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27.傾向と対策

「とりあえずはこの四人が小波と二股以上で恋愛感情をもったらまずい女子だ」


 今この学校にいない物部琴美と月野玲音、そして遠藤を除いた四人。つまり陽山あかり、林原エリカ、土方のどか、多仲柚江の名前を書いたメモ帳を遠藤に渡す。


「へぇ、あまり学校の噂とかに詳しくない私でも全員知ってるような美人じゃない。この四人と同時に可能性があるって訳でしょ。凄いわね小波君」

「そうだな。そしてその中ですでに陽山あかりは幼馴染であったこともあり小波に恋愛感情を持ってしまっている。つまり今の目的としては林原先輩。土方先輩。多仲ちゃんの三人のうち誰かが小波に恋愛感情を抱くとまずいことが起こると言う訳だ」

「少し前まではそこに私が入ってたって訳? あまり愉快な話じゃないわね」

「気持ちは解る。すまない」

「別に山田君が謝ることじゃないでしょ。私は山田君を信じるって決めたのだから現実は受け止めるわよ」

「そうか。ありがとう」

「それより山田君は次はどうするべきだと思っている訳?」

「それについてなのだが。今のところ夢によると土方、林原両先輩も少し不味いが一番問題なのは多仲ちゃんらしい。もうすでに恋愛感情を抱く手前と言ったところまで来ているっぽい」


 ちなみに今の好感度は77/100だ。これが90を超えるとまずいのでまだ多少余裕はあるが悠長なことは言っていられない。 


「へぇ。随分細かいことまで解る予知夢なのね。余り聞いたことない事象だわ」

「ぐ……」


 さすがに不審に思われたか?


「まあ別に良いわよ。それならまず最初の目的は小波君と多仲さんが恋仲にならないようにすることって訳ね。小波君に改心してもらって陽山さん一筋になってもらう……ってのが理想だけど、彼の性格を考えるとそれは難しそうだからここは多仲さんに諦めてもらうようするしかないわね」

「そうなんだがまず多仲ちゃんと俺は面識が無いからどうしたものかと思っていたのだが手詰まりなのさ」

「へぇ。そっかぁ」


 そう言うとふむふむと何かを考える様なそぶりをして、そして部屋を出ていく。


「って、おい。どこいくのさ」

「どこって当たり前じゃない。一年の教室よ。E組だったっけ?」

「多仲ちゃんの教室? そうだけど。今から行くのか?」

「当たり前じゃない。そもそも手詰まりとか以前に何の手段もとってないじゃない山田君。そう言う時はね、とりあえず行動してみるのよ。多仲さんの性格、普段の行動、好み。そう言ったことを知らないと何か対策を取るとか取らないとか、それ以前の問題よ」

「う……」


 確かに。


「さぁ行くわよ山田君。とりあえず多仲さんに話しかけてみましょ」


 そう言うと遠藤は俺がついてくるかどうかを確認することもなく平然と部屋を出て行った。 



 ───そんな訳で1-Eへとやってきたのだが。


「何でいるのよ……」


 隣でこめかみを押さえながらも困り顔で呟く遠藤。

 ああ、全く同感だ。本当に見境が無い。


「本当に、何でいるんだろうな」


 放課後になり帰る生徒もぽつぽつとでるその一年生の教室で。

 他のクラスの皆の注目を浴びながらも平然とそのクラスで特に可愛いことで有名な多仲柚江と楽しげに話している上級生の男子が一人。

 つまりまあ、何と言うか小波の奴はこんな時に限って平然と下級生クラスに入って多仲ちゃんと話をしてくれてやがったのだ。


「……ハァ、本当に見境ない男。何で一瞬でもこんな男のことを気にかけてしまったのかしら」

「そんなことでいちいち気にしないでも」

「そうは言うけどね。これは私のプライドの問題なのよ」

「そういうものか?」

「そういうものよ。でもまあ、ショックが大きいけど過ぎたことを気にしてもしょうがないわね。それにしても何か彼女と私。見た目微妙にかぶってない? 髪形とかお嬢様風とか」

「髪形が似てるだけで全然違うだろ。髪形も遠藤はツインテールと言ってもツーサイドテールだし多仲さんはビッグテール気味だし」

「あら、ずいぶん髪形に詳しいのね山田君」

「そうでもない。それに多仲さんはマジもんのお嬢様だけど遠藤は猫かぶりだし。性格も多仲さんは守ってあげたくなる風だけど遠藤は自分でなんでもできちゃう風だし。あと……」


 そう言いながら遠藤の、彼女のスタイルには非常に似合っているのだが豊かとは言い難い慎ましやかな胸元と多仲ちゃんの暴力的かつ包容力ありそうなその胸元を目で追う。

 これで似てると言うのは色々と無理があるだろう……。


「随分と失礼なこと言ってくれるじゃない。あと山田君。頭の中でもっと失礼なこと考えなかったかしら?」

「トンデモナイ。気のせいじゃない?」

「フン、まあ今はいいわよ。それにしてもどんな話をしているのかしら。ちょっと山田君、耳かしてくれる?」

「ん?」


 そう言うなり遠藤は俺の耳にハンカチをかぶせて、その中で俺の耳に触れて、何を言ったかも解らないほどに口の中で小さく呟いた。

 耳を伝って頭に何か電気の様なものがピリピリと伝わってくるのを感じる。


「今山田君と私の聴力を指向性を以て強化したわ。話してる人の口元に意識を集中するとその人が何を言ってるか聴こえるはず」

「そんなことも出来るのか。凄いな」

「大したことじゃないって。それより話を聞くわよ」

「ああ」


 そう言うと二人の口元に視覚を集中する。

 するとまるで指向性マイクを向けたかのように言葉が聞こえてきた。


「なあなあ多仲さん。明日から土日だね。ついに休みだね」

「そうですね先輩。おやすみ楽しみですぅ!」

「そうだよなー。夏の暑さも引いてきたし、秋は食べ物もおいしいし、この時期の休みは楽しみだよねー!」

「そうなんです先輩。秋は何食べてもおいしいから体重がちょっと気になっちゃうけど、でもご飯美味しいです!」

「多仲さんは綺麗だからそんなこと気にしないでいいよ!」

「そんな、そんなことないです先輩。私なんて……」

「いや、多仲さんは綺麗だよ。自信を持って。安心しておいしいご飯をたくさん食べよう」

「しぇんぱぁい……」


 その言葉に感激したようにキラキラとした目で小波を見つめる多仲さん。

 何だこの頭の悪さの極まってる会話は。この空間に入っていける気がしない。

 隣を見ると遠藤も頭を痛そうに押さえている。


「そんな訳で多仲さん。食欲の秋だよ今は」

「そうです! 食欲の秋です!」


 そんな俺たちの葛藤も知る由もなく不思議空間での会話は続いていく。


「なら明後日の日曜日。二人で少し郊外の方まで足を延ばしてぶどう狩りでもいかない?」

「ぶどう狩り! 凄いです素敵です行きたいです!」


 なっ、このタイミングであっさりとデートに誘いやがった。ふと頭の中のパラメータを見ると誘っただけですでに好感度が1上がっている。チョロすぎるだろ多仲さん!


「ねぇねぇ山田君。このデートは成立させていいの?」


 純粋に疑問を浮かべた様子で俺に訊ねる遠藤。


「いや、まずい。このデートが行われるともしかすると爆上げで恋愛状態になってしまう可能性すらある」

「なるほど。爆上げが何を指す言葉かはわからないけど。じゃあとりあえず私たちとしてはこのデートをぶち壊せばいいのね」

「そうなるけど、そんな方法どうやったら……」

「ぶち壊すだけなら簡単じゃない。解ったわ。うん。私の評判に傷がつくのは少し嫌だけど、でも山田君に恩を返すには多少の無茶はしないとね。と言う訳で行ってくるわ」

「は? ちょっと何を……」


 訊ねようとする俺を無視して遠藤は堂々と教室に入っていく。

 有名人の遠藤が入ったことにより教室にざわめきが広がる。

 だがそれを意に介した様子もなく遠藤は教室の中心へと向かって行って……。


「小波君。多仲さん。お話し中ごめんなさい」


 遠藤は平然と、そんなふうに二人の会話に割って入ったのであった。

今回は短め

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