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02

 ライトニングはすでにぼんやりした頭で、サンライズが立ちあがって捕虜の傍らに歩み寄るのを見つめていた。


―― センパイ、何するつもりなんだ。また殴るのか?


 サンライズが手話で彼に伝える。

「動かないように言ってくれ」

 そうして、男の頭を脇から両手で包むように挟みこんだ。

 半分眠っていた男は身を振りほどこうとした。ライトニングが声をかける。

「動くな、絶対に」

 付け足して

「死ぬぞ」

 と言ってみる。

 さすがに男は、ぴくりともしなくなった。


 サンライズは、男の頭を挟んだまま、自分の額をゆっくりと押しあてた。


 目をつぶり、集中している。

 男の呼吸が、目に見えてせわしなくなってきた。サンライズも呼吸を合わせている。

 男が吐けば、同じように吐き、あえぐように吸いこむ時には同じタイミングで、しかし、少しずつ深く、ゆったりとペースを変えていった。

 最後、静かな深呼吸程度の動きになった頃には、男の表情に変化がみられた。

 まっすぐ前を見て、リラックスした表情を浮かべている。

 それに引き換え、サンライズの表情が苦しげに歪んでいた。呼吸は静かに繰り返しているが、かなり無理をしている様子が伺えた。汗がこめかみを伝わって滴り落ちている。

 急に電気でもくらったように、サンライズが跳びのいた。同時に、座っていた男が大きくあえいだ。

 テーブルに手をついて、急に水から上がったかのような荒い息をしている。

「センパイ!」

 ライトニングがはじけるように立ちあがった。

「だいじょうぶ」

 サンライズは言葉に出したつもりのようだったが、ほとんど分からなかった。弱々しい手話がついた。

「だいじょうぶだ」

 よろめきながら元の席に戻り、袖口で汗を拭いてから、ようやく彼の方を見た。

「今のを、今度はオマエがやってみろ」

「え?」

 今からですかぁ? という顔になったようだ。

 すでに一時過ぎになった時計を指さすが、サンライズは腕組したままじっと見ている。

 思わず書記さんと目が合った。書記も一瞬、うんざりした表情を浮かべたが、

「やっちゃって下さい」みたいに肩をすくめたので、仕方なく立ち上がる。


 前の男が身を引こうとした。

「やめろ」

 ライトニングは、あえて非情な声を出そうと努力する。

「オマエが話す気がないんだったら、もう一度やるしかない」

 サンライズがやったように、横から男の頭を挟んで、額を近づけた。

 そして、すぐそばの耳にささやく。

「動くと、命の保証はないぞ」


 そして、集中した。

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