03
「奥村くんから聞きました」
オクムラ? 誰だそれは?
心の声を見透かしたように、男は付け足した。
「局長の奥村くんですよ」
局長を『クン』づけかよ、どんなに偉いんだオノレは。
「昔からの付き合いなんです。それより、私はこういう者です」
名刺を出してきた。貴生の持ってたものよりも、倍は厚そうだ。
「なに……ミロク?」
「読み方は『マイロック』です」
聞いたことねえ。食ったこともねえし。
「マイロック、東日本支部支部長 中尊寺清孝」
何だか、仏教系の人だろうか? そう言えば、この顔、どこかで見たようだと思ったのは、どっかの寺にある仏像だ。でかいヤツ。
「はあ」
貴生は、名刺を右手にはさんだまま、片足ずつに重心を掛け直して次の言葉を待った。この会社が何か買ってくれというんだろうか?
「何を売ってるんです? 布団とか?」
聞いてみた。
何を商っているのか知らんが、オレにはそんなモノ買う余裕はない。
「いえいえ」
面白そうに相手は両手を振った。
「実はね、アナタにうちで働いていただきたくて……スカウトに来たのです」
「スカウト?」
布団を売れだって? それとも金の先物取引か?
その後、どうして話を聞いてしまったのかがいまだに大きな謎だ。
そして今、気がついたら彼はここにいる。




