01
翌週の金曜日、ジム通いも五回目となった日。
ランニングの途中、急にライトニングが立ち止まり、入り口のほうを向いた。
サンライズは全然気づかなかったが、受付の女性が、ライトニングを呼んでいたようだ。
彼はサンライズをみて何か声をかけてから、女性の方に駆け足で向かった。「急用みたい、ちょっと待ってね」
と言ったようだった。
ライトニングと相手としばらく立ち話をしていたので、サンライズは一人で先に次のメニューに移る。マシントレーニングだった。
ここの初回時に、軽く腹筋運動をしてみたら、なんとなく腹がつかえてきたかな、と感じてショックを受けていた。
なんと言っても、三食きっちりいただけるようになりましたから。
体調が悪いわけではないので、腹は減る。しかも、福島のご飯はとびきりうまかった。
オレはこれから福島米を買おうと心に誓った。
それでも、五回目ともなると、少しは無駄なぜい肉が減ってきた、かも知れないし。ホント、気のせいかも知れない。
それでもサンライズ、いつものようにパワージムに座る。
窓の外は今日も白くもやっている。
それでも、いつものセンターと違う風景かと思って、少し気分がすっきりした。
―― ライトニング遅いな。
何度かチェストプレスとペッグデックをやっていたが、まだ姿を現さない。
もしかしたら、声をかけずに後ろで個別メニューをこなしているのか。
ちらりとふり向いてみたが、だれもいなかった。
ダンベルを使ったベンチプレスに移る。
しばらくトレーニングに集中していたが、すぐそばに気配を感じてはっと起き上ろうとした。
いつの間にか傍に寄っていた二人組に、ベンチに押さえつけられた。
体がびくともしない。
頭の方に立った男が、ダンベルをそっと床に置いて、彼に向き直った。
サイレンサー付きのオートマチックをこめかみにつきつけている。
黒のスエット上下に、顔を隠すためかサングラスまでして、絵に描いたようなワルい感じ。
何か言ったが、判りようもない。彼はだらんと寝転んだままじっとしていた。
また、何か言った。脅しているようだ、多分。しかし脅しがいはないだろう。自分で想像するしかない。
「奥歯ガタガタ言わしたる」なのか「スマキにして阿武隈川に放り込むぞ」なのか。もしかしたらお国言葉かもしれない。
案の定、殴られて彼は床に落ちた。
男たちは彼を片隅の、入り口から少し見えにくい位置まで急いで引きずっていった。
手が離れたので、とりあえず手話をしてみる。
「ぜんぜん聴こえない」
相手はまた何か言った。判らないヤツらだ。もう少し判り易いジェスチャーにしてみた。しかし、まだ何か言っている。
せめてライトニングがいれば。いや、いたらもっと危険か。まだ実戦経験がないし。
それにコイツらは何者だ?
もっと判り易い手段でないとダメか?
「あ、あああ」
声を出してみる。
「ミミガキコエナイ」
何度か、繰り返して言ってみたらようやく通じたらしい、しかしもっと殴られた。
オマエらにはいたわりの心がないのか?
「書いてくれ」
二人は、少しだけ何か相談していた。
銃を持っていない方の男が、はっきりと口を開けて、彼に話しかけてきた。
「カミガナイ」
紙がない?
じゃあ、取ってこいや。と言いたいけど、お忙しいようですね。
「モウヒトリ、ドコニイル」
指を一本立てて、フロア全体を眺める様子をした。コイツは多分、手話を習ったらスジがいいだろう。
もう一人、と言っているがライトニングを捜しているのだろうか? それともまとめて片付けてやろうと思っているのか?
ああ、何の関係者なのか聞きたいぞ。名刺でも持ってないのか。
「さっき、出て行った」
声に出ているか分からないが、言ってみた。
「外に」
だんだん、自分のしゃべる日本語が怪しくなってきたように思える。銃を突きつけられたので「本当だ」とあわてて言い添える。
二人は、早口で何か相談を始めた。と、急にきっとなって身をこわばらせる。
気がついたサンライズ、マシンの脚の間から、入り口側に目を走らせる。誰も見えないが多分、声がしたのだ。
入り口の柱に人影が映った瞬間、彼は叫んだ。
「来るな、銃を持ったヤツがいる」
頭だけのぞいたライトニングの、えっという表情だけ見えた。脇の男が撃ったのが判った。柱の角が砕け散り、ライトニングのシューズをはいた足が安全な方向に跳んだのをみた。同時に、もう一人の男にしたたか頭を殴られ、その後は目の前が真っ暗になった。




