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02


 耳の件で通院はしばらく続いた。

 左の戻りがやや悪い、と言われたものの、自分では気づかない程度だった。


 そんなこんなでようやく落ち着いた頃、ライトニングが東日本支部に顔を出した。


「一通り研修が済んで、今は本部技術の特務です」

 言葉も態度も、何となく落ち着いてしまった。


 髪も短くなったし。でも背広似合わねえ。


「ダンデライオンというチームです」

 新しいリーダーだが、何かとよくしてくれるらしい。お互い若いし、けっこう気が合うんですよ、と彼は笑った。


 彼を狙っていた組織のことは、あれからMIROCがかなり調べて回ったのだが、結局日本からは姿を消してしまったようだった。

 以前サンライズが長野県上田市での任務で遭遇した『アクシオ』の関連が一番疑われていたが、証拠が出ない。

 海外の系列組織がそれぞれ気をつけて見張っているので、いつかは正体が判明するかもしれないが、今のところは気をつけて様子をみるしかないという結果になった。


 ライトニング父親は、介護のついた施設に入ったそうだ。

 あの時のショックもそうだが、その後まもなく脳梗塞を起こし、寝たきりになった。


「弟もオヤジも、施設に入っちまった」

 ほんのひと時、気弱なカズキの笑みが彼に向いた。


 それでも、祖父からの相続分をすべてマサキに渡し、父親の分の財産管理も成年後見人制度で確かな人物に任せたので、今後彼らが金銭的に困ることはなさそうだ、と少しだけ胸をはる。

「少なくとも、オレは自分で稼げるようになったから」


 それに、マサキが時々、父親を訪ねていくようになったそうだ。

「前はね、オヤジは優しくしてたんですが、マサは怖がっちまってなかなか寄りつかなかった。それでオヤジは余計オレにもあたってたんだけど」

 それが今では、マサキは喜んで父の元に通っているのだという。


「オヤジも、マサキのことは分かるらしく、いつもうれしそうに笑って手を伸ばそうとするんです、オレはずっと、オヤジから嫌われていたけど、でもとにかくあの二人が仲良くしてくれてて、本当に安心したってか……」


「そうか」

 何だか、コイツとオレはやっぱり似てるのかも、とサンライズは彼の姿を改めて眺めた。

「安心できたのなら良かったよ」

 そう言いながらついうっかりとデスクの一番下の引き出しを開けるサンライズ。とたんに「ぴよぴよぴよぴよ」ヒヨコ百羽の大合唱が始まった。

「な、なんすかセンパイそれ」

「やべ、つい忘れるんだよな」

 光センサーのせいで、そのまま引き出しを開けるとそのたびにヒヨコが大騒ぎするトラップを、作戦課のメイさんに仕掛けられていた。

「いい? センサーをムリに取ろうとすると、爆発するからにゃ」

 すごく複雑な配線が見えたので、ヒマになったら取り組もうと思って、そのままになっていた。引き出しを開ける時に、少し手で影を作ってやれば鳴かれずに済むのだがいまだについうっかり、そのまま開けてしまうことがあった。

「オマエに会えたら、やろうと思ってたんだが」

 ひよこの大合唱の中、『磐梯吾妻スカイライン・吾妻連峰の四季』という小写真集を取り出して彼に手渡した。

「いいんスか?」

「オレも一冊買った」

 わあ、ありがとうございます、と丁寧に頭を下げ、目を輝かせてページをめくっていたが、

「そうそう、センパイ」

 急にフクシマ研修時代の彼に戻って、うれしそうに笑う。

「今日は残った宿題を片付けてもらうために、来たんです」

「なに? 宿題って」


 えへん、いいですか? 黒いカバンから見覚えのある赤いファイルを出した。


「福島のセンター長から言われたんですが、覚えてます? 300の質問」

「ああ……あれが何か」

「センパイ、一つだけ『分からない』って答えましたよねえ」

 ライトニングはにやにやしたままペン先で項目をなぞる。

「あった、ここだ」

『もしも相手の心が読めたら、相手の意思を動かすことができますか?』

 彼は文章を黙ってサンライズにみせた。それから小鼻をこすって

「これねえ、必ず『YES』か『NO』なんです。『わからない』はNG」

「それで?」

「この分、別の質問をまたしてくるように、って言われました」


 何言ってんだよ! 何を聞くつもりだ。サンライズつい、身構える。


「では行きますよ……

 アナタは実は、優柔不断な性格ですね?」


『はい』と即答。手話で答え、彼は両手を頭の上に揚げた。

「降参です」




 了

これで一巻の終わり。おつき合いいただきどうもありがとうございました!

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