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01

 昼食後、サンライズはとりあえずちゃんと顔を洗い、髪をとかしてからトレーナーに着替えた。


 ライトニングの部屋に着くと、すでに何か本をみながらやっている。

「おはよう」

 声をかけると、へたくそな手話で「午後だよ」と返した。

 手話を習っているらしい。レポート用紙にもいろいろ勉強内容が書いてある。

「なになに」手話によるナンパ方法。

「渋谷でお茶でもいかがですか?」いいねえ。

「まず、何をやるんですか、センパイ」

 彼がシェイカーだというのも聞いたようだ。いや、元シェイカーか。

「何か資料もらってるだろう?」

 ちゃんと声が出ているのか、イントネーションもついているのか分からないが、相手には伝わったようだ。

 あ、と口を丸くしてからごそごそとテレビの横から赤いA4のバインダーを引っぱり出した。

「あった、これかな? ええと一週目第一日目。自室にて」

 最初のページを彼にも見えるように拡げた。


「お互いに、はい/いいえで答えられる質問を三〇〇ずつして記録すること。

 質問者と回答者は一問ずつ交互に立場を入れ替えること。

 質問側への注意点。個人的な情報を聞く、必ず『はい』か『いいえ』で答えられるものにする、相手に極度の不快感を与えない内容とする、同じ内容のみを、言葉を変えただけで何度も聞かない。

 応答側への注意点。必ず『はい』『いいえ』のどちらかで答え、『わからない』『答えたくない』等は無しとする、必ずできる限り即答する、

 両者への注意点。メールによる間接的な質疑応答をせず、研修時間中に直接向き合ってすべての項目を終えること。記録は質問者側が行う。答えに対する補足は記録に残しても残さなくてもよい」


 これだけだった。


 なんじゃこりゃ、てな感じもしたが、仕方がない、やらねば終わらない。


 ライトニングから一枚、紙を受け取って部屋の隅にある小テーブルに移動する。

 向かい合わせに座れるようになっている。

 サンライズは入り口のみえる窓側を選んだ。


 まずは質問、サンライズから。手話を使ってみた。

「この療養所近辺の地理に詳しいのか?」

 はい、の手話。

 次、ライトニング。口を見ろ、と言っている。

「結婚しているの?」

 はぁ? 

 分からん、もう一度言ってくれ。と返す。

 子どもの頃、こんなことをして遊んだ覚えがある。

「ケッコン、シテイルノ?」

 ようやく分かった。「はい」。

 そうだそうだ、次の質問。

「彼女はいるのか?」

 にやっとして、ライトニングは「いいえ」。次は彼から。

「今どんな気分?」

 手話を使っている。少し考えて、これでは答えられないと気づいてあわてて付け足す。

「正直、ここにいたくないと思っている?」

 もちろんだ、とサンライズは強くうなずく。

「オマエはどうだ、ここにいるのは満足か?」

 意外な事に、少し迷ってから彼は

「いいえ」

 と答え、少し肩をすくめた。


 質疑応答は、嘘をついてはいけないという規定はないようだから、この反応は要チェックかもしれない。サンライズは質問項目の頭にレ点をつけた。

 次の質問の冒頭を見逃してしまった。

「……好き?」はい? ごめんもう一回。

「奥さんのこと、愛してる?」

 答えにくいことを次々とよく聞く小僧だ。

「はい」わざと強く答える。

「さっき満足していない、と言ったが……」

 少し気になることを聞いてみる。

「ここから逃げようと、思っている?」

 彼は即座に「いいえ」と答えた。目をみると本気らしい。


 ここの暮らしはうんざりだが、外には出たくないのか。

 地元に愛着がないのか、何か問題があるのだろうか?


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