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15.バグ

 文字化けの文字を見直そうと意識を集中すると、再び酷い頭痛がする。

 痛みを抑えるように眉間を右手で強く押さえると頭痛は引いたものの今度はノイズのような耳鳴りがした。

 この耳鳴りは、そうまるで。昔のインターネットにつなぐ時のような。モデムみたいな。そんな音。

 慌てて両手で耳を防ぐと耳鳴りも消える。


 一体何なんだこれは。

 そう思いながら目を開けると、平凡な教室の風景が。



 平凡な、風景があったのだが、その光景に何だかテレビの砂嵐のようなひどいノイズが混ざる。

 超現実的な風景の筈なのに、そこにそんなありえない幻覚に戸惑い慌てて目を閉じて、そしてまた眉間を抑える。


 ああもう、なんだって言うんだよこれは!

 頭痛、耳鳴り、幻覚。

 こんなのが続くのならもう生活なんてできっこない。冗談じゃないさ!




「山田! おい、山田どうしたのさ!」


 目に残る違和感を抑えるように目を閉じて眉間を抑えていたのだが。

 そんな俺を不審に思ったのか、樋渡の声が聞こえてきた。

 少し怯えながらも目を開けてみると、そこには心配そうな表情で俺の方を見つめる樋渡の姿があった。

 目と鼻の先に樋渡のその整った顔があって、視界にはもはやノイズはなく、耳鳴りや頭痛も嘘のように消えている。



「ん? あ、ああ。樋渡か」

「樋渡か。じゃないって! どうしたのさ急に黙り込んじゃって目を抑えて」

「いや。その、特に何でもないんだけど。大丈夫。少し頭痛がしただけだから」


 そう。少し頭痛がして。

 一瞬の出来事だったが視覚と聴覚に酷いノイズが走って。

 まるでバグみたいな……。


「本当に大丈夫? あんまりしんどいようだったら今日はまっすぐ帰ったほうがいいんじゃない?」

「いや本当にもう大丈夫だから。それより今日はこれから一緒にパティスリーカワゴエ行くんだからさ。あんまり気にするなって」

「山田が大丈夫って言うならそうしたいけど、でも本当にあんまり無理はしないほうがいいと思うのだけど」

「解ったって。でも本当に平気だから。もう行こうぜ」

「山田がそう言うなら……あっ、それじゃあカバン持ってくるからちょっと待ってて」

「おう」


 そうして鞄を取りに行く樋渡を見送る。

 しかし今のは本当に何だったのか。


 純粋に最近の疲れから頭痛がして、それに伴って耳鳴りと幻覚が起きただけなのか。

 それとも何か他に理由があるのか。何らかの原因が。


 何しろここは小波への好感度がわかるとか、何があるか解らない世界だ。

 こんな頭痛の耳鳴りと幻覚なんていう生理現象にだって何らかの理由があるのかもしれない。


 しかし理由ってなんだ?

 考えられそうなのは小波への好感度をチェックしたことと、その時に遠藤の好感度が文字化けしてたことか。

 しかしそんなのことに何の関係が……?


 ダメだ。本当に解らない。


「おーい山田! 私の方は準備できたからそろそろ行こうよ」

「ああ、そうだな」


 考えていてもしょうがない。そろそろ行こうか。

 そう思って、荷物をカバンに全部ぶち込んで席から立つ。

 取り敢えず今日は悩み事もひと段落したんだしパフェを楽しみにしよう!

 ビッグシェフスイートパラダイスクッキーパフェを!




 放課後の廊下は人も多く賑やかで、これから部活やら帰宅やらでどこかへ行くのだろうという楽しそうな生徒で溢れている。

 そんな廊下を樋渡と二人で歩く。



「パフェ楽しみだなー。いやさ。ずっと気になってたんだけど、男一人で入れる店じゃないしさ」

「私としてはそんなことで山田が喜んでくれるならとても嬉しいんだけど。本当にそんなことでいいの?」

「そりゃ勿論! それに何度も言ってるけど、今回のことは樋渡は気にしなくていいからな?」

「ふふふ、ありがと! しかし山田と二人で下校するってのも久しぶりだよね」

「そう言えばそうだなー。俺は暇なこと多いけど樋渡は部活の日が多いし。そう言えば樋渡今日は部活大丈夫なの? 部活あるなら今日じゃなくても大丈夫だけど」

「今日は大丈夫。ちょうど休みの日なんだよね」

「へー。そう言えば樋渡の部活。ちょうど四日前が練習試合だったんでしょ?」

「そうそう。次の日の朝に山田に話そうと思ったのに、山田が聞いてくれかったからさ言いそびれちゃってて」

「ああ、そう言えばそうだったな」


 思えばあの時樋渡の話を聞いていればアリバイに関してもっと早く気づくことが出来て、あんな馬鹿なことをしないですんだかもしれない。

 我ながら浅はかだった。


「そう言えばあの朝いいことあったって言ってたてことは、樋渡はその練習試合勝ったんだよな? 流石だよね」

「そんな……ただの練習試合だって。大したことじゃない」

「いや、でも中々の腕前だって聞いたよ。部長として人望もあるみたいだし、凄いって」

「ふふふ、ありがとう。だったらどうだい? 山田も弓道部入らない?」

「弓道部に?」

「それだけ褒めてくれるってことは興味が全くない訳でもないんでしょ? どう? 貴重な青春の時間を弓道にかけてみるのも。山田だったら歓迎するよ?」

「やだよめんどくさい」


 俺がそう答えると樋渡はわざとらしくずっこける。


「即答? ちょっとは考えてくれてもいいじゃない。なんでそんな即答なのさ?」

「だっておかしいだろ、二年のこんな時期から入部とか」

「そうかな? おかしいかな?」

「おかしいって。しかも能力は一年部員以下なのに、部長の友達だからとか言って大きな顔でもした日にはどう思われることやら」

「そんなこと気にしないでいいのに」

「いや、気にするって」

「そうかなぁ」


 どう考えても気にすることなのに樋渡は心底不思議そうな様子でそう言っている。

 そう言えばめきメモ2はゲームの仕様で部活は辞めるのも入るのも簡単で次々部活を変えることも可能だったな。

 だからゲームでは攻略の都合で二年からとか三年からとかで、部活やら、そして恐ろしいことに生徒会にも自由に入ったり出たりすることもできるのである。

 そして月二回の部活活動日にさえ部活動をしてれば文句は言われない。変な話だが、ゲームではそうだったのだから仕方がない。

 もしかすると、樋渡の思考にはその辺のことも影響しているのかもな。


 と、そんなことを考えながら歩いていると下駄箱のところまで来たのだが、そんな時視界に里見先生が横切った。


「あっ! 先生!」

「ん? ああ、山田くんと……樋渡さん、ね」


 こちらを確認すると笑顔で振り向く里見先生。


「はい。あの、先生。今日は本当に、ありがとうございました!」

「そんなこと……むしろ今まで気づけなくて本当にごめんなさい」

「いえ。言わなかったのだから解りっこないですし。先生には本当に感謝してますよ」

「そう言ってもらえると気が楽だけど……あのね山田くん」

「はい」

「今日のことである程度嫌がらせが収まれば良いと思ってるのだけど。もし何か続くようなことがあれば、すぐに言ってね? また何か対策を取るから」


 そう言いながら真剣な表情でこちらを見つめてくる先生。

 個人的には先生に相談してどうにかなるなんて思ってなかったし、そこまで先生のことを信頼していたわけじゃないんだけど。

 この人、先生って仕事に関しては本当に真剣な人なんだな。


「解りました。ありがとうございます。何かあればいいます」

「ふふっ、そうしてくれると嬉しいわ。ありがとう山田くん」


 そう言いながら微笑む里見先生。


 しかしここに来て、ひとつ疑問が浮かぶ。

 そう言えばなんでこんな時間に先生はこんなところにいたのか。

 それも、何故かジャケットまで着て鞄まで持っていて。まだ放課後になったところなのにまるで今から帰るみたいだ。


「そう言えば先生、もう帰るみたいな格好してますけど。珍しいですねこんな早い時間に」

「ん? ああ、そう言えばそうね。実は今日は少しやることがあるからもう学校から出るのだけど、別に帰るわけじゃないのよ?」

「帰るわけじゃない? やることがあるって、何ですか?」

「うん、それがね。最近なんか街の方でうちの高校の生徒がゲームセンターとか路地裏とかで煙草吸ったり非行を重ねてるのが目撃されてるらしくってね」

「煙草ですか」

「ええ。さらに何だかカツアゲ紛いのことをしてる人もいるみたいだし。大きな問題が起きないうちに対策を取らなくちゃってことになって」

「ふーん、悪い奴がいるんもんですね」

「ええ。それでうちの先生方が交代で街の方に見回りに行くことになってね。今日の当番が私なのよ」

「へぇ、先生が見回りを」


 うーん、先生みたいな若い女性が一人で見回りか。大丈夫かな。

 ゲームではこんなイベントもなかったし、不良の存在なんかもデフォルメされてギャグのような存在でしか出てこなかったから意識してなかったけど。

 現実では街の不良の存在といのも迷惑だし面倒なものである。

 改めてここがゲームとはズレている現実なのだと実感する。

 

 前の人生ではチンピラだった俺が言うのもなんだけど、不良とかも現実にいると厄介な奴らだよなぁ。


「そういうことだから、山田くんたちも寄り道くらいはしてもいいけど、あんまり遅くならないように帰るのよ」

「はい。解りました」

「それじゃあ私はもう行くから。また明日ね山田くん、樋渡さんも」

「ええ。また明日」

「お疲れ様です先生」


 そう俺と樋渡が挨拶をすると、颯爽と去っていく里見先生。



「しかしいい人だよね里見先生。歩いてるだけの姿もかっこいいし美人だし。きっと素敵な彼氏とかいるんだろうなぁ」


 先生の後ろ姿を見ながら、感心したようにそう言う樋渡。

 うん。いい人なのも美人なのも全て同意できるけど、素敵な彼氏はいない。ってかいた事すらないぞ。処女だし。

 そこだけは勘違いなんだよなぁ。


「まあ、いい人だとは思うけど。なに、樋渡? 里見先生みたいな女性に憧れとかあるの?」

「そりゃ勿論。素敵な先生じゃないか。生徒思いだし。あんな大人になれたらいいなって思うよ」

「そうか……」


 それだとあと十年は彼氏ができない生活を送ることになりそうだけどな。


 と、そんなことを考えていると前から聞き覚えのある話し声が聞こえた。

 声の方を見ると下駄箱を出たところで、今回の件を解決してくれた遠藤と、その原因を作った主人公こと小波誠が話をしていた。

 話してる様子はというと、小波から積極的に遠藤に話しかけていて、遠藤がその相槌を打っているという感じだ。


「あれ、小波。陽山さんと一緒だったんじゃ。なんで遠藤と話してるのかな……」


 隣で樋渡も不思議そうに見ている。

 と、そんな俺たちの視線に気づいたのか、こっちを向いて笑顔で手を振る遠藤。

 なんか結構な勢いで手を振ってるな。


「なあ樋渡。なんか遠藤がこっちに向かって手を振ってるけど」

「そうだな。なんか無駄にご機嫌そうな笑顔だから不気味なんだけど」

「ああ、そうだな……」


 遠藤の裏の顔を知らなければ、ああ綺麗なお嬢様だなーって思えるところなのだろうが。

 本当の顔を知った今となってはあそこまで爽やかな笑顔を見せられては、なにか訳があるんじゃないかと勘ぐってましまう。


「なあ、あれってやっぱり俺たち呼んでるのかな」

「そうじゃない? なんか笑顔がご機嫌過ぎて近寄りたくないんだけど」

「同感」


 そう思っていたのだが、俺たちが気づいていながら近づく様子がないのを察したのか、更にご機嫌な笑顔になって猛烈な勢いで手を振る遠藤。

 ブンブンと猛烈な勢いで手を振る様子は流石に不自然だし不気味ですらある。

 うわー、なんだあれ。怖い。近寄りたくない。


「って山田くん! 樋渡さんも! 気づいてるんでしょ早く来なさいよ!」


 うわ、無視を続けていたら声を掛けてきやがった。

 流石に今回の恩人でもあるし無視するわけにも行くまい。


「仕方ない。行くか樋渡」

「そうだな」


 そう言って靴を履いていやいやと遠藤と小波の方へと行くことにする。





「全く、気づいてたでしょ。少し遅いわよ山田くん」


 俺たちが近づくと笑顔でそう言う遠藤。あ、これ内心少し怒ってるっぽい。


「ああ、悪かったって」


 しかしコイツ。猫かぶってるところでは樋渡のこと樋渡さんとかいうのな。少し不気味だぜ。


「解ればいいのよ。それにしてもどうよ。今日無事解決したんでしょ」

「ああ、先生に聞いたけど遠藤が里見先生に報告してくれたんだって?」

「ええそうよ。まあ、山田くんのことなんて結構どうでもよかったけど、それで樋渡さんが悩んでるのを見るのも忍びなかったしね」

「ああ、そう……」


 そう言えば遠藤そんなこと言ってたよな。

 俺が主人公なら、はいはいツンデレって言う思考もできるのだが、生憎俺の立ち位置はサブキャラだ。そう言う訳にもいかない。


「ありがとう遠藤。今回のことは本当に感謝してるよ」


 隣で遠藤に向かってそう言っている樋渡。

 まあ、そうだよな。確かに動機がどうであれ遠藤のおかげで今回助かったのは確かだ。


「そうだな。確かに理由がどうであれ、遠藤がいなければ今回のことは解決しなかったと思う。本当にありがとう」

「べ、別に。理不尽なことが目の前で起こってるのを見逃すのが、私自身すっきりしなかっただけだから気にしないでいいわよ」


 そう言いながらも遠藤は満更でもないような表情をしている。



「おい山田さぁ。お前、遠藤と知り合いだったっけ?」


 そんなところに、遠藤と俺の間に入り込むようにして突然会話に入ってくる小波。


「ん? ああまあな。ちょっと訳ありで」

「へぇ、そうなんだ。遠藤と山田がねぇ……」

「そんなことより小波さ。陽山さんと一緒だったじゃん。彼女どうしたの? 部活?」

「あ、ああ。なんか今日部活ないらしいけど部室の片付けがあるからちょっと待っててって言われててさ」

「ふーん」

「それで待ってたら遠藤がいたからちょっとさ」


 ちょっと遠藤に話しかけてたのか。女を待ってる時に別の女に話しかけるとか相変わらず節操がないなコイツは。


「そう言えば山田は樋渡と一緒に帰るのか?」

「ん? そうだけど。ちょっとこれから駅前のパティスリーカワゴエで二人でパフェを食おうって話になっててさ」

「えー! いいなー! そのパフェってもしかしてビッグシェフスイートパラダイスクッキーパフェ?」


 突然大声をあげて会話に入ってくる遠藤。


「あ、ああ。そうだけど」

「へー、二人でパフェ食べに行くんだー。いいなー、いいなー」


 なんだ遠藤。そのわざとらしい話し方は!

 

「あ、ああ。そうかな。山田がそのパフェ食べたいって言うからさ。あ、山田が良いって言ったらだけど。もし良かったら遠藤も来る?」

「え? そうねぇ。パティスリーカワゴエはちょっと気になってたのよね。良いかしら山田くん?」


 そう言いながらわざとらしく「しな」を作ってこちらを見上げてくる遠藤。

 いちいち演技があざといんだが、顔の作りがいいので微妙に可愛くて破壊力が高いのがムカつく。


「あ、まあ二人以上なら問題ないみたいだし、別に俺は構わないけど……」

「あら嬉しい! じゃあ私もお邪魔しようかしら」


 そう言いながらわざとらしくうふふと笑って小波から離れて俺の方に来る遠藤。


「じゃあ小波くん。私はこれから樋渡さんと山田くんと一緒にお茶しに行くから、それじゃあまたね?」

「えっ、ちょっとそんな。ちょっと待てよ山田!」

「えっ!」


 なんで俺を呼ぶ!

 遠藤を呼び止めるなら解るけど、なんで俺を名指しする!



「なんだよ小波」

「お前、これどういう事だよ!」

「ん? どういうことって何がさ?」

「何がさ、じゃないよ。お前これから遠藤と樋渡と一緒にパフェとか食べに行くつもりなの?」

「ああ。まあそうなると思うんだけど」


 それが何か?


「いや、だって。そんなのおかしいだろ!」

「なんでさ」

「いや、その、だって、遠藤と樋渡とか。すっごい可愛い子二人も連れてパフェ食いに行くとか。そんなの許されると思ってるの?」

「許されるもなにも……そもそも樋渡とパティスリーカワゴエに行くことは決まってたことだし。遠藤がそれに一緒するってなったら断る理由ないし。何の問題もないだろ」

「でも、だけど。その……」

「そもそもこの流れで許されるもなにも、お前がどうこういう問題じゃないだろ?」

「それはそうなんだけど。でも……」


 そう言うと小波は目をそらして、何かぶちぶちと言っている。


「まあさ、そう言う訳で俺らは行くから。じゃあ小波。また明日な」

「ちょ、ちょっと待てよ!」

「なんだよ」


 もうしつこいなぁ。面倒くさい。


「そ、その。それ俺も一緒に行く!」

「は?」


 ハアアァァァァ?


「何でだよ。おかしいだろお前。そもそも今お前は陽山さん待ってるんだろ?」

「そ、それはそうだけど。でも遠藤と樋渡の方が羨ましいし、あかりには後で言っとけばいいから」

「いや、ダメだろ」


 約束してるんなら守れよ。お前がそんなんだから今後ヤンデレ化するんだし。

 しかしなんか最近コイツとことんゲスいな。ゲームでもここまで酷くなかった気がするのだが……。

 


「あのね小波くん。陽山さんもあなたを待たせるからってきっと片付けを急いでいると思うのよ。そんな陽山さんが戻ってきてあなたがいなかったらどう思うかって想像したの? きっととても悲しむわよ」


 俺の横から小波に向き直ってそう忠告をする遠藤。相変わらず正論だ。


「そうだぞ小波。一度待つと約束をしたのなら絶対に守らなきゃ。そんな行き当たりばったりで約束を破ることは絶対に許せないし。約束を破って来るっていうなら、私たちとしてはそれはやめて欲しいって拒否することになるから」


 樋渡も辛辣にそう言い切る。

 そうだそうだ! もっと言ったれ!


「で、でもそんな……」


 納得いかない表情でまだこちらを見てくる小波。

 だが、そんな小波を振り切るように、突然俺の腕に腕を絡めて歩き始める遠藤。

 って!


「えええええ! 何してんだよ遠藤!」


 胸が! 控えめながらも確かに主張している遠藤の胸が腕に! 当たってる! 当たってるからあああああ!


「山田くんいいから! と。じゃあ、そう言う訳だからまたね小波くん!」

「あっ、ちょ……」


 まだ何か言いたそうな様子の小波を無視して俺を引っ張るようにして歩き始める遠藤。

 そしてそんな俺たちに慌てたように同行する樋渡。


 しかし一体これはどういうことなのか。

 遠藤は好感度が低いとは言えヒロインで、小波と結ばれる結末はあっても俺に対して何らかのアプローチをしてくることは無かった筈なのに。

 ますますゲームから離れて行ってる気がする。ああもう、どうなってるのこれ! 


 ああむり。

 もうだめ。

 頭が働かない。


 混乱するまま暑く火照る顔で隣の遠藤を見下ろすと、得意げにふふんと鼻で俺を笑った気がした。


 なんだこれ。ムカつく。

 そして絡んだ腕と微妙に当たる胸の感触が気持ちよくて考えがまとまらない俺にますますムカついた。


 三日続いたいじめは解決仕掛けているというのに。

 なんとなく今日は厄日だと思った。




 



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