運命を変えた話
昔々、ある村にとても仲の良い恋人がおりました。
二人は、もう少しで結婚することになっていました。
そのとき村は凶作でしたが、二人の両親もその結婚を嬉しく思い、また村人達も二人が末永く暮らせるように願っていました。
ある日のことでした。
ある女の人が、山神様に捧げられることになりました。 生贄としてその女の人を山神様に捧げ、その代わりにこの凶作を何とかしてもらおうとしたのです。
その女の人とは、もうすぐ結婚する、あの女の人でした。
男の人は村長に、生贄を変えてくれないか、せめて捧げる日を延ばしてくれないか、と頼みました。 しかしそれは、認められませんでした。
「くじで決まったんだ。 お前さん達には悪いが仕方ない。 期日は明日だ」
村長はそう言いました。
その日の夜、男の人は山神様を祭る神社の前で泣きながら祈りました。
「どうか……あいつの運命を変えてやってください。 あいつを死なせたくはありません」
何時間も泣き続け、祈り続け、そして丑三つ時になりました。
「どうか……どうか……」
「本当に、運命を変えたいのかい？」
言いかけた男の人の言葉を遮るように、若い女の人の声は言いました。
「山神……様？」
「質問に答えな。 本当に運命を変えたいのかい？」
同じ問いをその声は続けました。
「変えたいです」
「お前の恋人を、助けたいのかい？」
男の人は、今度は力強く言いました。
「恋人を助けたいです。 助ける方法が、何かあるのでしょうか？」
「方法はある」
声は勿体つけて言いました。
「要するに、生贄はお前の助けたい娘でなければいい。 運命を変えて、別の女に変えたい。 そういうことだね？」
絶句する男の人。 声は続けます。
「お代をもらうよ。 お前の命」
「私の、命？」
「運命を変えるんだ、お前一人の命では足りないくらいだよ」
男の人は、少し考えてから言います。
「それでいいです。 あいつの命が助かるのなら」
声は少しの沈黙の後、言いました。
「いいのかい、それで？ 自分の命を捧げ、他の女を生贄にする。 幸せになるのは、お前の可愛い娘と村人どもだけ」
男の苦悶の表情を楽しむかのように、なぶるように続けます。
「お前達は結ばれない。 女のほうは、少し経てばおまえのことを忘れて、ほかの男と一緒になるかもしれない」
「それでもいいです」
男の人は言いました。
「止めるのなら今のうちだよ。 本当に、いいのかい？」
「お願いします。 あいつを、助けたいんです」
男の人が言うと、声は嬉しそうに続けました。
「契約完了だね……」
男の人が目覚めたのは、次の日の朝でした。 誰かが自分の顔を覗き込んでいます。
「大丈夫？」
覗き込んでいた、女の人が尋ねます。
「生贄は、誰だ？」
男の人は、女の人の質問に答えずにそういいます。
「お隣の娘よ、どうしてそんなこと聞くの？」
男の人は、飛び上がらんばかりに喜びます。
「お前は捧げられないんだな、良かった」
そういって、立とうとしました。
「あ、ダメ！」
が、立つことができず、布団の上にすとんと尻餅をつきました。
「あなた、昨日倒れたのよ。 立っちゃだめよ」
（そんな……）
声が言っていた通りになりました。 だとすれば、自分は、
（もうすぐ、死ぬ……？）
男の人はその日の晩、死んでしまいました。
