02
―― せっかく組織に売ったのに、最後に弟とアヅマフジを見て行きたい、後は何でも言う通りにする、なんて、つまらん事を言うからこんなことになるんだ。
オマエの値段は二億だった。
そうしゃあしゃあと父親は言い放った。
その後は働きによって、年に一億は父親に支払われるのだ、と。
そんな金が手に入るのならば、相続分などもう必要ない。オマエが生きていて、どんな汚い仕事だろうが続けてくれれば、オレもマサキもずっと楽に暮らせるんだ。マサキは特に、助かるだろう? 施設に一体いくら金がかかると思ってるんだ? マサのために……
「オメ、マサのためマサのためっつうけんどよ」
絞り出すようなライトニングの叫びを、父は狂乱したように遮った。
「うっつぁし、はぁ!みっだぐね、口つぐめはぁ」
彼の能力に気づいているらしい。
あわてぶりからもそれが分かった。
「オメがしゃべくるとよぐねんだよはあ。だまれ! そのまんまオレと福井にあべや」
組織との合流場所は聞いていたらしい。
「したらマサも無事だはぁ」
ゆらり、とライトニングの姿が現れた。
両手を上げ、よろめきながら父と弟との間に立つ。その姿は哀れだった。
「かじゅちゃ」
弟がしわがれた声を出した。身を切られるような叫びだった。
サンライズは、肩を押さえたまましっかりと立ち上がった。
誰も目の前の事に気を取られているらしく、こちらを見ようともしない。
彼は、ふかく息を吸って腹にためた。
前方の父親に、意識を集中させる。
―― みえるか?
そうだ、食い込め、ヤツの心に。
「こっちさ歩け!」
父が大声で呼ばわった。その時、彼はキーを掴んだ。
「迅速丁寧、誠意をこめて」
かつて菅野運送のモットーだった言葉。もちろん、サンライズは知る由もなかったが、急にそのロゴが目の前に見えたのだった。
自分が叫ぶ声は何故かまた聴こえていなかった。だが、周りの空気が震えたのがみえた。朝露のひとつひとつが細かく振動して飛び散るのが、まるでスローモーションのように映った。
菅野運送の元社長は、急に銃口を空にあげた。体がこわばり、一歩踏み出したままの姿で固まっている。
「銃をしずかに下におろせ、手を頭の後ろに組め」
この声も自分には全く聴こえてこなかった。
だが向こうには分かったらしい。しばらくおいてから、彼はのろのろと、言われた通りにした。
ライトニングが駆け寄った。口が動いているが、やはり何も聴こえてこない。
さっきまで聴こえていたと思ったのは何だったんだろう? 風がすっかり収まってしまったかのようだ。ただ、体中ありとあらゆる所が痛み、気を失いそうだった。
「あとは、カズキの言う事を聞くんだ、いいね」
父親に向かってそう告げる。
ライトニングは、硬い表情をしている。心の中で何かが戦っている。まずい、そう思った瞬間、彼が父親に向かってキーを放ったのを感じた。
「オヤジぃ、死ねや!!」
黒い矢印が稲妻のように父を刺し貫く、が、一瞬速くサンライズは彼らの間に飛び込んだ。
がん、と激しい衝撃を今度は頭に感じ、その後の景色は闇に沈んだ。




