01
急にガスがすっかり晴れ、澄みきった藍色の空が広がった。
地平線が赤く染まっている。丸い火口まわりの小路がすべて、目の前に明らかになった。火口の底の、平らになった地面までくっきりと見える。
ライトニングについた男が急にしゃがみこんで、苦しげに身をよじったかと思うと銃を放り投げ、火口に向かって駆け降りていった。
同時にもう一人、マサキについていた男が何か叫び、マサキの背中に銃を突きつけ、ぐいと押した。よろめくマサキ、火口側によろめいた。カズキが叫ぼうとして男に何か制された。彼のパワーを知っているらしく、口を封じれば危険がないことは分かっているらしい。男はマサキの襟がみをつかみ、自分の方に引きもどす。
すべて一瞬、あっという間に事が運ばれている。
だが、まだ誰もサンライズが上っていっているのに気づいていない。
サンライズは腹に息をため、思い切り叫ぶ。
「こっちを撃て!」
男がふり向いた。その拍子にマサキが男を突き飛ばす。が、掴まれていた襟が離れず、赤いジャケットのフードだけその手に残し、彼は火口側に転げ落ち、低木の茂みの中に消えた。
男が銃を構えた。
―― 撃たれる!
その時ライトニングが声を限りに叫んだ。
「ダイギン、入りましたあぁ」
口の動きだけで、何と言ったかが分かった。声の調子まで分かる、あたりのぴんと張り詰めた空気の中、彼の声が響き渡っているのまで感じられた。
男が止まった。
サンライズがおそるおそる近づくと、男はわななく両手で、銃をささげていた。
すっかり戦意は喪失しているようだ。
火口の中をのぞくと、低木の間に、もう一人の男が丸まって眠っていた。
ここから見ても熟睡している様子がうかがえる。
「マサキぃ」
上の男を手早く縛り上げてから、ライトニングは泣きそうな顔で弟の姿を探していた。
「どうしよう、マサキ、マサキがさあ」
急にひょっこり、灌木の影から頭が現れた。
「マサキ!」
弟もうれしそうに何か叫んだ。
ライトニングはすっかりカズキの顔に戻り、弟の元に駆け降りていく。
サンライズもあわてて後に続く。
彼らが無事を確かめあうのを横目でみつつ、下にいる男も念のために縛り上げた。
「よかったな」
とにかく、サトウに頼んでセンターに連絡を入れてもらおう、と火口の縁まで上がってきたサンライズは、その先に丸くなった男をちら、と目にとめて、気がついた。
銃が無くなっている。
鋭い痛みがこめかみを刺した。
頭痛? と思ったせつな、眼鏡がふっとんだ。
「伏せろ」
叫んだ瞬間、ライトニングが弟をかばって、道から少し下がった岩陰に身を伏せたのを目の端に捕えた。が、もう一発。今度は肩が焼けた。倒れながら、火口側にとっさに飛び込む。
しゃがみこむ男の影に、ライトニングの父親が立っていた。よろめきながら、今度は自分の息子たちに銃を向けている。
ごうごうと風が鳴っている。
頭痛なのか、こめかみの痛みなのか、肩のせいなのか分からない。景色がぼやけている。稜線の縁に、父親の影がぼんやりと映っている。
「カズよ」
風が声になった。
「マサから離れろぉ」
ごうごうと渦巻く風の中、確かにそう聴こえた。がさつく、イヤな響きだった。
「ひとっ言も、口きぐでね。そのまんまそごにいれ。マサを向こうに歩かせんだあ」
かなりたってから、マサキらしい影が少し先の稜線に現れた。ふり向きふり向き、少しずつ彼らから遠ざかっていく。
「そごでええよ」
父が少し調子を和らげて叫んでいる。
「マサ、オメはそごでええ」
どうしたことだ。夢でも見ているのだろうか?
音を感じる。
サンライズはようやくひざで起き上がる。
肩をぎゅっと押さえた。傷は大したことはないようだが、撃たれたショックは大きい。
―― サトウキョウコは無事なのか?
「カズよぉ」
父は、嗤っていた。
「でがさね、オメってやつぁ、なんでかんで、でがさねよぉ」




