「もしもし!あたし、メリーさんっ!」
みなさんは、都市伝説のメリーを知っているだろうか。
「もしもし私メリーさん。今○○にいるの」という電話が毎日かかってきて、しかもどんどん近づいて来て、最終的に「貴方の後ろにいるの」と言われ、振り向くと……という話だ。
もちろん俺はメリーさんに関するSSをみたりしてるうちに、「可愛い幼女」のイメージが定着していたわけで、来るのが待ち遠しい位に怖くない都市伝説だと自負している。
そんな俺が、ダラダラと休日をすごしていたら。
突然、アニソンの音を遮断するようにかかって来た着信音。
幻聴って本当にあるんだなぁ、と瞬間的に思った俺はある意味天才だと思う。
何故なら、このぼっちの俺だ。
子供の時は自然が大好きで環境委員会にも入っていたから友達も大勢いた。多分人生で一番輝いたのは、嵐の日に花壇を守ったときだけだったと思う。
それからいくつかの年月がたち、こんなにぼっちなヲタになってしまった。人って変わるものなんだなとつくづく思う。
今更、誰がこんな俺に電話をするものだろうか。
その時、俺は確かに、都市伝説「メリーさん」を思い浮かべた。
何回かコール音のあと、俺は「応答」をタッチした。
「もしもs」
「もしもし!あたし、メリーさんっ!」
聞こえて来たのは、元気いっぱいな子供の声。
特にロリっぽい声でもない。
小学5年くらいの、元気な姪っ子が電話してきたような、声のトーン。
そして、この細かい設定を瞬間的に思い浮かべた俺はやはり天才だと思う。
「あたしね、貴方の家の前にいるの!」
……
………
…………
?!?!
展開早くないか?!
これは、公園あたりからスタートするもんだと思っていたが…
いきなり家の前ときた。
「うん、それで?」
「ちょっと、後でかけなおしまーす!」
ガチャ。
なんなんだろう。
このやり切れなさは。
次の展開には後ろにきちゃうんだろうか。
ていうか悪戯って可能性は無いのだろうか。
受話器を取る前にメリーさんだと決めつけていたせいで、全く違和感を感じなかったが、妖怪…?から電話がきているのだ。
ぷるるるるるる
「はい」
「もしもーし。あたし、メリーさん!
今はねえ…キッチンにいまーす!ではまた!」
は?
ひ?
まて、キッチンというのは、玄関のすぐ前だ…が…
家の中で小刻みに動くパターンか?
じゃあ、これは。
俺はニヤリと笑った。
多分これを外でやると捕まってしまうんだろう。不気味すぎて。
俺は、あろうことか自分からかけ直した。
「もしもし」
「えっ、うそ〜!こんな事もあるもんなんだね!
ちなみにあたし、今廊下を移動中だから!」
ガチャ。
なんだ、このカタツムリ並みの遅さは。
廊下なんてすぐに来れるだろう。
ぷるるるるるる
また着信。
なんだか、想像してたのと違い、俺は面白くない気分をかみしめていた。
「はい」
「この家って広いのね?とりあえずコタツに入らせてもらったわ。あと、食べかけのみかんもらいまーっす!」
おいおいおいおい!
図々しいぞ、こいつは!
てか俺の部屋のドアを開けると、コタツが目に入る位置だ。
影をチェックする。
…みえない
はぁ、と俺はため息をついた。
不気味さが少し残ってるだけで…てかいつ後ろに来るんだよ。
早く来いよ!××××しようぜ!
…冗談でした。すんません。
ぷるるるるるるるるるる
着信音。まだ部屋には来ていない。
「はい」
すると、相手は嬉しそうな声をあげて、アニメっぽい声でこう言ったのだった。
「お待たせしました!あたしメリーさん!
今、貴方の後ろにいますっ!恩返し、ですよ!」
…え?
俺が慌てて後ろを振り向く。
いつの間に空いていた窓からのすきま風が目に直撃して、右目が痛かったが、目を押さえながら見ると、そこには誰の姿もなかった。
しかし、小さなケーキの箱が置いてあり、光の速さで中をみると、俺が大好きな、チーズケーキが一切れ入っていた。
そして、そのそばには、小さな紙切れが入っていた。
それは、触れたら消えてしまいそうなほど薄くて、ゆっくりと開くと、中にはこう、書いてあった。
『あの時助けてくれてありがとうございました!遅くなってごめんなさい。そして、あたしの遊び相手になってくれてありがとう!
merry_cheese@××××.jp』
助けた?
俺が?
俺が何かを助けたことなんてこの××年間で片手で数えるくらいしかないはずだ。
1回目が、雨に濡れてる猫を保護したとき。
その猫は、今でもコタツでゴロゴロしている。
2回目が、家の庭の花が枯れかけてるのにいち早く気付いたとき。
3回目が、親戚の経営してるケーキショップの売り込みを手伝ったとき。
4回目が、死にかけていた猫を保護したとき。こいつも同じくコタツでのんびり寝ている。
5回目が…
学校の花壇を嵐から守ったとき。
あの花はもう枯れてしまっただろうけど、俺には予想が着いた。
なんせ、このアドレスの書かれたメモは…
ノートをちぎって出来たような、小さな、蝶の形をしていたから。
よいしょと立ち上がって、みかんを見てみる。
猫が二匹、寄り添って寝ている隣では、汁が綺麗に抜かれたみかんが転がっていた。
「今時は、蝶もパソコン持ってんのか?」
自分で言っといて、くく、と笑いがこみ上げてくる。
否。
あの蝶は、きっと妖なのだろう。
人の姿にも化けられるんだ、きっとそうだ。
いつか、会えたらいいよなー…
そんな気持ちを胸にしまって、俺はメアドを入力した。
片手に、チーズケーキをひとかけら刺した、フォークを握りながら。
みなさんは、都市伝説のメリーを知っているだろうか。
「もしもし私メリーさん。今○○にいるの」という電話が毎日かかってきて、しかもどんどん近づいて来て、最終的に「貴方の後ろにいるの」と言われ、振り向くと……という話だ。
俺は、さながらその話はよくできた話だと思う。
振り向くと、どうなるかは、その人によって違う。
俺に至っては、親身なメル友が一人、増えたまでだったが……
ど う し て こ う な っ た