03
しばらくは、男の髪がちくちくする感触と、追いつめられたような汗の匂いだけが気になった。が、呼吸を合わせるうちに何かが変わってきた。
深く、ふかく、息をあわせる。
白っぽいぼんやりした光、最初は小さな点だった。それがだんだん広がってきて、もやもやした中から低い声が聴こえた。
「なにを」
―― オレに聞いているのか? 何を聞きたいのか、ということなのだろうか?
ライトニングは、合わせたように低い声で、しかしはっきりと男に語りかけた。
「分かっていることを、全部話せ」
「まずなにを」
「どこに所属している」
書記があわてて、ペンを走らせる音が響く。
「大尉の特別班」
―― タイイ? なんじゃそれは。
「これは極秘だ」
―― そんなことわかっとるわ。だから聞いてるんだ。
「何を秘密にしている?」
「一人捕まえて、連れ帰る」
「どこに」
「まず会津若松、ヤツの父親がいる」
―― やっぱ、うちのオヤジの差し金か? しかしタイイって何だろう?
動悸が激しくなってきたが、ぐっとこらえて更に質問を重ねる。
「ソイツが書類を作って待っている、ヤツの自筆署名と銀行の暗証番号がほしい」
―― じいちゃんから相続された土地の権利のことだ。
祖父は自分の息子の性格と将来をかなり心配して、孫二人にほぼすべての財産を分け与え、父親には会社しか残さなかった。
それでもそこは堅実な運送会社で、支社もいくつもあった。
立ち直るチャンスだったのに、父親はそれをすべて食いつぶしてしまったのだった。
「タイイは何の関係が?」
「ミスター・Bは元大尉だった、今は別の組織で人材を集めている」
「組織の名は」
「聞いていない。知れば殺される」
「なぜミスター・Bはそのオヤジと関係がある?」
「彼の息子が試験を受けた、組織のダミー会社」
―― え? オレか?
バイトを探して、いくつか会社を訪ねたことはあった。あのうちの一つのことだろうか?
「驚くべき結果が出て、大尉の興味をひいた。作戦に使えると」
一瞬、手を離しそうになったがぐっとこらえる。
「一足遅く、逃げられてしまった、こっちに」
「父親が探していたわけでは、ないんだな」
「大尉が父親を捜し出した。彼も息子を捜してはいた、金が欲しくて」
利害関係が一致したわけだ。
そして二人は仲良くなりましたとさ。
「そうか」
ライトニングは目を閉じて、意識を前に集中したまま次の質問を続けた。
「もう少し、細かいところを聞こうか」




