01
目が覚めると、あたりは静まり返っていた。
静かなのは当たり前といえば当たり前なのだが、何か、いつもと違う空気を感じて彼は時計をみる。
まだ二時前だった。
―― だからなのだろうか。それにしてもどうしてこんなに半端な時間に目が覚めたのだろう?
サンライズはとりあえず着替えてカーテンを開けた。
黒く静まり返った木々の影を、あまたの星が照らしている。
なだらかな盆地の裾がずっと向こうまでつながっているのが、見えるような気がした。
その時、車のライトが何台か、センターから出て行くのに気づいた。センター前の私道を列になって進み、その後は右に左に分かれていく。
数えただけでも、五台出て行った。この時間にどうしたのだろうか。
部屋を出て、ライトニングの部屋に向かう。
まだ眠っているだろうが、何となくいやな予感がした。
案の定、部屋にはセンター長とオザワ看護師がいた。サンライズの姿をみると一瞬顔色を変えたが、すぐにいつものように
「どうしました?」
とにっこりした。
「そちらこそ、どうしましたか? ライトニングはどこ?」
オザワがセンター長をみた。センター長が彼女に何か早口で伝えた。オザワがまたこちらをみて、手話で答える。
「ライトニングはいません。外に出かけました」
ふと、オザワの白衣のポケットにたたんだ紙が入っているのを目にとめ、彼は近づいてさっと抜き取った。
「あっ」
オザワがあわてて取り上げようとするのを、少し高い位置で拡げて目を通す。
研修でいつも使っているレポート用紙だった。
相変わらずライトニングの字はきれいに整っていた。
「センターのみなさま
短い間ですがお世話になりました。
父と話し合いの必要があり、いったん実家に帰ることにしました。
このままではご迷惑をおかけするので、すっきりしたらまた来ます。
サンライズ先輩が心配しないように、帰ったことは内緒にお願いします。
菅野和輝」
センター長が手紙を受け取った。
「キミにも迷惑をかけてすまない」
「いなくなったのは何時ですか」
オザワが答えた。
「0時の巡視で気がつかなかったのですが、いなくなっていたかも」
ダミー人形も簡単に作る器用さだから、布団を何かでふくらませて出かけたのだろう。
「気づいたのは、ついさっきです」
オザワはすっかり青ざめている。センター長はなぐさめるように肩に軽く触れてから、サンライズに向き直って言った。
「こちらで何とかするから、キミは部屋に戻ってくれないか? 頼む」
つまり何もするな、ということか。
反論しようとしたが、
「分かりました」と答えてきびすを返す。
とりあえず、この場からは退却と決めた。
部屋に戻ると急いで上着を羽織り、支度をした。
―― 今、動かなければいつ動ける?
気ばかり焦る。しかし外に出ても何ができるだろう。センター長とオザワの、自分を見る目を思い出した。
―― 誰に頼ればいい?
答えは一人しかない。
彼は靴を履き替え、そっと看護師詰め所に向かった。




