ、そう言うことだったのか……」
そして俺は思い出した。遠藤ルートでの殺し文句を。これはかなり好感度が高くなければ言ってもマイナスにしかならない言葉だったんだが、プレイしている当時はよく意味が解らなかった。
ただゲームの中では知らなかったことだが、今の俺は遠藤のことをゲーム内より良く知っている。10年前に両親と死に別れたこと。魔法少女として一人で戦ってきたこと。
管理者としてその身を差し出す覚悟さえしていると言うこと。でもそれは押し付けられた不幸ではなく、彼女が彼女らしくありたいと思っているからこその行動だと言うこと。
「なぁ遠藤?」
「なによ?」
不思議そうな顔でこちらを見あげるその顔。本当に、影ひとつないほどに綺麗で、それはきっと彼女が自分の在り方を悲観しておらず、気に入っているからなのだろう。
俺のように過去の自分を気持ち悪く思っていたりしない。彼女は常に正道を行き、辛いことがあっても自分の納得できる方法を見つけてそして乗り越えていくのだ。
その在り方を今の俺は凄いと思っているし、尊いと思っている。彼女はきっと守られたり同情されることなんて求めてない。だから……。
「どうかしたの?」
気を抜くと見とれて呆けてしまいそうになる綺麗な顔を見ながら、その瞳を真っ直ぐ見つめて精一杯の尊敬をこめて。
「俺は、遠藤と一緒に歩いていけて、一緒に休める。そんな場所になれればと思ってるよ」
気づけば遠藤の殺し文句を口にしていた。
次回、お色気&めきめきパート(あくまで予定)




