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04

 しかしさすがに、二週間目に入る頃には心配になってきた。


 治療も色々とあって忙しい。首に麻酔注射をしたり、点滴したり、高気圧カプセルに入れられたり、案外休んでいる暇もない割に、耳はほとんど治っていない。

 マジ、このまま治らない、ってこともあり得るのか?

MIROC(マイロック)|の病院なので、家族もあまりひんぱんには見舞いに来られない。


 由利香が恐ろしげに、あたりを見回しながら入ってきたのは、二週間目の始めだった。

入院時にはカイシャの総務と来ていたので、今回は初めての面会になる。

「タカさん、」口が動いている。

 だいじょうぶか聞いているようなので、笑顔をみせて伸ばしてきた腕を軽くたたいてやると、ぎゅっと抱きついてくる。

 由利香の甘い息が、耳元をくすぐる。久しぶりのぬくもりだ。彼もしっかと抱きしめた。

 そこへ総務のトノマツが入ってきた。「わお」と一度立ち止まる。気の利かない野郎だ。

 急ぎらしく、そのままこちらにやってきた。

 妻と何だか話をしている。二人でペコペコしやがって。聞こえていないので、急に仲間外れになったような寂しさを覚えた。ホワイトボードを取り上げて書いた。

「何か用?」トノマツも几帳面にボードに書く。

「おじゃましてすみません」

 サンライズは書いてやった。「わたしたちこれからイイ所」

 トノマツは下くちびるだけで笑うと、ああそうだ、と用意してきた紙をみせる。

「脳検査は異常なし。原因がはっきり判らないが、ここはとりあえず退院」

 

 ここはとりあえず? どういうことだ。


 そう書いてやると、トノマツはホワイトボードをしばらく見つめていたが、何か書いてまず、由利香に見せた。由利香は「えっ?」と叫んだ、と思う。ボードをおそるおそる、彼に渡した。丸っこい字でこう書いてあった。


「休職届を出して、転院しませんか? 福島にある療養所に、空きができそう。

 その相談で来ました」


 由利香がこちらを見ている。

「また、しばらくいなくなっちゃうの?」

 目が、そう言っていた。彼は「ごめん」と答えるしかなかった。



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