29.作戦会議
「なぁ遠藤。人間できることとできないことと言うのがあってな」
「何言ってるのよ。相手は人間よ。大したことじゃないわ。やる前からできないとか言うのは甘えだと思う」
「くっ……」
これだから何でも出来る天才はよぉ。
「それにしても人間は生まれながらのこう、作りってのがあって。小波や遠藤はそりゃ美形だけど俺はその骨格がなぁ……」
「なに言ってるのよ。そんなに自分を下に見ることないわよ。山田君の顔、私は好きよ?」
「なっ……」
何でこんなことを平然と言えるんだコイツは!
こう言うことが自然に言える性格だったらもうちょっとはモテたかも知れないが。ハァ、遠藤が男だったら小波なんて目じゃないほどモテそうだ。
「……ハァ、そう言ってくれるのは有難いが俺も現実は見えてるつもりだ。それに性格的にも容姿的にも、多仲ちゃんを口説き落とすなら俺より遠藤の方があってるんじゃないかと思えるくらいだ」
「私女よ? それに多仲さんは可愛いと思うけどタイプじゃないのよね」
「それは俺も。多仲さんは滅茶苦茶可愛いと思うけど、付き合いたい付き合いたくないってのは別の所にあるもんだぞ」
「何言ってるのよ。あんな可愛い子と付き合えるかもしれないのに贅沢言って」
「そもそもなぁ、付き合えるわけないだろ。彼女のタイプは王子様の様なタイプのスッキリとしたイケメンらしいぞ。俺のこの顔が王子様に見えるか? どっからどう見ても平凡極まり無い顔だろ」
「まぁ確かに。王子様って感じは、その、無理あるかもしれないけど」
「だろ?」
そう俺が同意すると遠藤は何かが気にくわないような素振りで立ち上がった。
「あーもう、イライラする。何で山田君はそんなに自己評価が低いのよ。それに小波君の顔が何だって言うの。あんなん、多少整ってるかもしれないけどそもそもあの前髪は何なのよ。鬱陶しくて目元見えないし。そう言うのが良いって言うんなら山田君もそうすればいいのよ」
そう言うなり部屋をキョロキョロと見回して、そして埃がかぶっている棚に置いてある野球帽を見つけるとそれを手に取り、パンパンと埃を払うと放り投げてきた。
慌てて受け取るが、一体こんな平凡な野球帽で何を。
「遠藤。何のつもりだよ」
「言葉通りの意味よ。それで目元隠しちゃえば小波君も山田君もそんな変わんないでしょ」
こう、ググッと深くかぶれば目元見えないしなどとジェスチャーを交えながら言う。
「あのなー、そんな単純な訳ないだろ。目元が見えてなければいいって問題じゃないと思うぞ?」
「うるさい。良いから一度やってみなさいって。ダメだったら骨は拾ってあげるから。ほら、ぐぐっと」
そう言うなり俺に近づき帽子を取り上げて、ツバを軽く曲げた後に無理やり俺にかぶせてぐぐぐっと頭に押し込む。
「うーん、私の趣味だとあんまりキャップを深くかぶるのは好きじゃないけど、多仲さんがそう言うのが良いって言うなら仕方ないわね。そう言う感じでいいと思うわ」
「学生服に野球帽ってなんか微妙な感じがすると思うんだけど。それでどうすりゃいいんだよ」
「見た目はこれでオッケーとするなら後はそうね。女の子って見た目も勿論だけど、かけてもらう言葉でドキドキしたりするものらしいわよ。と言う訳で山田君。何か女の子をときめかせる様な、そのキャップが似合う飛び切りカッコいいセリフでも言ってみなさい」
「野球帽が似合う……カッコいいセリフ?」
「ええ。そういう言葉で女の子を骨抜きにできるような。一番キャップが似合う、サイッコーにカッコいい口説き言葉を想像してみましょ。何か一つくらいあるでしょ?」
「野球帽の一番似合うカッコいい言葉……」
「そう言う所謂「殺し文句」を一つ用意して、それを多仲さんに。いえ、その前に私に練習で言ってみなさい」
そう言うと遠藤はフンスと息を吐いて慎ましやかなその胸をエヘンと張った。
しかし中々に難しい条件だ。普通にカッコいい言葉と言うのでも難しいのに野球帽の似合う言葉となるとさらに難しい。
そんな言葉すぐに出てくるものでもない。どうしたものか。
───しかし、ならば逆に考えてみたらどうだ?
野球帽が似合うカッコいいセリフを想像するのではなく、野球帽が似合うカッコいい男を想像して、その言葉を借りるのだ。
野球帽が似合う男。となるとやはり野球選手だろう。しかもカッコいい野球選手。実力と人気を兼ね合わせた最高の野球選手。
そんなカッコ良すぎる男が放った一言ならば野球帽が似合う最高にカッコいい言葉なのではないだろうか。
うん。そうだ。間違いない。だから想像しろ。実力人気共にあり、その存在がすでにカッコいい男のその一言を。
脳裏によぎる多くの男たち。その中でも特にスペシャルな男の、その中でも一番カッコいい一言を思い出した。
「よし、遠藤。思いついた」
「思いついたのね! よし、聞くわよ言ってみなさいどんと来い!」
「ああ。聞いてくれ遠藤」
そう言うと遠藤の両肩に手をかけて、まっすぐとその眼を見る。
「山田、君……」
俺を見上げて名前をかすれる声で呼ぶ遠藤。
埃っぽい物置小屋の中。カーテンの隙間から細く入る光の筋がくすんだ空気を照らしている。
そんな薄汚れた部屋に居ながらもなお、遠藤はやはり綺麗だった。こんな綺麗な彼女にならやはり一番カッコいい自分を見せたいと、素直に思える。
僅かな驚愕と期待を含んだ、遠藤の綺麗なヘーゼルの瞳が俺の目をまっすぐに見つめている。
その瞳の期待に応えるように、俺は最高にかっこいい一言を放つ。
「遠藤……」
「うん」
「言うぞ。いいか、そのな……」
その言葉を、かっこよすぎる言葉を口に出す。
「───小さなことを積み重ねることが、とんでもないところに行くただひとつの道だと思う───」
やだカッコいい。かっこよすぎる……。
だと言うのに。
「……は?」
鳩が豆鉄砲を食らったような目をして遠藤は俺の方を見上げてやがった。
「あれ、聞こえなかったか? じゃあもう一回いうぞ。あのな。小さなことを積み重ねることが、とんでもない……」
「いやいや、聞こえてるから。そうじゃなくて、何訳の分からないこと言ってるの山田君?」
「訳の分からないってなんだよ。カッコいいこと言えって言ったのは遠藤だろうが!」
「確かに言ったけど。え、何それ、それが山田君の言うカッコいいセリフなの?」
「何言ってるんだよカッコいいだろ! あのな、これは野球帽の最高に似合うある一人の野球選手、メジャーリーガーがそのキャリアで積み重ねた偉業を如何にして成し遂げたかと言う言葉でな……」
「いやいやいやいや、違うでしょ。そりゃその選手? は知らないけど凄いことしたんでしょうし、その凄いことの為にそう言った種類の努力をしたってことなんでしょうね。確かに凄く薀蓄のある言葉だと思うし正しいと思うわ」
「だろ? いやー遠藤なら解ると思ってたよ」
「いや解らないし。その選手は凄いかもしれないけどその言葉を何の関係もない山田君が言っても全然心に響くものが無いでしょ。そもそもいきなりそんなこと言われても唐突過ぎてカッコいいって思うどころか頭おかしいんじゃないかコイツとしか思わないわよ」
「頭おかしいとは失礼な! それにカッコいい言葉は誰が言ってもカッコいいだろ!」
「そういう問題じゃないでしょ! それにカッコいい言葉ってのは違う意味で、もっとこう、女心をくすぐるような言葉じゃなきゃダメなのよ。ときめかせると言うか、カッコよすぎて胸がドキドキしちゃうセリフって言うか、こう何て言うか、例えば……」
そう言うなり考える人の様なポーズを取って固まって。
「……タフでなければ生きて行けない。優しくなれなければ生きている資格がない」
妙に低い声でこんなことを言い出した。
「みたいなのよ!」
「なんだそれ。俺のが合ってるか解らないけど遠藤のも大概だと思うぞ?」
「いやいやいやいや、山田君のよりマシでしょ。それになによメジャーリーガーって何よ。そりゃキャップが似合うようなセリフとは言ったけどだからって野球選手の言葉をあなたが言ってどうするのよ。そもそも本当にカッコいいのその人?」
「むっ! 知らないとは言え馬鹿にするつもりかぁ! カッコいいんだぞ。この言葉言われたらすぐにそりゃもうときめいてドキドキだよ!」
「無いから。そもそも私は山田君の頭がおかしくなったのかしらとは思ったけど、カッコいいとは欠片も思わなかったし」
「なんだとぉ! そりゃあ遠藤が可愛げがないからで、可愛げのある多仲ちゃんだったら一発だと思うね!」
「あなたさっき自分じゃ無理だって言ってたじゃない。もう出鱈目ね。いいわ、そこまで言うなら見ててあげるから多仲さんをその言葉で口説き落として見せなさいよ」
「お、俺が、多仲さんを……?」
「あら、出来ないって言うの?」
それならその選手の言葉のカッコよさも大したことないわねーなどとムカつくことを言ってくれやがる遠藤。
ぐぐぐ、俺のことを馬鹿にされるなら兎も角、好きな選手のことを馬鹿にされるのはムカつく!
「……できらぁ! カッコいいんだから出来るに決まってるだろ!」
「グッド。じゃあ屍は拾ってあげるからやって見せなさい。と言う訳で今からね」
そう言うなり物置部屋を出ていく遠藤。
「上等! 見てろよ!」
何が多仲さんじゃ。多仲さんの一人や二人くらいはこのカッコいいセリフで簡単に口説き落として見せるぜ!
そう思いながらも遠藤の後に続いて部屋を出て行くのであった。
昨日から風邪引いて熱がある頭で書いたので何書いてるか自分でも良く解ってません。困りました。




