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ブレイクアウト!


 ノブナガさんのターン!


 時刻は午後十一時五十分ごろ。場所は名古屋市東区にある名古屋高速都心環状線の始点・東片端ジャンクション。

 今宵ここで行われるのは暴走族・愚乱破栖と怒羅魂頭のガチンコレース『薬市薬座』。

 あたしは近くのビルの屋上から望遠鏡で見守っているわけだけど……成功するかしら、この作戦。

 あ、自己紹介忘れてた。あたしはこのレースの主催者のノブナガと言います。以後、お見知らなくていいわよ。

 じゃあとりあえず、このレースのルールについて話すわね。

 ルールは単純明快。午前零時にレースを開始して、この名古屋高速都心環状線を先に一周した方が勝ち。それ以外は何のルールもないわ。妨害あり、何でもありのレースよ。

 あ、ぞろぞろとお出ましになったわ。料金所は叩き壊し、入り口は手際よくコーンで封鎖。よくもまああんなことが出来るわね。

 そしてスタート地点に両チームの総長が並んだ。当然あのシャチもいる。

 午前零時まであと少し。両サイドからはそれぞれの声援が聞こえる。

 でも、こうして走り回れるのはこれで最後よ。せいぜい思い切り楽しめばいいわ。天国から地獄へと突き落としてやる。

 と、考えているうちに、腕時計の長針と短針が重なった。

 「レーススタート」

 けたたましい轟音を立て、両者は出発した。


 一〇・三キロのレースは待っている側としては少し退屈なレースであっ

た。

あくびをふわりとしたときに、パトカーのサイレンの音が徐々にこちらに

近付いてきた。やがて、封鎖してあったコーンを取り除き料金所のところまでパトカーが入ってきた。

 警察側の準備が整ったころ、満を持して暴走族のバイクの音が遠くから響

いてきた。

 ついに警察と暴走族の全面戦争が始まる――――


 はずだった。



 環状線の入口にちらちらと一つの人影が見える。

 腰まで伸びたつややかな黒髪、昼間の月のような白い肌、ぱっちりとした澄んだ瞳。白いワンピースもよく似合っていて、「清楚」という言葉がそのまま人になったような女の子。

その子は昼間に会ったヒマワリちゃんのようで、ヒマワリちゃんみたい

で、ヒマワリちゃんらしい、ヒマワリちゃんかのような――ていうかヒマワリちゃんだった。

「なんでこんなところに!?」

しかも車に乗ってきたわけではなく徒歩でここまで来たようだ。どうして

そんな非常識なことを。

 ヒマワリちゃんはそのままつかつかとパトカーの方へ歩みだす。

 警官の一人が「こんなところに来てはいけない」と保護しようとするが、それを器用に振り払いパトカーよりも前で暴走族のバイクを待ち望む。

 警官たちはなおもヒマワリちゃんを帰らせようとするがヒマワリちゃんは必死に抵抗する。

 そんなことをしているうちに暴走族のバイクが視界に入ってきた。

 その、刹那。ヒマワリちゃんは一直線に風を切って暴走族のバイク――シャチのバイクめがけて走り出す。

そのシャチのバイクには真っ赤な番傘がさしてあった。

その番傘は紛れもなくヒマワリちゃんのものだった。

まさか、あれを取り返すためにわざわざここまで来たって言うの?

 ていうか、このままだとヒマワリちゃんがシャチのバイクにひかれる!

「逃げて!」

そんな叫びは届くはずもなく、ヒマワリちゃんは走り続ける。それを面白がるようにシャチはヒマワリちゃんを轢いてしまおうと進路を変えなかった。

 ついにバイクとヒマワリちゃんがぶつかる――と思われたが、ヒマワリちゃんは前輪カバーに手をついたかと思うとその場でジャンプし見事な回し蹴りをシャチの顔面に食らわせた。

 声にならない悲鳴をあげ、バイクから身を投げ出されるシャチ。

 目の前の出来事に呆然とする警官、そしてあたし。

 今のは、何?

 昼間のふわふわしていて清楚なヒマワリちゃんはどこいったの?

 どこにそんな身体能力が?

 しかし、驚愕はここで終わらない。

 ただごとではないと判断したシャチの仲間たちが、次々とヒマワリちゃんに襲い掛かってくるのだが――

 ある者には平手打ちを、ある者には足払いしたあと顎を蹴り上げ、ある者にはみぞおちに肘鉄を食らわし、ある者は思い切り投げ飛ばしてしまった。

 強い。

 昼間に出会ったときの面影が微塵も残っていない。

 そこにいるのは少女ではない。ただ一人の戦士がいるだけだ。

 警察もようやく事態を把握し、倒れ伏す愚乱破栖のメンバーや逃げ出す怒羅魂頭たちに手錠をかけ始める。

 

こうして、警察と暴走族の全面戦争はたった一人の少女の手で終幕された。





 って姉さんふうにレースを解説してみた僕だった。

「まさか、あんなふうになるとは……」

誰も思っていなかっただろう。僕も予想外の出来事に驚いている。

 やっぱり物事は自分が思うように動かないな、と改めて実感しながらも静かな達成感もかみしめて、僕は夜空を仰いだ。

 「ここまで長かったですね……」

SNSや掲示板でレースの噂を流し、レースの情報を警察へ流し、景品がウソだってこともレースをそそのかしたこともばれないように神経を使った日々。

 でも今日で『ノブナガ』としての僕はサヨナラだ。

「こんな時間ですけど甘いものが食べたいですね」

 僕は静かに階段を降りた。



 普通とはなんなのか。

 そんなことを尋ねられてもとしっくりとくる答えを出すのは難しい。

 たった十六年の人生では世の普遍性を説くことなど到底無理なことだ。

 だけどみんなは、『普通』を知らないにもかかわらず僕のことを『キチガイ』と呼んだ。

 ただ、「戦争が起こるのは人間のせいなら人間は全員いなくなるべき」だと主張しただけで。

 物事は何かを犠牲にしなければ進行しない。チョコレートを作るためにはカカオが必要で、電車が走るには電気が必要で、呼吸するためには酸素が必要になる。犠牲になるものはお金であったり、体力であったり、時間であったり、食べ物であったり、誰かの意思であったり――そして命であったりする。

 その犠牲を人々はときどき『ムダ』と呼ぶ。その『ムダ』省きたいのが人情だ。

 僕もそれくらいはわかる。

 でも、この世には省いてはいけない『ムダ』――犠牲がある。

 それは『善意』を実現するための犠牲だ。

 僕は善いことをするためならどんな犠牲でも惜しむべきではないと思う。

 それがどんなに巨額なお金であっても、膨大な体力であっても、何年もの時間であっても、莫大な食べ物であっても、どんなに強い誰かの意思であっても――そして命であっても。

 何かの『善』が成り立つのであれば僕はなんでも差し出そう。どんなこともやろう。

ピーマンが嫌いな人がいるならピーマンを食べてあげるし、重たい荷物を持っている人がいれば全部持ってあげるし、暴走族が捕まえられるのなら危ない嘘だってつくし、人間がいなくなれば戦争がなくなるというなら僕は喜んで人間を消してしまう(すべ)を探そう。

 それはきっと悲しいことなんかじゃない。だってそのさきには『善(希望)』がある。

 僕はそれを信じている。それが僕の生きる上でのモットーだ。



 というわけで、今回の作戦を実行したわけだけど、警察と暴走族の全面戦争になるかと思ったけど思わぬ客――ヒマワリさんのおかげでそれは防ぐことが出来た。

まあ、正直な話暴走族が捕まれば何でもよかったんですけどね。

 しかし、ヒマワリさんが関与したことで問題が発生した。

 あなたは「たった一人の女の子が暴走族を屈服させ逮捕に大きく貢献した」と聞いたとき、どう思いますか?

 素直に驚くか、あるいは不思議がるか。何らかの関心を思はずです。

 

そう。ヒマワリさんはいまや時の人だ。日本中すべての人の関心を自分一人に集中させてしまった――たった一人で暴走族を倒した英雄として。


 そんななか、ママイ探偵事務所に新たな来訪者が現れる。


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