03
今朝は、ごめん、って言おうかな。いや、いくらオレが悪いと言ってもそこまで悪いか?
ただ「静かにしてくれない?」と頼んだだけなのに。
まどかもようやく眠り、双子たちも昼間の疲れでもうとっくに夢の中。ようやく落ち着ける夫婦の時間。少し話をしようと思っていたのに、彼女はテレビに気を取られていた。夜遅いのに、なんだかマンガみたいに騒がしいドラマだった。あんなのが楽しいのか? しかも音量がすごい。子どもが起きるぞ、静かにしてくれない? そう言っただけだ。なのに全然気がつかなかったので、こちらを見てもらおうと、スイッチを切っただけ。その後が、すごかった。あんなに泣かれたことはなかった。
廊下に出ても、しん、としている。すでに朝の六時半を過ぎていた。双子はともかく、由利香だけでなく、まどかだって起きている時間だ。おかしいな。
昨夜のことで本気で怒って、みんなして家を出たのかな?
何かがおかしい、ようやく気づく。いい匂いがしてないか?
居間をのぞいて、椎名さんは動けなくなった。由利香たちがいなかったからではない。
そこに、いつもの光景が広がっていたからだ。
テレビがコマーシャルを流し、由利香がフライパンを動かして、こちらに振り向き何か言っている。まどかが脱いだパジャマを拾い上げ、こちらに走ってきた。どん、と彼にぶつかり顔を見上げて丸い口をあけて笑った。
すべての音が、消えていた。
「どうしたの?」由利香の口が、そう動いた気がした。
「パパ」まどかの口も、動いていた。
彼は、口を開いた。声が出ている感じはした。しかし、その音も消えていた。
「なにも、きこえない」
多分、そう言えたと思う。由利香がフライパンを置いて口をおさえた。