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01



 福島からの帰り、サンライズは鶏肉の釜めし弁当を買って新幹線に乗った。


 ホームには色んな音が満ち満ちていた。

 アナウンス、発車ベル、電気系統の低く唸るような響き、通り抜ける列車の恐るべき風のうなり、そして、人びとがたてる諸々の音たち。


 指定席におさまると、すでに向かいに東日本の支部長が座って、同じ弁当をつついていた。


「支部に戻ったら、また聞けなくなりますから」

 盗聴の心配があるので、電車の中で聞いておこうと思っていた。

「ん?」

 うれしそうに具と御飯と混ぜながら、支部長は半分上の空で聞いてきた。

「オレ……いや、私が郵便局を辞めさせられたの、MIROCに入れるためだったんですか?」

 支部長は、おしぼりの袋を開けるのに集中していた。

「なんだって?」

「……」


 もう一度聞こうと思ったが、なんだか、どうでもよくなってきた。

 この現在を変えることはもう、できないのだから。


 ようやく耳が聴こえるようになった時、一つの(くびき)が外れた気がした。

 しかし、ひとつが外れると、今度はまた別の枷がのしかかってくる。

 聴力が戻ったと同時に、スキャニングの能力もよみがえったのを感じた。少し意識を前に集中すれば、自分の物ではない何かが流れてくる。おぞましくも、懐かしい感覚だった。


 しかしまたいつそれが暴走してしまうのか。

 それに、『シェイク』だって、いつまで自分の制御のうちに収まっていられるのか。


「気になることがあるのかね?」

 急に支部長が顔をあげた。

「スキャニングのことか」

 この人こそ、スキャンを使っているのかも。

「もう使わない、という方法もあるかな、と……」


 特務の仕事を続けていくのならば、シェイカーとして生きていくしかないだろう。

 家族を残して死ぬのはまっぴらだった。ガーネットのように、湿原の中でのたうちまわって死にたくはなかった。


 シェィクについては、元々持って生まれた能力らしい、ということは薄々分かってはいた。だから、他にあまり取り得もない自分がこの厳しい環境で生き抜くため、それは最低限、身を守る武器だと割り切ることもできる。

 しかし、スキャンは……役には立つかもしれないが、自分には、そこまで使いこなせる自信がない。


「そうだね」

 あっさりと支部長は肯定した。

「使わなくていいのならば、自分で封印してくれて構わないよ」

 サンライズはいつの間にか止めていた息をそっと吐きだした。


本当ならば、すべての力を封印してしまいたい。

 彼は、支部長の心に呼びかけてみた。


―― 呪縛の中に苦しい息を継いで生きていくのが人生だと、それは分かっています。

何を選び、何を捨てるのか、それでいつも悩むのが人間の性だというのも。


 分かっていながら、どちらも選べない私は、どうしたらいいのでしょう?


 もちろん、耳に聴こえるものも、心の中にも答えはなかった。

 支部長は景色を眺めながらうれしそうにペットボトルの温かいお茶を飲んでいた。


 景色はのどかな田園をあっという間に通り越していった。

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