表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/46

01

 翌週の金曜日、ジム通いも五回目となった日。


 ランニングの途中、急にライトニングが立ち止まり、入り口のほうを向いた。

 サンライズは全然気づかなかったが、受付の女性が、ライトニングを呼んでいたようだ。

 彼はサンライズをみて何か声をかけてから、女性の方に駆け足で向かった。「急用みたい、ちょっと待ってね」

 と言ったようだった。

 ライトニングと相手としばらく立ち話をしていたので、サンライズは一人で先に次のメニューに移る。マシントレーニングだった。


 ここの初回時に、軽く腹筋運動をしてみたら、なんとなく腹がつかえてきたかな、と感じてショックを受けていた。

 なんと言っても、三食きっちりいただけるようになりましたから。

 体調が悪いわけではないので、腹は減る。しかも、福島のご飯はとびきりうまかった。

 オレはこれから福島米を買おうと心に誓った。


 それでも、五回目ともなると、少しは無駄なぜい肉が減ってきた、かも知れないし。ホント、気のせいかも知れない。


 それでもサンライズ、いつものようにパワージムに座る。

 窓の外は今日も白くもやっている。

 それでも、いつものセンターと違う風景かと思って、少し気分がすっきりした。


―― ライトニング遅いな。


 何度かチェストプレスとペッグデックをやっていたが、まだ姿を現さない。

 もしかしたら、声をかけずに後ろで個別メニューをこなしているのか。

 ちらりとふり向いてみたが、だれもいなかった。

 ダンベルを使ったベンチプレスに移る。


 しばらくトレーニングに集中していたが、すぐそばに気配を感じてはっと起き上ろうとした。


 いつの間にか傍に寄っていた二人組に、ベンチに押さえつけられた。

 体がびくともしない。


 頭の方に立った男が、ダンベルをそっと床に置いて、彼に向き直った。

 サイレンサー付きのオートマチックをこめかみにつきつけている。

 黒のスエット上下に、顔を隠すためかサングラスまでして、絵に描いたようなワルい感じ。

 何か言ったが、判りようもない。彼はだらんと寝転んだままじっとしていた。

 また、何か言った。脅しているようだ、多分。しかし脅しがいはないだろう。自分で想像するしかない。

「奥歯ガタガタ言わしたる」なのか「スマキにして阿武隈川に放り込むぞ」なのか。もしかしたらお国言葉かもしれない。

 案の定、殴られて彼は床に落ちた。

 男たちは彼を片隅の、入り口から少し見えにくい位置まで急いで引きずっていった。

 手が離れたので、とりあえず手話をしてみる。

「ぜんぜん聴こえない」

 相手はまた何か言った。判らないヤツらだ。もう少し判り易いジェスチャーにしてみた。しかし、まだ何か言っている。

 せめてライトニングがいれば。いや、いたらもっと危険か。まだ実戦経験がないし。

 それにコイツらは何者だ?

 もっと判り易い手段でないとダメか?

「あ、あああ」

 声を出してみる。

「ミミガキコエナイ」

 何度か、繰り返して言ってみたらようやく通じたらしい、しかしもっと殴られた。

 オマエらにはいたわりの心がないのか?

「書いてくれ」

 二人は、少しだけ何か相談していた。

 銃を持っていない方の男が、はっきりと口を開けて、彼に話しかけてきた。

「カミガナイ」

 紙がない? 

 じゃあ、取ってこいや。と言いたいけど、お忙しいようですね。

「モウヒトリ、ドコニイル」

 指を一本立てて、フロア全体を眺める様子をした。コイツは多分、手話を習ったらスジがいいだろう。

 もう一人、と言っているがライトニングを捜しているのだろうか? それともまとめて片付けてやろうと思っているのか?

 ああ、何の関係者なのか聞きたいぞ。名刺でも持ってないのか。

「さっき、出て行った」

 声に出ているか分からないが、言ってみた。

「外に」

 だんだん、自分のしゃべる日本語が怪しくなってきたように思える。銃を突きつけられたので「本当だ」とあわてて言い添える。

 二人は、早口で何か相談を始めた。と、急にきっとなって身をこわばらせる。

 気がついたサンライズ、マシンの脚の間から、入り口側に目を走らせる。誰も見えないが多分、声がしたのだ。

 入り口の柱に人影が映った瞬間、彼は叫んだ。

「来るな、銃を持ったヤツがいる」

 頭だけのぞいたライトニングの、えっという表情だけ見えた。脇の男が撃ったのが判った。柱の角が砕け散り、ライトニングのシューズをはいた足が安全な方向に跳んだのをみた。同時に、もう一人の男にしたたか頭を殴られ、その後は目の前が真っ暗になった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ