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22.再々構成

 虫の声もしない静寂の森の中を二人で立ちつくす。


「ゲート。消えたわね……」


 先に口を開いたのは遠藤だった。


「ゲート……ああ、あの穴ね。確かに消えたな。あと俺の右腕も」


 そう言いながら右手があったところを見る。

 またしも肩の先から無くなった右腕。だが一度戻ってきたんだ。もしかしてもう一度願えばと、そう思い腕を返せと念じる。

 すると……。


「あ、あああ。うぉースゲー」


 先ほどよりは弱く、だが確かに視認できる光の粒が周りから集まって来て消えたはずの右腕を形どる。

 念じる力が弱かったからか、腕はさっきみたいな黒い硬質の物ではなく、人間の腕としてどこも変な所のない肉で出来た腕であった。


「再々構成!? いったい何をやったのよ山田君!」

「一度戻ってきたんだからまた戻るかなと思って念じてみたら戻った」

「戻った。じゃないわよっ! 人間の腕はトカゲのしっぽとは訳が違うのよ! あなた自分がどんだけとんでもないことやってるか解ってるの!」

「解らん」


 ゲーム(めきメモ2)の中でもこんな現象、遠藤ルートでも小波にも見たことがない。勿論あんな穴も。


「ああ、何故俺はこんなことが出来んだ?」

「私が聞きたいわよまったくもぅ……」


 目元を押さえながら困り顔でうつむく遠藤。

 そもそも何でこんなことになったのか。あっ……。


「そうか。そうだったんだ」

「何よ一体……」

「そうだよ。それよりどうすんだよ遠藤」

「何がよ」

「さっきの続き、するのか?」

「続きって何を」

「だから鬼ごっこだって。俺を捕まえて記憶消すんだろ」


 目元を押さえたままうっかり忘れていたとでも言いそうな驚愕の表情でこちらを見る遠藤。

 そう言えばと思い出す。めきメモ2では遠藤は魔法少女の行動を魔力持ちであった小波に見られて似たようなことを小波が言うイベントがあったのだ。

 まあ奴の場合は俺みたいに訳の解らない穴に入ったり腕が無くなって生えてくるなんてとんでもなことは起こらなかったが。


「そう言えばそんなことをしてたのね私たち」

「ああ。それでどうする? 俺はまた逃げればいいのか?」

「んー……やめとくわ。今回はパス。それどころじゃないわね。ちょっと事情が変わっちゃったのよ」

「事情?」

「ええ、山田君の存在の重要度。記憶を消して神秘の秘匿を目指すよりも、もっと大事なことがあるの。と言う訳で山田君。とりあえず今日のことは誰にも話さないでね」

「なるほど解った……とでも言うと思うか? 一度俺の記憶を消しておいて、さっきもあれだけ物騒に追いかけておいて」

「それについては悪かったわよ。謝るわ。ごめんなさい。でも、そうね」


 人差し指をあごにあてながら考えるような表情でうーんと言う遠藤。


「それじゃあお詫びに私の秘密。私が置かれている状況、さっきの穴とか黒い影について説明してあげるわ」

「え、いいのか? それは中々に……」


 魅力的な条件かも知れない。


「まあそれにね。そもそも山田君には断るって選択肢は存在しないんだけどね」

「ん? どういうことだ?」

「いや、あなたが私の正体を言いふらすって言うならお勧めしないけど別に止めはしないわ。対処できない訳でもないし何とかなるわね。でももしそうしたら私もあなたに起こったことを公表するわ」

「俺の身体? この右腕のことか?」

「そう。その腕と、あとゲートから帰還したこととか」

「でも穴のことなんて知ってるやつ居ないだろうし、俺の右腕は一見普通だしそんなことみんなに言っても何の問題も起きなだろ」

「馬鹿ね。誰がみんなに公表するって言ったのよ。そんなことしても何の意味もないじゃない」

「は?」

「私があなたのことを公表するのは、魔法少女協会と魔術協会よ。つまり何て言うか、私らの同類みたいなのが集まってる協会があるのよ。勿論その存在は一般には秘匿されているけど。そこで公表する」

「魔術協会は何となくわかるけど、魔法少女協会……だと?」


 名前からすると魔法少女が集まる協会なのだろう。だが遠藤を見れば解る通り魔法少女とは名ばかりで少女もいるだろうが遠藤くらいの年齢の女もいる。となれば成熟した女性やもっと上の熟女や老婆もいるかもしれない。

 その彼女たちが一堂にあの異常なふりふりドレスで集まって会議とかをしているところを想像してみる。


「そ、それは随分とファンシーな協会で……」

「何を想像したのか知らないけど多分失礼なこと考えたでしょ。言っとくけど私達だって普段はこんな戦闘用の礼祭服は着ないし、それに他の人たちのはあそこまで極端じゃないわ。ただちょっと、何故かうちの家系に伝わる礼祭服があのデザインなだけで」


 などと言いながら顔を赤くしてもじもじとしている。そしてやはり極端にふりふりな自覚はあったのか。


「そんなことはどうでも良くて! つまり私たちみたいな存在が集まる協会があって、当然皆魔法、魔術、それに準ずるものを使用できるし、研究している」

「ほう。まさに私の知らない世界だな」

「それでね、細かい話はまた今度、多分明日辺りに話すけど。すごーくざっくりと言うと私たちのこの力の元となる魔力。それは全てさっき山田君が入ったゲートの向こう側。いわゆる常異空間から来ている物だと言われているの」

「あそこから?」


 あの世界がそんな魔力とかで溢れている世界であっただろうか。むしろ、あそこにあったのはもっと膨大な情報のような物じゃ……って、あれ?


「言われているって、どういうことだ? 入って調べた訳じゃないのか?」

「それが出来たら苦労しないわよ! 私たちは誰もが常異空間。そしてその向こう側にあると言われてる事象の地平面を目指して研究をしている。でもあそこは生物どころか、何もかもが形を保てる場所じゃないのよ」

「どういうことだ?」

「つまり何て言ったら解りやすいかしら。あそこに入ったものは生身の人間でも探査の使い魔でも、それどころか科学的な物質でも、すべてが分解されて、消滅してしまうと言われてる。入って戻って来たモノは無いわ」

「あれ、でも俺は戻って来れたし……」

「だからとんでもないって言ってるのよ私は! あなたは史上で唯一の常異空間を観測したモノなの。そして身体にもそれと関係があると思われる奇妙な影響が起きている」

「あ、それって……」

「そういうこと。貴方の存在は私たちの協会にとっては貴重過ぎる研究対象になったのよ」


 そう言うと意味深な笑みを浮かべて俺に向かって指さしてくる。


「ねえ山田君。例えばもしも今、アメリカの奥地でティラノサウルスが一匹だけ生き延びていたとして、それが発見されたと知られたら世界中の古生物学者はどうすると思う?」

「そりゃ多分、保護されて捕まえられて、どこかに閉じ込められて管理されて、生かされながらも徹底的に研究対象にされるんじゃ……あ」

「ふふん、解ったようね。私があなたの存在を公表したら同じことが起こるわ。そして私なんか比べ物にならないほどに面倒で悪どいのが大勢で押し寄せてくるわよ」

「ぐっ、それじゃあ言うこと聞くしかないってか。脅しじゃないか!」

「そうね。ごめんなさい。私って魔法少女って言うよりそろそろ年齢的に魔女だし。だから目的のためにはそう言うことも出来ちゃうの」

「くそ、魔女! 鬼! あくま!」

「それって罵ってるの? うーん。本当のことだからそれほど悪口にも感じない。でもそうね。確かに山田君としては納得できないかもしれない。だから、うん。山田君の困ったことで力になれることがあったら私が協力するわ」

「協力? それって日常生活的でも魔法少女としてでもか?」

「ええ。こう見えても私って結構優秀だし、魔法少女の方でもそれなりに自信は持ってるから大抵のことだったらなんとかできるわよ。それでどう? 悪い条件じゃないと思うのだけど」

「ぐ……」


 確かに俺のすることと言えば遠藤に暗示をかけられたことを許すことと正体を話さないことだけ。

 それを守れば遠藤に俺の身体に起こったことや謎の常異空間とやらについてと街で起きているらしい様々な異変について教えてもらえて。さらに日常生活でも力になってもらえると言う。

 あれ? これって脅されて無理やり納得させられたような気がしたけど、実はすごく俺に有利な、というかほぼマイナスの無い条件なのではないか。

 

「解った。その条件を飲もう」

「ありがとう。ふふふ、山田君が賢明で良かったわ」

「まあ良く考えたら俺に凄く有利な条件だし。それに遠藤には暗示をかけられたとはいえ結果的にそれで面倒だったいじめ問題から助けてもらって借りもあるしな。秘密を守る程度のことなら当然と言えば当然であった」

「そ、そう? まあそう思ってるくれるならありがたいわ。それじゃあ……」


 そう言うと、俺に近づいてきて右手の人差し指を伸ばし俺の眉間に当ててくる遠藤。


「な、何さ」

「良いからそのままで。───Verbinden!」


 瞬間、遠藤の指先が光り、そして触れた俺の眉間から何か一筋の細い電流のような物が流れ込んでくる感触がした。


「何をした?」

「別に大したことじゃないわ。お互いの魔力ラインを繋げただけ。あなたが嘘をついて秘密を破るか、私が嘘をついて秘密をやぶるかしたら解るようになっただけよ。あとお互いの身体に大きな異変が起きたり、死んだりしても解るけどね」

「そんなこと出来るのかよ!」

「何驚いてんのよ。魔力ラインの接続なんて初歩的な魔法よ。山田君こそ消滅した右腕をマナを収縮させて結晶化したエーテルで腕の形に組み上げて、それを腕ごと魔力の弾として発射して爆発させて大量の魔力が無ければ破壊不可能なゲートを木端微塵にして、その上今度は肉体の腕として再々構成するとかよっぽどとんでもないことしておいて良く言うわよ!」

「うん。そうなのか。まあ何言ってるかよく解らないんですけどね」


 日本語を話せ日本語を。


「はぁ、なんか疲れちゃった。それじゃあ続きはまた明日ね」

「もう帰っていいのか?」

「ええ。さっき魔力ラインを繋げたからもし山田君が誰かに話したら解るし、それにそんなことをするほど山田君が愚かとも思えないし、信用してるから平気よ」

「そ、そうか……」


 随分とあっさりと人のことを信用する。まあ俺も別に遠藤を裏切るつもりはないからその信用は間違いではないのだが。

 だがどうもね。ゴミクズチンピラとして生きてきた記憶もある俺としてはあの人の良さは少し危うく感じなくもない。

 それにしても今日は激動の一日過ぎた。あ、落ちてるアイス、もう溶けてる。持って帰って冷凍したら食えるかな。


 などと考えながらも遠藤と別れ夜の道をぶらぶらと歩く。

 しっかし何か、なーーーにか忘れてる気がするんだよなぁ。なんだったか。


 思い出せないモヤモヤを抱えたまま家の前まで来てドアを開けると……。


「あ……」

「三郎。こんな真夜中の随分長い時間、一体どこをブラブラしてたの?」


 そこにはパジャマのまま半眼で仁王立ちする母さんの、冬花さんの姿が! 

 忘れてたのこれだ。家出てくるって伝えてないし、もうかなりの時間経ってるし。

 そうかー、母さんだったか。思い出せてよかったよかった。


「ちょっとその手に持った物閉まってあとでリビング来なさい」

「アッハイ」


 って良くない! これは相当怒っておられる。

 睡眠時間を削るから長くはならないかもしれないけど、その分強烈な説教を受けそうな気がする。

 そんなこんなで、憂鬱な気分のまま冷凍庫に完全に溶けたアイスを放り込み、そして深夜の説教を受けてくるのであった。

 うん。なんか最近、色んな人に説教ばっかりされてる気がする。

 お年頃なのかしらね。

 



今度こそ予約掲載。飛行機乗るので落ちなければ続きます。

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