1.~めきめきメモリーズ2~
五ヶ月前の4月7日。始業式の日の朝。
俺は自分という存在の正体を知った。
俺の名前は山田三郎。この菊城高校の二年生。どこにでもいる平凡な男子高校生。
しかし俺は知っている。この世界は名前があり、そして俺はその中の登場人物だと言うことを。
~めきめきメモリーズ2~
それこそがこの世界の名前だ。
そう、この世界は恋愛ゲーム。いわゆるギャルゲーの世界なのだ。
そして俺こそはその世界の主人公……ではなく主人公の唯一の男の友人。それこそが俺の正体だった。
主人公の名前は小波誠。
イケメンだが前髪が長く、目元が陰になって隠れている特徴的な容姿と、一つのことを始めると一週間他のことをせずに同じことを続ける代わりに、その能力が人並み外れて大きく成長すると言う変わった特徴を持つ男。
彼こそがこの世界、めきめきメモリーズ2。その世界の主人公だ。
何故そんなことを知っているかと言うと、俺はこの世界をプレイしたことがあるからだ。
勿論ゲームをプレイしたのはこの世界ではない。前世?なのか憑依なのか、何なのかは解らないが。別の人格が俺の中にあると言うことを4月7日に気付いたからなのだ。
その人格は平凡を絵にかいたような俺とは違い、親を知らないままに施設で育ち、そのまま日向の世界に出ることもなく怪しげな組か組織のようなところで屑のような仕事を続け。
酒と煙草と腐りきった愛にまみれた淀んだ生活を続け、最後は付き合っていた女に後ろから背中を刺されて死ぬと言う救いようのないチンピラであった。
まあどこにでも居る、どうしょうもない、人間の屑である。
だが、そいつの人生の、目の前のことしか見えていない視野の狭さから来る必死さが。
目的もなく今まではどこかスカして生きていた俺から見て、何故か嫌悪を覚える物ではなかった。これもある種の自己愛の一種なのかもしれないが。
さて、そんなチンピラの記憶によって何故俺がギャルゲーの登場人物だと解るかというと。
そいつはどう言う訳かチンピラのくせにテレビゲームが好きだったらしく、特に恋愛ゲームと二頭身の登場人物が出てくる野球ゲームを暇さえあればしていたらしい。
俺はと言うと、その男がプレイしていた「~めきめきメモリーズ2~」通称めきメモ2と言うゲームの登場人物である。
さて、ここまで俺の話を聞いてみた結果。あまりにも馬鹿馬鹿しい話だと思ったことだろう。
何を夢見がちなことを言っているのかと、そんなのは思春期の男子特有の思い込み、所謂厨二病の一種で。
本気でそんなことを信じているだとしたら、それはそれで心の病気。
早い話が統合失調症なのだからすぐにでもしかるべき心の病院の方へと言ってお医者さんの診断を仰ぐべきだし。
本気でないならそんな馬鹿げた話を考えていないで、若者らしく運動と勉学に励んで前向きに人生を歩んでいったほうがよっぽど生産的だと。
誰だってそう思うだろう。俺だってそう思う。
だが、実際にこれを笑い話と言い切れない現象が俺自身に起きてしまっているのだ。
容姿、学力、性格、家庭環境。そのすべてが平凡な俺なのだが、実は誰にも知られていない特殊な力を持っているのである。
目を閉じて、精神を集中する。
すると不思議なことに校内での何人かの女子生徒。特に美少女として有名ですべての学年から特別な注目を浴びている数人の美少女。
彼女たちのプロフィールと小波誠に向けている好感度が文字として脳裏に浮かぶのだ。
そして裏付けを取ると、それは完璧に正確な物であった。
そして週末になると小波誠が俺へと電話をかけてきて、菊城高校の美少女達と恋愛を育んで行くために必要な情報と好感度を何故か俺に訪ねてきて、そして必要に応じて俺が奴にそれを教える。
それこそが俺の持つ力であり、俺に課せられた役目。
───つまりはそう言うこと。
どうやら俺は、恋愛ゲームの主人公……の友人であるお助けキャラらしいのだ。
全く、どうかしている。