冬のともだち
とある森の中、真っ白な雪がしきつめられたその上に、
一人の少女が足を抱えて座りこんでいました。
「どうしてこうなったんだろう・・・・」
少女はそうぼやきながら
何度となく周りを見渡してため息をつきます。
少女の周りには幾重にも重なって色味の無い木々があり、
今いるこの場所からは街の灯りが全く見えません。
唯一、月の光だけが現状を知るだけの明るさをもたらしてくれています。
やはり変わることのない、
変わり映えもしない様子を確認さた少女は
再び大きなため息をついてしまいます。
そしてじわじわと体力を奪う真っ白な絨毯について、
苛立たしげに考えだしました。
迂闊な自分をその考えに含ませながら・・・・
それは今朝のことでした。
その日はとても寒くなかなか布団を剥ぐことができません、
「うぅ・・・・寒い、でもこのままでいるわけには・・・」
布団の誘惑に耐え、はいずり出た後、
夢うつつのまま少女は身支度を整えます。
そして、今日の天気はどんな感じだほうかと
窓の外に目をむけると・・・・
「わぁ!!」
そこには目も眩むような白さ
「すごいすごい!!こんなに雪がつもってる!!」
少女は生まれて初めてみた光景に
しばらく目が離せないくらいの衝撃をおぼえ、
その驚きと勢いのまま家を飛び出してしまいました。
それから少女はというと
「雪だー!!、つめたーい!!」
自らの気の向くまま
「どこまでもつづいてるー」
深く、より深くへと
「あはは、たのしーい」
白い道を突き進んでいってしまったのです。
そして夕日が差す頃、丁度遊び疲れた段階で
ようやく、少女は自らの置かれた状況を理解しました。
「・・・・あれ?ここどこ?」
・・・・もう後戻りできないくらい
森の奥に進んでしまったことを。
その後いくらか、森の中を歩きまわってみてもまるで変わらず、
日が落ちて数時間のすえとうとう少女は歩けなくなりました。
そして現在、充分と自らの行動を省みたところで、
少女はこれからのことを考えはじめ、
途方もない不安に包まれることになります。
「どうしよう・・・・」
「いつ家に帰れるんだろう・・・・」
「ここどこぉ・・・・」
「寂しいよ・・・・」
いくら言葉を発してもここは誰もいない森の奥。
他の生き物の気配すらしないなか、
独白した言葉は静かに霧散していきます。
いつもならほかの生き物がいないことに対し、
身の保全という課題について安堵を覚えるはずが、
この静寂につつまれたなかでは例え肉食獣であろうとも、
その存在を感じとれる程近くにいてほしい。
そう思えてしまうぐらいの孤独感を
少女は抱え込んでいきました。
・・・・そして遂に
「・・・・・・・・ぐすっ」
ポロポロ
「・・・・ひぐっ、うぁぇ」
ポロポロポロポロと
少女は涙をこぼしはじめました。
それは延々と雪の上に新たな模様を
描き続けます。
ポロポロポロポロ
ポロポロポロポロ
ポロポロポ『ひしっ』
「・・・・・・・・っえぅ!?」
泣き続ける中、突如現れた気配に少女は驚きました。
そしてすぐにその気配の主を探すと、
すぐ足下になにか動くものがみえます。
・・・・それはどこまでも白いウサギでした。
さっきまでなにもいなかったのに・・・・
少女は唐突に現れたウサギに疑問をもちました。
これは自分が孤独のあまり生み出した幻なのではないのかと。
そう思いウサギをよく見てみると、
とても普通のウサギとは思えないような姿をしていました。
そのウサギはあまりにも白かったのです。
毛色はもちろんのこと、耳の中や口の中まで。
唯一目だけが白くはないといえ、色そのものがなく、
全体を細かく見れば見るほど
生物ではなく、一つの彫像のようなイメージを覚えます。
やはり幻なのだろうか?
それでも足下に『ひしっ』と
寄り付いてきている感覚は
そこに確かにある、ということを明確につたえてきます。
少女は戸惑う中、
おそるおそる白ウサギへと手を延ばしてみました。
「あっ・・・・冷たい」
白ウサギに触れてみると、
服越しには感じとれなかった冷たさが伝わってきます。
そして白ウサギの背中に指を通らせると、
毛の一本一本が凍りついていそうなぐらい冷たいのに、
その一本一本はとてもなめらかであります。
「不思議な感じ・・・・」
手を離してからもその不思議な感覚の余韻が残っており、
しばらく自分の手を開いたり、閉じたりとを繰り返します。
そして、ふと気がつくと
「・・・・あれ?」
いつの間にかまたもう一匹、白い何かが増えていました。
先程よりさして驚かずに、見下ろしてみると
今度のそれは白いトリであることがわかります。
白ウサギと同じように
真っ白な体躯に無色の目、
それは足下でじっと少女を見上げています。
白ウサギに白トリ・・・・
二匹とも少女に寄り添っていて
まるで励ましてくれているかのような・・・
気がつけば少女の心はとても落ち着いていました。
これからどうすればいいのか分からない不安感や
一人きりであるという孤独感も、
いつの間にかきていた真っ白な来訪者が、
まっさらに拭い去っていったかのようでした。
そうして自らがおかれた状況を頭から離して、
しばらく二匹の白をみつめていると
改めてこの二匹について疑問が登ってきます。
「・・・・そういえば」
この二匹が幻じゃないのなら
いったいどこから来たんだろう?
いったいどうしたら
ふっとわいたように足下につけるのか?
こんな
「真っ白な・・・・」
白・・・・・・・・・・雪?
少女は二匹の他に混じるもののないその白さから
自分を先程から取り囲んでいるものを連想します。
「もしかして・・・・」
もしかすればそれは・・・・
どこか荒唐無稽ではあるけれど、
あの生物然としない姿をみてしまったから・・・・・・
きっとそうであるに違いないと少女は確信をもちます。
「・・・・それじゃあ、目は?」
そして二匹ともに共通する真っ白ではないもの、
それについて調べようと
二匹と雪を交互に見比べようとしたとき
「雪がっ!?」
足下で白いうねりが起こりはじめました。
そのうねりは小さな山をつくるようにもりあがり、
自然に身をまかせるようにとても静かに形を変えていきます。
少女はいまだに形を変えようとする山をとても興味深げに覗きこみます。
すると山の中心に二つ、白くない点が存在することに気がつきました。
足下にも点々と広がっているそれは
少し前に自分が零していった涙であり、少女の孤独を象徴するものです。
思い返せば、最初出会った時からその身を寄せてきていました。
少女の寂しさに呼応して生まれたものたちは
少女が感じている足りないものを埋めるべく行動を起こしたのでしょう。
その涙をこれ以上こぼさせないために・・・・・・
それでもまた新たに涙は零れてしまいます。
白い生き物たちの生まれた意味を悟って・・・・・
自分のために生まれてきてくれたのだと・・・・・
気づけば何匹もの白い生き物たちが少女を見つめています。
『だいじょうぶ?』
まるでそう語りかけてくれているような・・・・・そんな気がして
「うん!!・・・・もうだいじょうぶ!!」
目端に涙の跡をのこしながら、
あふれんばかりの笑顔でこたえました。
すると、そのこたえに反応して、一匹の大きな白クマがやってきます。
その両腕にあふれんばかりの落ち葉をかかえ、
少女の前にかがみこんで、その両腕をつきだしてきます。
「・・・これにのるの?」
そうたずねると、まるで『そうだ』というように首をゆっくりと縦にふります。
そして少女が少しおっかなびっくりとその両腕に足をかけ、ふかふかの椅子に腰かけると
「わっ!!」
白クマは自然な動きで立ち上がり静かにあるきはじめます。
それと同時に白い生き物たちも一斉に移動を開始しはじめました。
「これ、もしかして私の家にむかってるの?」
どこか確信をもって問いかけると
やはり白クマはうなずきます。
最初は移動しはじめたことに驚いていた少女でしたが、
この白い生き物たちがどこに向かっているか、それに気づいてからは
白クマの両腕の中、いつもと違う高い視点からの眺めを一望します。
そこには森を超えて山があり、うっすらと赤く輝く山の頂上に目を奪われます。
そうして、しばらく眺めていると突然、一匹の小柄な白リスが私の膝にこしかけました。
どうやらいつのまにか白クマの体を駆け上がってきていたようです。
自分の膝元にやってきた小さな来訪者に
少女が微笑みながら頭をなでてやると、
『きゅるんっ』と嬉しそうに目を細めてくれました。
しばらく白リスをなで続けていると、
『めぇぇっ』と地面を歩く雪ヒツジがどこか不満げに鳴き声をあげます。
その鳴き声に反応して、白リスはすっと立ち上がると
少女の膝元から降りていきます。
その様子を見ていた少女は
もしかしたら皆私と遊びたいのかもしれない・・・・・
家に帰ったら皆といっぱい遊ぼう!!
そう考えて、皆を一瞥していきます。
白い生き物たちは相当数いて、
白いシカやイヌ、ネコ、サル、キツネ・・・・・・・
はてにはサカナや(サルに抱えられている)カメまで
その集団の先頭を率いているのは最初にであった白ウサギであり
それを見咎めた瞬間、思わず「ふふっ」と笑みがこぼれました。
そうして皆を観察していると不意にその足取りがとまります。
どうしたのだろうか?そう思い、
先ほどから見下ろしていた視線をあげるとそこはすでに森の外で、
真っ直ぐ先に待ちわびた少女の家が見えました。
「やっと・・・・・帰ってこれたんだ・・・」
雪の上に丁寧におろされたあと
これまでのことを思い返して思わず涙がでてしまいます。
そうすると途端に皆が心配するそぶりをみせるので、
大丈夫、といいながらあわてて目元をぬぐいました。
「みんなありがとー!!ばいばーい!!」
しばらく遊んだあとに森に帰ろうとする皆に、少女は大きな声で感謝と別れをつげます。
その言葉に各々の反応を示しながら、皆は森へと帰っていきます。
それを最後まで見届けて自分も家に帰った後、少女は皆のことを考えます。
みんなはずっと森の中にいつづけるのかな・・・・・ううん、たぶん無理だよね、
この雪が消えたときみんなも一緒に消えてしまう、そんな気がする。
でもきっと、今をすぎても、また冬がくれば・・・・雪がふれば・・・・
またみんなにあえるよね・・・・・私はそうしんじてる。
・・・・・・・ありがとう、みんな。
それからというもの、
毎年訪れる冬の季節の間、深く雪がつもった日には
ある家のすぐ近くの森、
その奥から少女のとても楽しそうな声が聞こえてくるそうです。