03
―― センパイ!
「センパイ! サンライズ先輩、起きてください!」
初めて聞くのに、よく聞きなれた声だと思った。
そうか、ずっとずっと彼の声は心に届いていたのだ。
「ちょっと……どいてくれ。髪が」
自分の声も久々に聞く。
こんなにしょぼい感じだっけ? ライトニングのおくれ毛が顔に触っていた。
しかも肩に触ってるし、痛いんだよ。
ライトニングはようやく気がついて
「すみません」
手話をつけて彼の上から身をよけた。
サンライズの意識が戻り、急に気が緩んだようだった。
父親は、すっかり意識を失って少し離れた場所に寝かされていた。
そんな姿を見てから、ライトニングは顔をそむけ、ぽつりとつぶやく。
「オレ……オレ、本当にアホだった」
「それを数値化するといくつ?」
「ええと、そうだな……9」
言ってから、はっと彼の方を振り返った。
「オレ、今、読んだ? 心を」
「いいや、残念だが」
サンライズは咳払いをしてゆっくり半身を起こす。
「スキャニングは全然できてないみたいだな、相変わらず」
もしかして? という表情になった。
スキャニングの必要なんて全然ないじゃあないか、彼の顔にかいてある、いや、声に出てるのか。
「うそ、マジかよ……」
満面に広がる笑み。そうだ、笑うとコイツ、こんなにいい顔になる。弟の目と、そっくりだ。
「聴こえるように、なったんだね? センパイ」
がばっと抱きつかれて、またひどい痛みに悲鳴をあげた。
「よかった! うれしいよぉ、よかったぁ」
こういうところも弟と似ている。まっすぐな喜びを、まっすぐにぶつけてくる。
オレは、それをそのまま受け止めればいいんだ。
「ホントに聞こえる?」
「ああ」
ライトニングはわざと口元をおおって
「こらほどぉうっつぁし先輩はねぇ」
小声で言ったので「誰がうるさいって?」と返す。
ライトニングは、笑いだした。
「先輩、いつフクシマ語習ったんだよ」
向こうから、マサキが走ってきた。何か叫んでいる。言葉は不明瞭で判らないが、全身にあふれる喜び。手を大きく振りながら、兄の元に向かっていた。
「マサキ!」
カンノカズキは大きな声で叫んで両手を振り回した。
「あぶねがらはねてがんなよ~転ぶよぉ」
ああ、福島のことばも素敵だ。
オレはやっぱり退職したら福島に家を建てて住もうかな。
マサキは兄に抱きついた。体当たりにも近い勢いだった。
「かじゅちゃ」
「見てくれ、マサキ」
ようやく正式に紹介してもらった。
「サンライズ先輩。オレの大事な先輩だから。ちゃんとアイサツしろ」
「こんちら」
マサキが出した手を、「左手でごめん」と、ぎゅっと握り返す。
ふんわりと暖かい手が力強く、心地よかった。
包み込むような優しさがじんじんとこちらに流れ込み、傷の痛みを癒してくれる。
「こんちは」
やはり、眼が似ている。ありのままの相手を、そのまま全て受け入れようとする強い力、そして深い思い。
彼ははっきりと伝えた。
「オレは、シイナ・タカオ。よろしく」
「うん」
マサキは握手をしながらなんどもうなずいていた。




