03
日曜日。
基本的に個人で勝手に過ごせる日なのだが、着替えて自室で食事を終えたサンライズは、それでも気になってまず、ライトニングの部屋を訪ねてみた。
布団がきっちり畳まれて、すでに彼の姿はなかった。
「おはようございます」
ちょうど、ライトニングの担当看護師オザワが入ってきたので
「彼はどこに?」
と聞くと、ちゃんとした手話で
「家族と面会があって、下の会議室に行きましたよ」
―― えっ? ここでは家族に会えないのでは?
「あっ、ええと」
オザワはサンライズに気をつかうように言葉を選んで
「弟さんがね、いらっしゃったものですから」
なんか納得いかねえ、妻や子はNGで、弟はOKなのか?
それとも今回の件で、弟もここで保護することになったのだろうか?
「オレも見に行っていいかな」
基本ヤジウマなサンライズがオザワに聞くと
「え? そうですねえ、多分……」
とはっきりしない。
「いいよね?」
「ちょっと……」
オザワはかなり困っている。そこにちょうど、サンライズの担当看護師、サトウが入ってきた。
「あ、アオキさんここにいたのね、探したわ」
くい、と指で招いた。
「支部長がおいでになってるから、すぐ来てくださいって」
ちぇっ、と舌打ちして、オネエサマの伝えた会議室へ降りていった。
廊下に出てから下に降り、会議室に向かう途中、ふと食堂の入口に誰かが立っているのに気づいた。
初めてみる顔だ。やや細身で小柄。
白いTシャツに明るいカーキ色の作業ズボンをはいている。
向こうに顔を向けて、自分がどこにいるか考えているようだった。
こちらを向いた顔は、丸くて明るく、とても幼くみえた。
「あれ」
と気づかないうちに声を出したのだろうか?
彼はサンライズの姿を認めて、とことこ寄ってくる。
丸い顔に眼鏡、笑顔を浮かべ、彼をじっと見つめた。
サンライズもじっと見つめてみた。
この眼に、見覚えがあるぞ。思っているうちに手をとられ、ぐいぐいとひっぱられた。
何か言ったようだが、耳がきこえない、分からない、と伝えても全然お構いなし。
でも不思議だ。何だか温かいものがじんじんと流れ込んでくる。手を引かれているのが、とてもうれしい。
食堂の中にある自販機前まで連れて行かれた。
「どれにしたい?」
と聞いているようなので、
「オレは今いらない。呼ばれてるから行かなくては」
それは分からなかったのか、彼はズボンのポケットから財布を出し、しばらくお金を入れる場所を探していたが、サンライズが財布を指して、手を振ってみせた。
「お金は必要ない、ボタンを押すだけ」
彼はびっくりしたように機械を見た。ひょうきんな表情だ。
「キミは何を飲む?」
と聞くとそれはすぐ分かったらしく、カルピスを選んで押した。
カップが落ちて、飲み物が出てくる間、彼はうれしそうに受け口をのぞきこんでいた。
出終わってもまだ、うれしそうにのぞいている。
ぽん、と肩をたたいて
「おしまいだよ」
と言ってやると、ようやく後ろに下がった。
テーブルに案内して、
「じゃあな」
と手を振ると彼もにっこりと手を振り返した。
ほのぼのした気分だ。なんだかすごく得をしたような感じで、サンライズは足取り軽く会議室に向かった。




