03
ライトニングがどぎまぎしていたのには、実はもう一つ重大なワケがあった。
「やっべえな」
サンライズから見えない位置に立った時、思わず口から出る。
トラックに見覚えがあった。あったどころじゃあない。
オヤジの会社の車だ。
正確に言うと、元、オヤジの会社だった所の。
菅野運送はすでに人手に渡っているはずだ。名前も「会津ロジテック」に変わり、経営者も全然違う。しかし、こんな黒服連中を使うような会社ではない。経営者は顔見知りで、父の知り合いの、人のいいおっちゃんだ。
―― コイツらは、オレをさらいに来たのかも。オヤジの仕業なのか。
東京ならば見つかるまいと思っていたが、まさかこんな形で福島に戻ってくると思ってもいなかったので油断していた。
とにかく、サンライズ先輩だけでも守らないと。ただ巻き添えをくっただけだし、あの状態ではジャマだと言われて殺されてしまうかもしれない。
だって銃持ってんだぜ、オレに向かって撃って来やがったし。
片隅に一メートル程の長さの鉄パイプが転がっていたので、手に取る。
そして、前の方をガンガンたたいてみる。
車が止まった。それからまたゆっくりと走り出した。少し曲がったりもしたので、どこか人通りのない所に入り込んでいるのかと思えた。
―― オレが仲間じゃないの、バレてるかな?
車は完全に停車した。サンライズに立ち位置を指定し、前を空き箱で隠す。
自分も入り口近くに戻り、人形がすぐに見えないように調整しながら、扉が開くのを待った。
福島開発センターでは、大騒ぎになっていた。
「ライトニングの連絡では、二人組男性、180前後、黒の上下、短髪、黒いサングラス、片方はサイレンサー付きオートマチック銃所持、一弾発砲」
「ジム連絡員は? 受付に待機してただろう?」
「確認します」
センターでは、こんな事態は今までありそうでなかったので、すっかり浮足立っていた。
いつもは看護師として勤務しているサトウ・キョウコも今はセンター医局部特務課付きの本来の貌に戻っている。
耳を澄ませ、受信機に耳をこらす。
ようやく連絡員から報告が入った。
「車は『会津ロジテック』ロゴの入った小型バンボディ、ナンバーは不明。隠してあったようです。車体は白、国道115号を南西へ逃走。サンライズは意識不明のまま、ライトニングは……えっ?」
しばらく耳を澄ませていたが、青くなって立ち上がりかけた。
「たいへん、黒服に着替えて、一緒に乗り込んだって」
「え?」
センター長もびっくりしている。
「どういうことだ?」
「会津ロジテック、ってアレですよ」
ライトニングの担当看護師、同じく特務課付きのオザワ・ナミエが思いだしながら口に出した。
「ライトニングの父親が、前に経営していた運送会社の……」
「しまった」
スタッフがざわつく。
「ライトニングが裏切ったのか?」
「まさか……」
追跡車両の手配をかけながら、センター長は終始、難しい顔を崩そうとしなかった。




