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24.ロケットパンチ山田

 弁当片手に三階の物置部屋を空ける。

 カーテンが細く開いた薄暗い部屋で窓から入る細い光の筋が埃が舞うカビくさい空気を映す。その奥では部屋の主となった遠藤が剣呑な目をして机に腰かけてこちらを睨んでいた。


「ハァ、やっぱり山田君には効かないのね」


 などと意味不明のことを供述しており。


「何のことだよ」

「いいえ、大したことじゃないわ。いらっしゃい」

「ああ」


 適当に置かれたパイプ椅子を引き寄せパンパンと埃を払って椅子に座り手近な机へと弁当を置く。


「それより何だよ今日のは。遠藤は目立つんだからあんなことしたら駄目だろう」

「何ですってぇ! そもそもあなたが約束をすっぽかすのがいけないんじゃない!」

「約束? 何のことだよ」

「昨日言ったでしょ続きはまた明日って。なのにこの私を無視するとはいい度胸ね」

「いやいやいやいや」


 確かにまた明日とは言ったが昼休みとは言ってない気がするのだが。


「フン! まあいいわ。とりあえず昨日の話の続きをするわよ。でもその前に山田君の正式な状況を知る必要があるわね。と言う訳で山田君。学生服脱ぎなさい」

「は?」


 何を言ってるんだ。めきメモ2はコンシューマーで出た物だしこんなイベント無いぞ!


「ちょちょちょちょ、俺たちはまだまだそう言う付き合いじゃなくて、いやその遠藤は魅力的だけど俺としては段階的にその高校生として節度のある付き合いを……」

「何を訳の分からないこと言ってるのよ。山田君の右腕のとそのほかの部分を見比べてどういう状態なのか、あと問題がないのかを調べるだけよ」


 軽蔑するような目をして見下すように俺を見る遠藤。でもなんかその視線が微妙に似合ってて悪くない気分。


「あ、そう言うことね。悪い悪い。じゃあ脱ぐから」


 そう言いつつもベルトを外してズボンを降ろす。


「って何で下を脱ぐのよ!」


 顔を紅く染めながら慌てて叫ぶ遠藤。


「え? だって全部脱ぐんじゃ……」


 俺は風呂に入る時もズボンとパンツから脱いでから上を脱ぐ派なのだ。


「腕と身体を調べるだけだから上だけで良いに決まってるでしょ馬鹿!」

「ああ、そうなのね」


 ズボンを上げてベルトを締め、学生服とシャツを脱ぐ。

 すると遠藤は紅らめた顔のまま近づいてくる。


「はぁ、ビックリした。街で変態に会っても驚くことはないけど知り合いにいきなり変態行為をされると結構ビックリするわね」

「変態ってなんだよ。脱げって言ったくせに」

「うるさい変態。黙りなさい変態」

「なんでよ」

 

 なんだこの理不尽な展開は!


「何でじゃないわよ全くもう。話が進まないわね。それじゃあ始めるわよ……Umfrage!」


 何かドイツ語のようなものを呟くと遠藤の指先が何かが集まるように光り輝いて、そして胸の辺りに手のひらをぺたりとあてる。う……。

 冷たくて細い指がすべすべと胸元を触って気持ちが良くてくすぐったいような妙な気分になる。


「うん。成程ね。特に問題はない。普通の身体よ。それでっと……」


 胸から手を離すと左手で俺の右腕を持ち上げて、光が集まっている右手の指先を当てる。

 しばらくすると別の場所に指をあてて、また別の場所へと、焦るようにいくつかの場所に指先を当ててる。


「……何よこれ。とんでもないわね本当に」

「何がだよ」

「確かにエーテルで構成されているけど、筋肉骨神経全てが完璧に再現されている。魔力が無い物からすると普通の腕と違いが判らないわね」

「どういうことだよ」

「きっとレントゲンやCTやMRI取ってもそれらに魔力的な要素が無いから解らないわよ。普通の人間として生活できるわね。良かったじゃない」

「お、そうなのか。よかった」

「良かったですってぇ……良くないわよ!」

「どっちだよ。遠藤が言ったんだろ!」

「うるさい! エーテルで構成した物を安定させて腕として動かすだけでもとんでもない魔法なのにその上内部組織まで完全に再現するですって! これがどんだけとんでもないことか解ってるの!?」

「解る訳ないだろ馬鹿!」

「馬鹿ですってぇ! 解らずにそんなとんでもないことを平然とやるのが許せないって言うのよ!」

「解らないんだからしょうがないだろ馬鹿!」

「黙りなさい変態!」

「変態なんかじゃない!」

「いきなり密室で二人きりの同級生の前でズボン降ろしといて変態じゃないって! どう見ても変態でしょ!」

「それは遠藤が脱げって言ったからだろ馬鹿!」

「脱げって言われていきなり下半身露出するのが変態だっていうのよ変態!」

「うるさいいきなり脱げって言う方がおかしいんだよ馬鹿!」

「黙りなさい変態!」

「うるさい馬鹿!」

「変態っ! 変態変態変態っ!」

「馬鹿! 馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿っ!」


 しばらくそんな生産性のない言い合いをした後に、ハァハァと息を荒らげて睨みつけるようなお互いの視線が交わる。


「ハァ、何よこの小学生みたいな会話。なんか疲れたわ。何でか解らないけど山田君といるとペース狂うのよ」

「それはこっちのセリフだよ。くそ、何だっていうんだ一体……」

「……解ったわよ。今回のことに関しては私が悪かったわ。魔法少女や大魔術師でも簡単に出来ないような魔力行使をのほほんとした山田君みたいな人にやられて、そして本人はどれだけ凄いことをやってるのか自覚もしていない。そんな状況にちょっとその道を志す者としてイライラしちゃったのよ。でも確かに解ってないならどうしようもないわね。悪かったわよ。ごめんなさい」

「ぐ……」


 こうもはっきりと謝罪されると怒りようもなくなる。


「うう、まあそこまで言うなら良いさ。それよりも俺の腕の状況だが、つまり日常生活を送る中での大きな問題はないってことでいいのか?」

「ええそうよ。それどころか普通より優秀かもしれない。周りのマナを集めればちょっとした傷ならきっと回復するわよ」

「そんなことが……本当か?」

「ええ。なんなら試してみれば?」

「試すって、昨日の感じでいいのかな。こう周りから集まってくるあの感覚を思い出してと……あちまれェ!」

「何やってるのよ。別に腕が無い訳でもないのにそんなことしても……えぇっ!?」


 昨日の感覚を思い出しながらも右腕に集中をするとまたもや空間から光が集まって来て、そして昨日と同じように腕の周りに黒い甲殻を形成する。


「うぉーすげー」

「すげーじゃないわよ。ハァ、本当に何でもありね。何でそんなことが出来るのよ」  

「解らん。だけどあの穴の中。常異空間だっけ? そこであったことと関係があるのかも」

「そう言えばあなたは史上唯一の常異空間に入った者ですものね。何があっても不思議じゃないわ。それよりも昨日みたいに暴走しそう?」

「うーん、どうだろう。今の所はそんな感じはしないが」

「と言うことは昨日のは初めてだから色々と制御できてなかっただけみたいね。今制御できてるならきっと今後も大丈夫よ」

「しかし一体これは何なんだ? 普通に腕として動かす分には不具合は無い感じだし、しかし確かに鉄のように固くて人間の身体とは思えない」


 生身の左手で黒く硬質化した右手を爪でカツカツと突きながらも訊ねる。


「推測でしかないけど、山田君のその力が周りから腕を形成するのにマナを集めた時に過剰にマナを集めてしまって、その時に余剰分の魔力が凝縮されて腕を保とうとする圧力によって変化を起こして結晶化したものよ。つまりはエーテルで出来た鎧って所かしら」


 興味深そうに光る指で俺の腕を調べながらも答える遠藤。しかし相変わらず何を言っているのかは解らないのだが。


「それで、この腕は何かできるのか?」

「さぁ。でも多分何もできないわよ。腕以外は普通の人間だから力が強くなることも無いでしょうし結晶化してしまっててこれ以上の変化はなさそうだし。固いからその腕で人を殴ったら多少痛いくらいじゃない?」

「そんなことが出来てもなぁ……」

「あとはアレね。昨日と同じ暴走状態にすれば腕ごと吹っ飛んじゃうけど魔力弾として打てるわよ。まあその後腕無くなっちゃうけど」

「そんな人間ロケットパンチみたいなことできても私生活で何の役にも立たんだろ」

「でも壮絶な破壊力よ。その代わり一発ごとに腕は無くなっちゃうけど山田君ならすぐに生えてくるでしょ」


 あははーと笑いながらもトンでもないことを言ってくれやがる遠藤。


「そんなトカゲみたいに言われても……」

「スネないの。それより一度打ってみない?」

「打つって……ここでか?」

「冗談。ここで打ったら壁に大穴開くわよ。窓を開けるから空にでも向かってぶっ放しちゃいなさい」

「そんなことしてバレないか?」

「人払いと認識阻害。あと防音の結界も貼ったから平気よ。まぁ誰かさんには何故か全く効かずにぶち破って入ってきてくれちゃったけど」


 機嫌悪そうにそんなことを言う。と言うかやはり今日も俺のことを考えずにそんなもの貼ってやがったのか。確かに俺には効果は無かったが。

 

「とにかくやっちゃっいなさいって。どうせそのままじゃ授業にも戻れないでしょ」


 そう言いながらもガラガラと音を立てて窓を開ける遠藤。

 しかし、そうだな。たしかにこのままじゃマズい。ぶっ放しちまうか。

 窓際まで歩き、そして空に向けて腕を伸ばして更に集めるように集中をする。

 お……。


「キタキタキタキタ! 撃てそう!」

「いいわよ! 山田君やっちゃいなさい!」

「ウオオォォォォォォッ! 飛んじゃううううううう!」


 ───瞬間!

 大砲の発射音のような爆音をあげて黒い力の塊となった右腕は空高くへと吹き飛んで行く。

 キラリと一つ、晴天に星が輝いたような気がした。


「相変わらずとんでもない威力ね。それで腕は戻りそう?」

「ああ。多分大丈夫だ」


 それが問題だったはずだが不思議と不安は無かった。

 無くなった腕の部分に集中をするとまた光の粒が集まってきて普通の腕を形成する。


「やっぱり。力の使い方はもう感覚で掴んでるみたいね。大したものだわ」

「ああ。不思議と自分で出来ることが解る」

「そうね。うん。これは見事だわ。出来ることは少ないけれど、その方向性に嵌れば十分に使える。でも交換条件として何をすれば……」

「ん? 何の話だ遠藤?」

「ちょっと待ってね。どうすれば良いかしら。難しいかな。でも山田君なら……」


 何かを考えるようにしてブツブツと意味の分からないことを言い続ける遠藤。

 だが暫くするとハッとしたように顔を上げ、そして吹っ切ったようにこちらを見る。


「決めた。ここまでの物を見せられて引き下がるわけにもいかないわ。やってみるまでよね」

「だから何の話だよ遠藤」

「ああ、ごめんあんさい。ねぇ、山田君」

「何だよ」

「これから私自身のこと。そしてこの街で今起こっていることであなたが知りたいことを教えるわ。だから……」

「だから?」

「だからその結果もしも山田君が良いと思ったら私に力を貸して欲しいの」

「力を? でも俺が出来ることなんてそんなにないんだろ」

「ええ。でもそのそんなにないけれど強力なことが出来る。その力が私に必要なのよ。無理強いはしないわ。でも話を聞いて、それから決めてほしいの。必要なことなら何でも話すから」

「ん? 何でも?」

「ええ。条件付けは無いわ。それがせめてもの誠意だもの。私が知っていることなら何でも答えるから。だから話を聞いてほしいのよ」

「何でも聞いていい……だと?」


 何でも、何でも……。

 それはもしかして。

 遠藤のスリーサイズとかを聞いてしまっても良いのだろうか。


帰ってきたので続き更新です。

でも明日夜また泊まりなのでそれまでに書き上げれば予約投稿します。

次の話までは説明回です。ごめんなさい。

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